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『あつく流れる、チーズの糸』ヒスイの鍛錬・100本ノック⑪

『あつく流れる、チーズの糸』

 チーズのとける匂いがする。
 あたしは宿題をやめて、キッチンにいるヒスイ叔母さんを見た。叔母さんはオーブンの中のピザをみている。見たって早く焼けるわけじゃないけど、叔母さんは短気なんだ。

「ヒスイちゃん、あのさあ」
「ん?」
「あたしの友だちがね。同じ学校の子から、インスタでよく知らない子にフォローされて。放っておいたらブロックされたんだって。何がしたいんだと思う、その子?」

 叔母さんは立ち上がった。
「さびしいんじゃないの、誰かにかまってほしいとか」
「だよね。だけど、その子に気を使って”ブロック返し”をしない、っていうのは、モヤモヤしない?」

「気を使うより、ブロックをして自分の気持ちがすっきりするかどうかが大事でしょ。さっぱりしたいなら、ブロック返し、ってやつをやればいい――でもね」

 叔母さんはまたオーブンを見た。
「人間関係っていうのは、目に見えない糸がからみあってできている。一刀両断するのは爽快かもしれないけれど、切るつもりのなかった糸まで、切れてしまうこともある。
だからあたしは、モヤモヤのまま放置しておくのよ」

「叔母さん、短気なわりにのんきだね」
「短気だから一度は忘れる。十年たって思い出して腹立たしくて、あらためて心の中で切りなおすこともある。
結局は、あんたがすっきりすればいいのよ」
「なんで、あたしの事ってわかるの」
「”友達のこと”はたいてい本人のこと。自分の問題を、人に転嫁するのはやめなさいね」

 叔母さんは棚からキッチンバサミを取り出した。大きな皿を準備する。チーズがとける匂いが強くなる。
 オーブンから出されたピザは、キッチンバサミでチョキチョキされた。八等分されたピザがテーブルにやってきた。

 「どうぞ、澄」
 あたしはピザを取る。断面から熱いチーズがとろとろと流れ落ちた。
 チーズの糸を切らないように切らないようにして、あたしはピザを口に入れた。

 あの糸は。
 まだ切らないようにしよう、と思った。

ーーーーー了ーーーーー

#NN師匠の企画
#ヒスイの鍛錬100本ノック

100本ノック 次のお題:(ニセモノ・三校)→詐欺→D&G

※師匠へ業務連絡でございます。
 ニセモノ、3校目がまだ上がっていませんが、
 こっちを先に出します。
 澄に伝えたいことがあったからです。
 
講評は、後ほど いただければありがたいです。  
                  ヒスイ拝

トップ画像は「micaelabustamantefgによるPixabayから」

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ヒスイ~強運女子・小粋でポップな恋愛小説家
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