青子(仮)
桜前線の北上が早かったため、気づけば九州から春を彩る存在はほぼいなくなった。
近くの公園を明るく照らしていたあの子も、川沿いにピンクのトンネルを作っていたあの子も、その全てが遠い初春の世界に旅立ってしまった。
なんだか悲しい。すっかり木々には葉が茂っている。
さて、昔から悩んでいることがある。
桜が散ったばかりだが、木々に葉が茂り始める時の桜は、なんとお呼びすれば良いのだろうかと言うことだ。
「葉桜」は古来から用いられる語句ではあるが、まだまばらに葉がつく桜のこともそう良いのだろうか……
想像してみてほしい。
まばらな葉に守られた木を葉桜と呼ぶ。
青々とした葉のマントに全身を包んだ木を葉桜と呼ぶ。
この二つの状態を「葉桜」という言葉で括ってしまって良いのか。
焼き鳥串の盛り合わせを頼んだ。
なのに、大皿の上に串が5本だけ乗っている。
もしくは、串は15本あるが、それぞれにわずか2個の貧相でこじんまりとしたお肉しかついていない。
それらを「盛り合わせ」と呼んで良いのか。
うーん、全然しっくりこない。気持ち悪いぞ葉桜。
2週間前まで心を躍らせてくれたじゃないか。なんですぐに心変わりして、私を傷つけようとするんだい???
これは困った。調べるしかない。
すると葉桜の意味は容易に出てきた。
「桜が散り、若葉がで始めた頃の桜の木」を指す、とな。
えええじゃあ夏真っ盛り、蝉がわんわん鳴く舞台として威勢を放つあの木々のことを葉桜とは呼ばないのか。
うええ、考え方を抜本的に変えないといけないじゃないか……
焼き鳥の盛り合わせがすかすかでも、私は許さなければいけない。
だって葉桜は、葉が生まれたばかりの頃を指すのだから。
ちょっとこじつけすぎたが、長年の謎が解けたような解けていないような、やっぱりまだまだ気持ち悪い状態は続く。
日本語は奥深い。
奥深さの原点に日本語は存在するはず。
なのに、どれだけ調べても、葉桜を超え、青々と茂るあの子を表現する言葉が見つからないなんて。
なんというお粗末。
桜は国の宝じゃ無かったのかオーマイ。
なんだかもやもやが止まらないから、調べてて気になった情報を備忘録として載せておこう。
いつかまた戻ってきた時、その時の私は青子(仮)の別称を見つけているかもしれないから。頼むぞ明日以降の私。
葉桜。英語で「a cherry tree in leaf」
独特の香りを放つ葉の成分の名前は「クマリン」。
かわいいじゃないかよっ。