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デジタル造形作品 "Le Poilu 1918"
新作「Le Poilu 1918」の造形が完成しましたのでご紹介。
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作品について
この作品は、第1次世界大戦時のフランス兵(通称「Le Poilu」)を題材としたものです。
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この作品は、実際の戦場写真などの特定のモデルを模写したわけではありません。当時の戦場写真資料をもとに私が想像で作り上げた架空の人物です。
長引く塹壕戦の戦火の中、移動中に休憩を取っている様子をイメージしました。
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第1次大戦時のフランス兵の愛称はナポレオン時代からの起源を持つ「Le Poilu(毛むくじゃら男)」。強い男らしさをアピールするためヒゲを蓄えた風貌の彼らについたニックネーム。戦場に赴く前は勇ましかったその Le Poiluも、長引く戦争と泥沼の塹壕戦で疲弊し、帰れないかもしれない故郷に虚ろな目で思いを馳せ・・・という様子を表現しました。
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3Dスキャン時代にフルスクラッチで造形する意味
3Dスキャンのミニチュアやフィギュアが当たり前になった現代、フルスクラッチで人物を造形する意味と価値は何か?と考え続けていました。そして、私なりに行き着いた答えのひとつが
「メタファーとしての架空の人物の創造」
です。
3Dスキャンフィギュアはベースとなる実在の人間が必ず存在します。本物の軍服を来ていてもそれは実際にその当時の人物ではなく、現在この世のどこかに生きているモデルさんが軍装を来て最新機器でスキャンされたものです。
もちろん、スキャン自体は単なる「形状のデジタルデータ化」です。生きている人間のようなリアル感があるかはペインティングなどの表現力で大きく違いが出ます。
しかし、形状に関しては実際に本物が実在するものの忠実な複製であるため、リアルであることは間違いないでしょう。その造形がまるで本物の人間のように一つ一つに違いや個性がありリアルであるのは特段驚くことでもなく、至極当たり前の話です。
土台となる素材がスキャンという武器を手に入れた現代では、フルスクラッチで造形することに意味はない、造形師の手グセ感のある造形は要らない、という向きもあるかもしれません。いや、スケールモデルファンの多くがその意見かもしれません。
しかしそれはあくまでもスケール模型世界での、大量生産品として製品化されたキットの表現に限った狭い範囲での価値観だと私は考えています。幅広く見た「造形表現」そのものを否定する考えです。
フルスクラッチでの表現の価値は、単に現実の人間のように形状的にリアルであるかどうかだけではなく、
創り手がイチから人物表現を創り上げていくことそのものに意味と価値がある
と私は考えています。その答えのひとつがメタファーとしての架空の人物の創造、即ちオリジナルキャラクターの創造、というわけです。
この「Le Poilu」も、たくさん存在したであろう戦死した人たちのメタファーとしての存在、という意味を込めて創った架空の人物像です。それは3Dスキャンで単に実在の人物の形状を正確になぞるだけは出来ない造形表現の意味と価値の一つであると考えています。
モデリングについて
人体造形・装備品のモデリング・レンダリングとも全てBlenderを使用しました。パーツ数が凄い量になっています。このようなパーツ数の多いモデリングの際にBlenderのフォルダ管理機能はとても便利です↓。
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ZBrushはパーツの管理画面が非常に使いづらいのが欠点。この点もBlenderの大きなアドバンテージのひとつと感じます。
今回の造形で最も時間がかかったのがバックパックの造形↓。
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モデリング自体もそうですが、資料の収集・考証・装備方法の分析などに特に時間がかかりました。
(余談)
ミリタリーやヒストリカルミニチュアの造形ではこのような装備品や考証に関して必ずと言っていいほど厳しく細かい批評が飛んできます。私の場合ですが、「これまでダメ出し批評が飛んでこなかったことは一度もない」、というくらいです。
批評を受け入れるのは苦い薬を飲むような作業です。このあたりの受け入れ・スルーのさじ加減は見極めないといけません。人間ですから、何十時間もかけて作った作品に細かいダメ出しばかり受け続けるとうんざりしてモチベーションが下がります。
何でもかんでも受け入れるのではなく、自分の中に基準を設けておくのが良いでしょうね。私もある程度は線引きする物差しを持つように心がけてます。
(余談おわり)
まとめ
作品「Le Poilu 1918」について紹介と解説を書いてみました。今までは見る側が自由に解釈して欲しい、という意図で作品についての解説はあまり書きませんでした。しかし最近は「作品の言語化も表現のひとつ」と考えを改めるようになりました。とくにミリタリーやヒストリカル作品は作者が意図するものが一般には伝わりにくい側面があります。入口部分を言語化することで作品に込めたメッセージが少しでも伝わりやすくなれば、と考えています。
ではまた。