ペインティングに本気で取り組むならスカルプトするべき
ソフトウェアに本気で取り組むなら
ITの巨人アラン・ケイの名言に
「ソフトウェアに本気で取り組むなら自分でハードウェアを作るべきだ」
というのがあります。スティーブ・ジョブズが引用して有名になりました。
Appleは黎明期からこの哲学を貫き(一時外れましたが)、iPhone、iPad、Macでついに心臓部までオリジナル設計のソフトとハードの融合を成し遂げました。
長年ソフトで勝負していたMicrosoft、Google、Amazonもソフトウェアを追求し続けた結果自社でハードウェアを作り始めました。
Linuxの世界も、System76のハードウェア群やSteamのSteam Deckなどソフトウェアだけでなくハードウェアとの融合を試みた新たな動きが始まっています。
ソフトウェアを本気で追求していくメーカーはハードウェアの自社開発に行き着くのだと思います。
これを模型の世界に置き換えると、ソフトウェアはペインティングであり、ハードウェアは造形だ、と私は考えました。そこで浮かんだ言葉が、
「ペインティングに本気で取り組むなら自らスカルプトするべきだ」
という事でした。
模型出戻り前夜
私は模型に出戻る前にオープンソースでCMS開発活動をしていたのもこの言葉に出会ったからです。
既存のシステムが気に食わない、改造する割合が多いと感じるのなら・・・自分でフルスクラッチで作るべきだ、と。
当時出回っていたPHP言語で開発されたCMSエンジンを片っ端から試して、自分の理想に近づくように改造をしまくっていました。HTMLとCSSによるGUI側のデザインを自由自在にして、W3Cが提唱するWeb標準規約に準拠する美しいWeblog GUI設計がしたいと思っていたからです。(当時はW3CWeb標準規約に取り憑かれてました。)
ある日、スティーブ・ジョブズが上の言葉を引用したのを聞いて、はっと目が覚めました。
「そうだ、そこまで改造するくらいなら自分でフルスクラッチ開発しよう。」
と。
模型に出戻った時から根底にあった理念
その後、プロジェクトを一旦終了し、数週間くらい抜けがら状態でした。
「さて・・・次は何をしようかな」と毎日考えていました。ずっとプログラミングに夢中になる日々を続けてきて、目の前からすっぽり目標が消えてなくなったからです。
そんなある日、ふとしたきっかけがあって、何かに呼び寄せられるように模型の世界に出戻ることにしました。
その時に考えたのが、
ただ、単に昔やっていた事と同じ「プラモ作り・ジオラマ作り」に出戻るだけでは意味がない。昔、本気でやり切ったと感じてもう卒業しようと一度は別れを決めた模型制作。昔のように既存のプラモ作りをしてもすぐに飽きるに決まっている。ウォーミングアップとしてプラモは作ってみるが、それがゴールではない。
本当にやりたいのは、模型をアートフォームとして昇華させること。そのためには、大手プラモメーカーに依存する、既存の大量工業製品であるプラモデルを使った模型作品作りではだめ。造形から、完全フルスクラッチで完結させる作品作り。完全なるオリジナル作品制作が理想。今世間一般で認知されている大手メーカー製プラモデルに依存した模型趣味の基本概念をぶち壊してひっくり返したい。
ということでした。
出戻った当初は懐かしさもあり、昔作ったプラモをもう一度今の技術で作ってみる、ということを楽しんでいました。ですが、やはり予想通り、すぐに飽きてしまいました。
ジオラマを作っていたある日、フィギュアのレイアウト構想を練っていた時に「改造が大幅に必要だな・・・」と考えていたら、ふと「そうだ、自分がやりたいのは人間表現、人体造形だ」と思いたちました。
そこで出会ったのが、フィギュアを主体とした表現スタイルの「ヒストリカルフィギュアの世界」でした。
そこには、私が探し求めていた
「大手プラモメーカーに依存しない模型趣味の世界」
「フルスクラッチ造形・ペインティングを融合させたミニチュアアートの世界」
がありました。
このミニチュアアートの世界の人たちとWebコミュニティに参加したりイベントに参加したりして交流を深めていくうちに見えてきたことは、
「彼らはミニチュアをアートフォームとして捉えている、あるいはそのレベルまで昇華したいと本気で取り組んでいる」
ということと、
「自らのペインティングを表現するキャンバスを自ら生み出そうという気概がある」
ということ。これはつまり、
「ソフトウェアに本気で取り組むために自らハードウェアを作り出している」
ということに他ならないと感じました。
プラモデルの世界だけに浸っていては見えてこない、プラモメーカー主導・プラモ依存の模型趣味ではない、違った模型趣味の世界が見えてきたのです。
プラモデラー卒業、オリジナル志向へ
出戻って以来10年ほどプラモデラーを対象にしたり、主軸に据えた模型制作活動を続けてきました。既存のプラモを使ったジオラマ制作をしたり、それを商業誌に寄稿させて頂いたりもしました。好きなプラモキットのためのフィギュア開発もしたりしました。これらは今まで自分を育ててくれたプラモデルの世界への恩返し的な意味もありました。
個人で出来る活動には時間もエネルギーも資金も限界があります。10年ほどやってきて、そのプラモデラー界隈の人達からの潮引きを感じるようになってきたので「もういいかな」と思うようになりました。
潮時。CMS開発もそうでしたが、人の波はまさしく潮のよう。ワッと寄ってくる時もあればさーーっと引いていく時もある。
プラモ作品については、私はプラモに言いたいことは以前に作った作品群に全て詰め込んだつもりなので、分からない人には分からなければそれで良い。分かる人が「あぁ言いたいことはこれなのね」と分かって頂ければラッキーな儲けもの。と思うようにしました。
以上が、私の「プラモデラー卒業」の真意です。
プラモデラーとして伝えたいことが伝わったとは思ってませんが、プラモデラーを完全に卒業して完全オリジナルに専念するのは出戻る前から決めていたこと。時間がかかりすぎた、とすら思っています。
まとめ
「ペインティングに本気で取り組んで、自らスカルプトすべきだ」と思い立ったのが私の模型世界への出戻りの原点。
色々と余計な忖度をしたり、思考的にも技術的にも未熟な部分も沢山あって随分回り道してしまいましたが、そろそろ初心に帰り、いろいろとやり直してみようかなと思ってます。