映画:桃色の店
まわ1940年作のトーキー。
原題は、The Shop Around the Corner。
エルンスト・ルビッチ監督作品。
ルビッチは、一昨年に、シネマヴェーラ渋谷で観たサイレント時代の作品『想ひ出』が、無邪気に愉しくて最後はちょっと侘しい傑作だったので、他の作品も観てみたいと思っていた人。
映画には 全く疎いので、ルビッチの名前はその時初めて知ったのだけれども、とても高名な映画監督らしい。
今回は、DVDにて見聞した。
映像作品を監督に注目して観るのは、これが初めてだ。
舞台は大戦間、大不況に喘ぐ時代のブダペストにある洋品店。
筋書きは、一度も会ったことのない文通相手に恋をしている二人が、実はいつも喧嘩ばかりしている上司と部下だった、というすれ違い系王道ラブコメ。
最後は安心のハッピーエンド。
映画に詳しい人ならば、ルビッチの技巧に感嘆するところなのだろうけれども、こちらにはそういう素養が全くないので、純粋に面白い作品だった。
部下の女性が実は文通相手だと分かってからの、男の行動はちょっと意地が悪い。
最後に真実を明かされたあとの女性の反応も、変わり身が早くて現金だ。
それでも、二人は、そのくらい解りやすくて丁度よい。
主役は、この物語を進める主軸ではあるけれども、映画の味わいの妙味は、すっかり脇役の方にあって、心の機微は周りがかっさらていってしまう。
観ていて愉しくて、仄かに微笑ましく、一瞬切ない。ほんの一瞬だけ切ない。
それを、外野がやっている。
最高だ。
『想ひ出』といい『桃色の店』といい、ルビッチの映画はアレグロだと思う。
それは、ルビッチのタッチというよりは、時代のカラーなのかも知れないけれども、弛緩のないテンポで軽やかに、話はすいすいと流れていく。
だから、終わったそばから、もう一度観たくなる。
そして、2回目の方が、断然、面白い。
やっぱり、ピロヴィッチ役のフェリックス・ブレサートこそが影の主役というかこの映画のキーマンだ。
直接描かれる事はないけれども、ピロヴィッチは2人の子供がいる4人家族で、その倹しくも暖かい家庭こそが、この作品を傑作へと押し上げている。
ルビッチは、人情を描くのがとても上手い。
これをロマンチック・コメディだと思って観るのは勿体ない気がした。