「世界と日本の懸け橋と考えるライドシェア2.0」Roots Mobility Japan安永修章×高橋飛翔 対談【前編】
MaaS(Mobility as a Service)をはじめとするモビリティ革命について、さまざまな観点から検討していく「MaaSミライ研究所」。今回は、外資系モビリティ企業に日本仕様のアプリサービスについてのアドバイスや日本企業にMaaSのアドバイスなどを行っているRoots Mobility Japan安永代表から「日本におけるライドシェア2.0の展開」についてお話を伺いました。
公共交通機関サービスの一環として進化している
高橋飛翔(以下、高橋):本日はよろしくお願いいたします。はじめに、安永さんはさまざまなところでライドシェア2.0を強く提唱されていらっしゃいます。改めて、一言でいうとライドシェア2.0はどういったことなのか教えてください。
安永修章(以下、安永):一言でいえば、「公共」のサービスへと進化している現状のことです。
そもそもライドシェアというビジネスは海外で生まれたもので、アメリカのUber(ウーバー)をはじめとした企業がマーケットをつくってきました。
これまで B to Bの色合いが強かったライドシェアを1.0とすると、現在は「新しい移動のあり方」として、地方自治体や公共交通団体がライドシェアを取り入れています。そういった公共交通機関の一環であり、自治体のサービスとしてライドシェアを取り込んでいる現在の状況が「ライドシェア2.0」です。
高橋:スタンドアローンではないライドシェアが2.0というイメージなのですね。
安永:そうですね。アメリカでは、ライドシェアは既存のサービスだけでなく、提携ビジネスもかなり増えてきています。地方自治体がUberやLyft(リフト)といった企業のサービスをうまく取り込み、公共交通機関のサービスとしてライドシェアを進めている例も少なくありません。
高橋:アメリカでの現状をお聞きしていると、日本でも地方自治体を巻き込んでライドシェアを普及させていくことが、今後あるべき姿だと思います。さまざまな規制によってライドシェアが進んでいかない国内背景もありますが、日本における地方自治体と企業の連携について、お考えをお聞きしたいです。
画像出典:Uber
安永:おっしゃる通りで、さまざまな規制によってライドシェアが進まない背景はあります。ただ、Uberも現状の規制の中で、京都の京丹後市などで実証実験を行ってきています。
高橋:実証実験とはいえ、ライドシェアができる環境があるのですか。
安永:日本では、バスやタクシーの運転に必要な「第二種運転免許」を持たない一般人が運賃を受け取って自家用車に乗せる行為を禁止しているのですが、京都のケースは「公共交通空白地有償運送」制度を利用してライドシェアを実現しています。電車・バス・タクシーといった公共交通機関がない場所では、一般人がそれこそライドシェアをやってもよいという特例を活用したんです。
高橋:それは京都だけに適用する特例制度というわけではないのですね?
安永:全国的な制度なのですが、特例が適用されるには各地域にある地域公共交通会議に承認されなければいけません。しかし、この承認を取るハードルが結構高いんです。
当初はUberも京丹後市全域でやる予定だったのですが、京丹後市で新たに2社のタクシー会社がサービスをはじめました。そうなるとタクシーの運行エリア内は公共交通の空白エリアではなくなってしまうため、特例がそもそも使えなくなってしまいます。その結果、当初の予定よりも狭いエリアでの実証実験になってしまいました。
また、北海道の中頓別町でも実証実験を行ってきているのですが、いかんせん乗る方も乗せる方も無料というサービスモデルなので、ドライバーになる人のインセンティブが無く、ドライバーがなかなか集まらないという現状です。
高橋:Uberのドライバーさんもお金が稼げるからやっているわけですから、そこが無料になるとどうしても限界がありますよね。規制の強い日本では地方自治体がライドシェアをうまく取り入れていくことは難しいのでしょうか。
安永:少しずつ変わってきていますね。例えば、兵庫県養父市のケースです。さきほどの「公共交通空白地有償運送」制度を利用して、「やぶくる」というタクシー相乗りサービスを提供しています。
ちなみに、運営はNPOが行っているのですが、実は、「公共交通空白地有償運送」制度は非営利のNPO法人などに運行を認める制度になっているので、地元のタクシー会社3社が共同でNPOを立ち上げて運営することになりました。日本のタクシー会社がみずからライドシェアの運営をするという、新しいジャパンライドシェアですね。
高橋:タクシー会社がライドシェアに反対するのではなくて、資本を出し合ってライドシェアのサービスを運用していくのは建設的な気がします。ライドシェアのソリューションをつくって、地場のタクシー会社に共同出資してもらって、そこに対してライドシェアアプリのソリューションを提供して、実際のオペレーションはタクシー会社さんに任せる。タクシー会社さんが一般のドライバーとライドシェアを広めていくというのは非常におもしろい取組みだと思います。
業界外からではなくて業界内から変えていくことが日本の近道
安永:こうした取組みをほかのエリアでも進めていければよいのですが、課題は価格をどう考えるのかです。今まさに東京では、タクシーの事前確定運賃サービスがスタートしました。2020年にはタクシーの相乗りが解禁になる方向で進んでいますので、相乗り普及のきっかけになるとも思っています。
高橋:タクシー会社も収益につながればいいわけですから、タクシー専用のクルマを使わなくてもサービスが提供できるようになるかもしれないですね。
安永:タクシーは100年以上も前からあるビジネスモデルですから、今が大きくアップデートするタイミングなのではないかと思います。大きくアップデートできる下準備は良い意味で整ってきているように感じています。
高橋:タクシー業界の話ではありますが、安永さんのお考えとしては、業界外からではなくて業界内から変わっていくのが、日本でライドシェア2.0を進めていく上ではよいと思われているのでしょうか?
安永: そうですね。移動弱者と言われる人たちがすでにいるわけですから、タクシー業界とけんかをしていても何も進みません。「タクシー業界を業界内からいっしょに変えていこう!」と、Uberの社員時代にも同じような話をしたのですが、当時は社内で相当たたかれました(笑)。
高橋:そんな話をUberの社内でされていたのですね(笑)。日本でのUberを傍目から見ていると、Uber Eatsを積極的に進めていくのかな、と感じています。アメリカ本国のトランザクションをみても、全体の25%の中で競合他社と争っている状況であれば、Uber Eatsを積極的に会社として伸ばしていく流れになるのではないかと思うのですが。
安永:これから増えてくるであろう競合他社とのマーケット争いになってくるとは思いますが、Uberは「生活のOSになっていく」ことをビジョンに掲げておりますから、移動やデリバリーといった生活に密着したサービスを目指していくと思います。
<後編に続きます>