マネジメントとして海外に行くということ - 『日本人が海外で最高の仕事をする方法――スキルよりも大切なもの 』から学ぶ
2019年まで約4年間海外(フィリピン)に駐在していました。
海外では、ミドルマネジメントとトップマネジメントを両方経験しました。その経験をもとに、「海外でのマネジメント」について考えていきたいと思います。
海外での駐在を始める際にいくつかの本を読み、参考にしました。その中で最も参考になったと言えるのがこちらの本でした。
日本人が海外で最高の仕事をする方法――スキルよりも大切なもの 糸木 公廣
こちらの本は「日本企業の海外駐在」という立場になり、これから赴任するという方向けのマインドセットを教えてくれる本だと思います。(逆にそれ以外のパターンの場合、当てはまらない場合もある)
海外で仕事をするパターンとしては、ざっくりわけて海外赴任と海外就職の2つに分かれるわけです。(まあ、ざっくりです)
海外赴任は、日本の会社に籍をおきながら、海外の子会社などに駐在するというパターン。そして海外就職は海外の会社に社員として採用されるパターンです。
著者の糸木さんはソニーで9カ国の海外赴任をした方。この本は駐在員としての経験が語られています。(それ以外は当てはまらない場合も、と書いたのはそのため)
本の中でも語られていますが、海外就職と違う海外赴任の特徴は
・任期が短い(通常数年程度)
・いきなりマネジメントレベルとして投入される
という2点。ここから導かれる共通点が、
・部下のメンバーが仕事をしてくれないと自分の仕事が成立しない。
・後任(現地の人)を育てるという大きな使命を持っている。
ということです。
これが海外就職と違う海外赴任の大変さでもあり、面白さでもあると思います。
※正確には海外就職でもマネジメントレベルに行くこともあるので、一概に海外就職が面白くないとは言っておらず、そういう傾向にあると言いたいだけです。
人を育てるというのはとても難しい仕事です。それが外国人を育てるとなれば大変さは日本人相手の比ではないと思います。
その大きなチャレンジに対しどのような心構えで臨むべきなのかをこの本は教えてくれたように感じます。
以下、自分が気になったポイントを抜粋します。
(※ === 内で囲んだ部分はすべて本書からの引用です。)
マネジメントとして海外に赴任する時の心構え
現地の人に動いてもらわないといけないということは、人への接し方が成果の大きな部分を左右するということです。だからこそ、異質な文化に自分から飛び込んでいく姿勢が重要。
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役割がマネジメントに近づくということは、それだけ「人」との関係や接し方が仕事の成否を左右するということだと思います。
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マネジメントは最終的には「人々に」「自ら」動いてもらうことが重要です。現地尊重の考え方からしても、現地の人たちが、グローバルな理念や方針は維持しつつも、現地に合ったやり方で、自ら効果的に事業を運営していけるような状態を作りだすことが一つの目標と言えるでしょう。
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海外赴任がうまくいかなかったという事例の中には、言語の壁や異文化への不適応を表面上の理由にしつつ、実は基本的な「人」への接し方に原因があったという例も少なくないのではないかと思います。
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相手も同じ人間である
自分と違う「○○人」というように見てしまいがちですが、相手も同じ人間だということ。
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異質に思える相手もまた、自分や自分の親しい人たちと同じ「人」であり、私たちと同様に家族を大切に思い、子どもが喜ぶと自分もうれしく、そうした気持ちを共有できる相手のことを、人として尊重し信頼する。
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自分はうまく仕事を進めることができるだろうか?と思いがちですが、相手には相手の感情があり、相手も同じように不安に思ったりする。
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現地には現地側の「偏見」も生じがちです。たとえば、 「どうせ日本人は自分たちとは感覚が違うから、わかってくれない」 「きっと日本のやり方を押し付けてくるのだろう」 「赴任者はせいぜい2、3年で異動する。本社の方ばかり向いているに違いない」 といったものです。 こうした偏見に沿うような行動を赴任者がとると──その片鱗をのぞかせるだけでも、「やっぱりそうか」とその見方が補強され、関係づくりはさらに難しくなります
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赴任する人は不安と緊張を感じるものですが、それは現地スタッフにとっても同じです。いったいどんな人が来るのだろうか。何を求められるのだろうか。そんな不安を抱えていることが多いようです。
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現地のスタッフからどういうスタンスをとっているのかよく見られている。とくにどっち(日本?or現地?)を向いて仕事をしているか?はよく見られている。
赴任者は目立つこともあって、とてもよく見られている。その人が明らかに本社(日本)の方しか向いておらず、自分のことを気にかけてくれていないと思ったらその人についていきたいと思うだろうか?
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現地社員や現地の取引先は、新しい赴任者が着任した当初から、その赴任者の本社に対するスタンス、また現地の代表者としてのスタンスを注意深く見ているものです。彼らに慕われ信頼される赴任者になれるかどうかは、この一点に大きく左右されると言っていいでしょう。本社の言うことをそのまま現地に当てはめるだけの、本社の使いのような存在だと思われてしまうと現地社員はだれもついて来ないでしょう。現地の事情、現地にとっての利益を代表する存在としてのスタンス、必要なら本社にも異を唱えるべき立場であることもよく認識し、行動で示さなければいけません。そうした「現地の代表」としての役割をしっかりと引き受けて見せてこそ、社員の信頼を得ることができるのです。
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率先垂範・自ら相手に飛び込んでいく
仮に、「○○をやれ」というだけの上司だったらついていきたいと思うだろうか?きっと、自分から率先してくれる人の方がついていきたいと思うだろう。
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特に海外赴任の現場においては、言葉の壁やバックグラウンドの違いから、細やかな説明をするより、明解・簡潔に用件を伝えるだけ、というようなスタイルに陥りがちかもしれません。しかし、もともとの仕事のやり方や文化・慣習が同じでない相手に接する場合にこそ、懇切丁寧に説明を行うべき
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論理的に説明するということは、異なる文化的バックグラウンドにおいても機能します。ただし、もし私が社員たちと親しい関係を築くことなく、自分で率先してやってみせることもなく、ただ指示を伝えてその意味を語るだけだったら、社員がすんなり動いてくれたかどうかわかりません。「頭では納得しても気持ちがついていかない」ということは、間々あるからです。
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顧客志向や現場志向を社員たちに持ってほしいのであれば、トップ自らが顧客のいる現場へ積極果敢に出ていかなければいけません。打ち合わせの場などでも、顧客志向や現場志向の観点に立った意見やアイデアを出し続けるべきです。自由闊達でリベラルな文化をつくろうと思うなら、自ら率先してそれを体現するべきです。社員にイノベーティブな発想を求めるのなら、自らが日頃から違いや異質性を尊重し、ユニークな行動や発想を称賛し、自分でもそれを実践するべきでしょう。 そういうことを日々地道に実践し、行動とメッセージの一貫性を明らかに示していければ、トップを起点にして新しい文化・行動パターンが、ごく短期間でできていきます。
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違いを楽しむ・相手の文化に好意を示す。
日本文化を知ろうとする外国人を見るとなんだかうれしくなりますが、それの逆もしかりという話。積極的にその国の文化に溶け込む。
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強烈な「違い」を前にしたとき、嫌悪して顔をそむけてしまうか、それとも違いを楽しみ、おもしろがることができるか──。それが大切なのです。
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現地の文化を尊重するということは、何もそのすべてを肯定することではありません。世界は多様性に満ちており、さまざまな「違い」は厳然として存在します。私たちのできること、するべきことは、その「違い」を無視するのではなく、ありのままを認識し、「違い」を壁や溝にするのではなく相互理解の入り口とし、可能であれば、「違い」をポジティブな方向に活かすことです。
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違いを楽しみ、自ら相手の文化に溶け込んでいくこと。自分のことを包み隠さずさらけだすこと、それによって相手からの信頼を得られるというのが大きな学びでした。
任せるということ
権限委譲をするべき・しなければいけないのも海外における特徴の一つ。
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海外赴任者は、いずれはその地を去るわけで、そのときは自分の知識と権限(の一部)を現地の社員に委ねていかなければなりません。であれば、去り際に慌てて委譲して不安を覚えながら去るよりも、自分がいる間に委譲して目の前でさせてみて、必要であれば十分フォローできる体制をとっておく方が良いに決まっています。 地道な若手登用や権限委譲をする一方で、任せられる範囲を見極めた上で、私は思い切った権限委譲を行うことにしました。
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海外で働くという経験で得られるもの
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海外での仕事を経験することの真の意義は、言葉が上手になるとか、海外慣れすることではなく、異文化・異観点・異条件に対応できるように自分と会社を変えていく力を身につけること
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全体として思ったのが、海外で働くということは全人格を持って当たらないといけないということ。小手先だけでなんとかしようと思っても無理なことが多い。
ときには権限移譲がうまくいかず、我慢を強いられるときもあるかもしれない。
自分の全てをさらけ出し、ロジックも、姿勢・態度も自分の持てるものをすべてを使って自分のコミットメントを表現する。(そもそも実際にコミットメントをする)
このことによって相手の信頼を得ることができ、それが自分が思ってもいないような成果につながる。
こういうことができる「海外でのマネジメント」の仕事はものすごく大変だし、成功したからと言って金銭的な報酬が大きいわけではないかもしれないけれども、仕事の喜びという意味でのリターンはとても大きいと感じるのです。