こんな風に叱られたかった編その1万引き

10歳の女子
ブラックジャックに憧れて、いつかは医者になりたいと夢見てた。
手塚治虫さんのブラックジャックの漫画本買って欲しいとせがんでも、全く関心を示さずお金ないからダメ、漫画本なんてくだらないと取り合ってくれない。
こうなったら盗むしかない。
人間は切羽詰まったり、想いが込み上げると感情が勝つ時がある。
倫理道徳が吹っ飛ぶ。
そして、合理的な言い訳を自分に言い聞かせる。
あなたはくだらない本を買うのではない。
ブラックジャックと言う素晴らしい本を盗むのだ。
今は盗むしかないけれど、いつか医者になったら社会に恩返しする立派な人になろう。
数あるブラックジャックの本の中で選んだのは、外出先で窒息した人に遭遇し、ブラックジャックが万年筆で気管のところをブスリと刺して助けるシーンのある本だ。記憶が定かでないが間違ってたらごめんなさい。
10歳の女子は、心に誓ったんだ。
私もいつかは、窒息者を救う。
だから、だから震える身体と手をギュッとしてさっと学校の教科書の間にブラックジャックを挟んで店を出れば良いだけ。
家の周りに本屋は歩いて30分圏内に三件ある。
1番盗みやすそうな店を選んだ。
おばさんが一人で店番していていつもTV観てるから。
ある初夏の下町の本屋。
おばさんがTVに夢中になっているか良く良く観察する10歳の女の子。
おばさんの前を行ったり来たりしてチラリチラチラ。
そして、ブラックジャックの本を盗みやすいように移動させておく。
用意は万端だ。
あとは、サラリとしなやかに本の間に挟んで店を出るだけ。
この時点で、私はかなりやばい行動してたと思う。
私は子どもの頃からあだ名が出目金で目が顔の半分とか言われてた。
大人はお前が下を向くと目玉が落ちちゃうぞとからかわれた。
そんな痩せっぽっちです小さな私が眼をギョロギョロさせて、まるでイカゲームの人形「まだ観てないが」みたいにしてたから。
おばさんの心の声
あら、この子さっきから私の前を行ったり来たりして私をジロジロ見てるわね。
この子、必ずやるわね。
ま、ん、び、き。
店出たら声かけようか、犯行現場で抑えるか?

現実に戻る
お嬢ちゃん、お金払ってないわよ。
本の間に、本を挟んだでしょう。
名前は、ひしちゃんね!!
えっなんでわかるの?と思ったが、学校帰りの犯行だったので名札をそのままつけていたのだ。
そんなものだ。
そう、バレるのね。
もう人生終わったね。
私は親から見捨てられ暴力を振るわれるんだ。
そして、学校にあのおばさんは通報して明日からは私は学校で泥棒のひしちゃんと言われるのだろう。

うちひしがれて家に帰り、母に万引きがばれて本屋のおばさんがお母さんにこの事を伝えなさいと、言ってた。
子どもらしくわーんと泣こうかと一瞬よぎったが、本当に子どもだったので恐怖のあまり演技ができず固まっていた。
まずは、ビンタ1発。
そして、母の叫び声。
あんた、あそこの本屋のおばさんとはよく銭湯で会うのに!バカバカ!
恥ずかしい。
しかも名札したままやったのね!
本当にバカだわ。
悪い子だわ
悪い手つき
悪い口
正直に言ってごらん、もうぶたないから。
これが初めて?
それとも何回も?
実はもう何回もやっていたが、漫画本は初めてだった。
もっと小物の消しゴムとか鉛筆はやってたが。
母の目玉がメラメラと燃えて口はひん曲がり、メチクチャ怖い女の形相だった。普段は、近所からひしちゃんのお母さん凄い美人だね。
ミスユニバースみたいにスタイルも良いし、顔も吉永小百合みたいねと言われていたので、こんな母の般若の顔を知ったらドン引きでしょうな。
母は、私が泣かないし白けてるのを見て本気で懲らしめないとこいつは常習になると確信したらしく台所に私を連行した。
そして、こんなに悪い手は要らないので切ってしまいましょうと言い出した。
出刃包丁をまな板の上でバンバン狂ったように叩き出し、身体中で抵抗する私を母の右腕だけで私の左手首をがっつり掴みまな板の上に置く。
たすけてー
お父さん、姉ちゃん!
たすけてぇー
断末魔の叫び声に、家の隣で自営の車の整備工場を営む父がすっ飛んで来た。
母は、父に私を託し急にお化粧しだした。
化粧した後に、店に私と謝りに行くらしい。
父は私に言った。
どの店で万引きやったんだ?
大通りのパチンコ屋の前の小さな本屋。
小さい声で
また父からも折檻受けるのかとビクビクしながら。
父は言った。
親子だな。
俺もあの店で若い頃やった。
私は母にも話さなかった。
父もやったんだ。
なんの本、万引きしたのかなぁ、そんな事ぼんやり考えてた。
母は、本屋のおばさんの前でめちゃくちゃ優しいお母さんに変身していて、般若のお面はすっかりどこかに隠れてしまった。
娘が盗んだ本はなんの本でしょうか?
万引きするほど欲しいならば、私は買ってあげようと思ってます。
とか言って、ひしちゃん買ってあげようか?と声をかけてきたが母の眼の中にまだ残り火がチラチラ燻っているのを察したので首を横に振りイヤイヤした。
そして、ごめんなさい。もう悪い事しません。と謝り家に帰ってきた。
このトラウマは私が57歳まで引きずるのだから子どもの頃の体験経験は本当に大きな影響を残すものだなと思う。
私はカウンセラー、占い師、看護師、東洋医学手当てをしており、介護の講師も13年やったのでコーチカウンセリングを学んだ時に私が万引きした時に、どのように叱って欲しかったのかなぁと考える機会があった。
そして、何度か講義の中で芝居のように母役、父役、本屋のおばちゃん役、10歳の私と言うように演じてみた。
私の理想とは?
そして、辿り着いた私の叱り方理想。
どんな本を盗んだの?
なんでその本に興味あったの?
ブラックジャックってなーに?
医者になりたいの?
万引きするまでの計画とか興味あるなぁ。
見つかった時、どんな気持ちだった?
万引きは悪いことだけど、ひしちゃんはとても素敵な子だよ。
万引きがなんで悪いかわかる?
一冊の漫画本作るのにどれだけの人が関わっているか知ってる?

こんな風に、理想のお母さんを演じて講義で話している時になんとなんと、私の眼から温かい涙がポロポロ。
ごめんなさい。
講師の私が感情的になりまして、ふと受講生見るとやはり何人かウルウル泣いてる。
そして、みんな優しいお顔で私の演じるお母さんを見てる。
講義の後、受講生が書いたレポートには、母として子どもに向き合うことを学びました。
今日は温かい気持ちで家に帰れます。
父として、妻に任せきりを反省して自分なりに子どもと仲良くしたいです。

介護の講義なのですが、たまにこう言うレポートばかり多くなると私を委託で雇用している社長さんがどんな講義してるの?
聞きにいって良い?とか言われて焦ります。

万引きは悪いこと。

でも万引きしたひしちゃんは私の可愛い娘。ひしちゃんだいすき。
私があの時欲しかった言葉を自分にたーくさん言ってあげる。
母は今は82歳。
あんなことあったねと言うと、忘れたわで笑ってる。
そんなもんだ。
私は覚えているが
これからも、記憶を消すのではなく
すり替えるのでもなく
忘れようと躍起になるのでもなく
不幸な怖い記憶を思い出しては、あの時本当はどんな助けが欲しかったんだろうか。
今の私ならば助けられる!とセルフカウンセリングで取り組んでます。
そうすると、終わりっていつかある気がする。
闇より光の方が勝つと思う。
だから生きてる。
あなたは強いよ
あなたは大事な人だよ
悪いことしても、あなたは良い人だよ
それを忘れないで。

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