【服部奨学生研究発表】 「推し」に会えない?! 〜推し活をしている人は知っておきたい「チケット不正転売禁止法」について〜 【導入記事】
皆さんにも身近なコンサートチケットやスポーツ観戦チケット。法律を学ぶ服部奨学生嶌嵜望紗(しまさきみさ)さんが転売などの研究について「2023年度服部奨学生修了式・第2回服部奨学生研究発表会」で発表します。以下の発表導入記事をぜひご一読ください。
はじめまして。第15期春季服部奨学生、東京大学大学院2年の嶌嵜望紗です。大学院では法律を学んでいます。実務で活躍されている先生のゼミに所属しており、エンタメ法やスポーツ法を学んでいます。今回は令和元年に施行された「特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律」(以下、チケット不正転売禁止法)について、少しでも知っていただく機会となりましたら幸いです。
1. 「推し活」と「チケット」
1-1. はじめに
突然ですが、皆さんに「推し」はいますか?「推し活」をしている方はいますか? 自分の好きなアイドルやアーティスト(=推し)を応援する「推し活」は「2021 ユーキャン新語・流行語大賞」にノミネートされていることからしても、今や社会現象の一つになっています。
「推し活」は人生を豊かにする行為の一つといえるかもしれません。
1-2. 「推し活」の方法
推し活にはどんな方法があるのでしょうか。推しのグッズの購入、推しが出演しているドラマの鑑賞、推しの SNS を見るなど、推し活は千差万別です。その中でも特にメジャーであるのが、ライブ やコンサート・イベントに参加することだと思います。令和4年版消費者白書においても若い世代は推し活にお金を使う割合が高く、特にライブやコンサートのような「今しかできない参加型の体験やコンテンツ」にお金を使う割合が多いといえます。
1-3. チケットの転売
一般的に、ライブやコンサートに参加する場合はチケットを購入する必要があり、推しの人気が高い場合、チケットは抽選になります。残念ながらチケットが外れた場合、次の機会を待つしかありません。しかし、それがどうしても行きたいライブである場合、あなたはどうしますか? もしネットオークションで、欲しかった「推し」のライブのチケットが売っていたら、購入したくはなりませんか?
「推し活」全盛期の現代では、人気のあるアイドルやアーティストのライブチケットがネットオークションなどで高額転売されることが増えています。その結果、ファンだけでなく、いわゆる「転売ヤー」がチケット争奪戦に加わり、チケット倍率が高くなる現象が各地で起き、本当に「推し」に会いたい人がチケットを取得できない事態が発生しています。また、転売チケット購入によるトラブルも増加しています。
2. チケット不正転売禁止法
2-1. チケット高額転売の始まり
そもそもライブチケットの高額転売は、ネットオークションサイトの普及によって始まりました。また、2015年よりチケット転売を専業とするオンライン仲介サービスが発展し、BOTの使用による大量買占めにより転売ビジネスが加速していきました。その結果、二次市場では定価の数十倍の価格でライブチケットが取引されるようになりました。
2-2. 反対運動
チケットの高額転売が社会問題となる中、2016年8月23日、「ファンに対する高額転売問題の周知活動の実施の一環」として『音楽の未来を奪うチケットの高額転売に反対します』との広告を日本経済新聞に116組のアーティストやイベント運営の連盟で掲載されました。上記広告が話題となり「ライブ・エンタテインメント議員連盟」の国会議員の目に留まり、チケット不正転売禁止法の立法活動開始のきっかけとなりました。また、ラグビーワールドカップや東京オリンピック・パラリンピックも、法制定を後押しすることとなりました。
2-3. チケット不正転売禁止法ができるまでの摘発方法
チケット不正転売禁止法が制定されるまで、不正転売を摘発する方法は以下の3つしかなく、どれも効果的とは言えませんでした。
まず、古物営業法の無許可営業の罪で摘発する方法です。古物営業法によれば、古物営業を行うためには許可を受けなければなりませんが、これを受けていない場合、古物営業法違反となります。開演前チケットは「古物」にあたりこれを反復継続して売買を行うこと、いわゆる転売は古物営業と評価でき罰則の対象となります。しかし転売ヤーが古物営業法上の許可を取得することも考えられるため効果的なものとはいえません。
次に、各都道府県の迷惑防止条例違反では、いわゆるダフ行為が禁止されています。これは転売目的でチケットを購入することや、「公共の場所」で転売することを禁止する条例です。しかし、ネットオークションやインターネット仲介サービスを介した売買は「公共の場所」とは言い難く、チケットを大量に購入するなどの転売目的が明確でないと適用されにくい傾向があり実効性が低いといえます。さらダフ行為を禁止する条例が存在しない都道府県もあります。
最後に、転売目的でチケットを購入することを詐欺罪(刑法246条)として処罰することも考えられます。転売目的でチケットを購入しようとする者が、チケットエージェンシー(チケットの予約や発券業務を行う事業者)に対してチケットの購入を申し込み、その結果、転売目的の購入ではないとチケットエージェンシーを誤信させ、チケットエージェンシーにチケットを送付させたという行為をもって、詐欺罪が成立します。しかし転売ヤー・チケット購入者間では、チケット購入者が入場できないリスクを承知したうえでチケットを購入する場合には詐欺罪が成立しないこともあり実効性が低いといえます。
2-4. チケット不正転売禁止法制定
以上のように、これまでの法律ではチケットの不正転売を防ぐことができていませんでした。その結果、チケットの高額不正転売を根本から解決するために「特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律」(略称チケット不正転売禁止法)が平成30年12月14日に平成30年法律第103号として公布され、令和元年6月14日から施行されました。
チケット不正転売法は「推し活」をする方、特にライブやコンサートに参加される方には是非知っておいてほしい法律です。当日の研究発表ではチケット不正転売禁止法の要件や具体的な適用例についてお話させていただき、問題点についても検討したいと思っております。
3. おわりに
ここまでチケット不正転売禁止法制定までの流れをお話させていただきました。当日はチケット転売を防ぐための打開策がありましたら、ご意見いただけると幸いです。
また今回、研究発表の機会をいただくことができましたこと、非常に光栄です。少しでもわかりやすい発表になるように努めたいと思っております。また、私が大学院で勉強に専念できているのは、服部国際奨学財団からの給付奨学金のおかげです。本当にありがとうございます。
読者のみなさま、最後まで読んでいただきありがとうございました。