エリアF -ハレーションホワイト- 16
「凌、凌、凌…」
んんん、だれだ、ぼくをよぶのは、ぼくは、ねむいんだ、
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ああ、そろそろ起きなければ」
もう朝がやってきたのかと、まだ眠り足らない不愉快な気分のまま、ぼくは目を開けた。目は開いたものの、まだ十分にさめている訳ではなさそうだ。いつもより眩しい景色に少し困惑しながら、目が光に慣れるのをぼくは待っていた。ハレーションホワイトが、徐々にやわらかな絹色へと変わって行った。
「いったい誰なんだ。どういうつもりなんだ。」
ぼくを覗き込むように、ぼくの頭の真上で、数人の大人が額をつきあわせていた。彼らの背景は、絹のようなやわらかな白から、鮮やかな青へと変わりつつあった。それと同時に、ぼくが朝、毎日の眠りから覚めたのではないことが、ぼんやりと分かり始めてきた。
「・・・ああ、いつのことだろう。そうだ、何日か前だ。ぼくは自転車で家へ帰ろうとしていた。それで・・・」
ぼくは状況を把握するために、起き上がろうとした。
「やああ、動いちゃいかん。」
半分上げた背中を、無理矢理押さえつけるように、ぼくは再び寝かされた。背中の感触で分かった。ここは草の上だ。目の前には青空が広がっている。そしてぼくは…
…そうか。何日も前だと思っていたことが、ついさっきのことだと、やっと気付いた。ぼくは学校の帰りの坂道のカーブで、石につまずいて、転んでしまったのだ。そうと分かれば大した問題ではない。
「ああ、すいません。ぼくだいじょうぶですから。」
「だ、だいじょうぶったって、きみ、ダンプに当たったんだよ」
60から70くらいのおじいさんが言った。
「びっくりしたよ、急に目の前に走り込んでくるんだから」
この人が、ダンプカーの運転手なんだろう。
「そうよ、あなた10mばかりとばされたのよ」
50歳前後のおばさんも、言葉をはさんだ。
ダンプの運転手と通行人らしき2人は、口々に、これが結構大変な事故だったことを、ぼくに訴えかけた。ぼくはゆっくりと立ち上がると、体を動かしてみた。少しひざは擦りむいていたが、特に体に痛いところはない。
続く