エリアF -ハレーションホワイト- 7
このバーチャル空間の治安を維持するために、WP(Webポリス)と言われるものが存在している。Web上の警察官だ。通りを歩かずに空を飛んで移動している者たちの一部は、このWPだ。WPはその役目ゆえに、普通の人たちより多くの力を持っている。例えばこの空を飛ぶという能力もそうだ。また、犯罪者を拘束したり、その現実世界での正体を調べることもできる。Webでの犯罪の種類は、大きくは一つだけ。ハッキング行為だ。立ち入り禁止区内に入る、他人の暗証番号を使う、Web上のデータを改竄する、などなどである。それ以外は何をしても構わない。あと、他人に迷惑をかけないというマナーは、やはりこの世界でも存在する。
空を飛んで移動している者は、WPたちだけではない。Webの知識が豊富で、能力の高いものは、空を飛ぶこともできる。これは自分の能力を高めているだけで、ハッキング行為は一切していないので、何ら違法ではない。ぼくが最初にやったように、パスコードを打ち込まずに視線で扉を開けたのも、厳密には目に見えない早さでパスコードを送信しているだけの話であるから、なんら違法性はない。
Webの知識の豊富な者の中には、Webセキュリティと呼ばれる商売をしている者もいる。Web上の私設警備員である。WPと言えども、Web上のプライベート空間には立ち入ることができない。現実世界と同じである。だから、個人や会社の機密を守るために、Webセキュリティを雇っている人たちはたくさんいる。
空を飛んで移動している者たちは、これらWP、Webセキュリティ、とぼくのようなQ-HACKERたちである。犯罪者であるクラッカーは、その正体がばれないよう、自分の能力を誇示するようなことは決してしない。目立たないよう、普通の人の振りをしていることがほとんどだ。
たまに、恐ろしい勢いで、地面を走り回っているヤツがいる。Web上の暴走族だ。自分たちの能力を誇示したいため、バイクに乗って(バイクに仮装して)、道路をめちゃくちゃに走り回っている。何の意味かはわからないけれども、やたら大きな音を立てて、いっそう人に迷惑のかかるような行動にしている。
彼らの能力など、ぼくたちからみれば全く大したことはないのだけれども、少しばかり普通の人のできない技を身につけると、ああやって見せびらかしたくなるのだろう。実害を与えている訳ではないので、WPも法的にそれを制止することはできない。