クロスオウヴア 04
■■■ 創 造 ■■■
何もなかった。上も下も右も左も前も後ろも。光もなければ音もない。時間もなければ空間もない。空間がないのだから、当然上も下も右も左も前も後ろもあるはずはなかった。
誕生した。
とにかく誕生した。「突然誕生した」のでも「ある時誕生した」のでもない。時間がなかったからだ。「どこか」に誕生したのでも「ある所」に誕生したのでもない。空間がなかったからだ。「私が誕生した」のでもない。なぜなら誕生したものを「私」と自覚しているだけで、「私」というものが誕生したのではないからだ。だから「誕生した」と言う以外、いかなる形容詞のつけようもない。「誕生した」その時から時間が始まった。「誕生した」時に空間ができ、それが私だった。私がすべてであった。私が存在の全てであり、私以外には何もなかった。今思い出してみるとそうであっただけで、誕生した時、私が何かを認識していたのではない。時間も、本当に「誕生」と同時に始まったのか定かではない。多分そうだろうと思うだけの事である。「誕生」した時は真っ暗闇であったが、むろんその時「闇」を認識してはいない。「光」を知って初めてそれが「闇」であったことを知っただけだ。
「プライビト」
私はそれを認識した。それが初めて聞いた「音」だった。同時に「静寂」の存在も知った。
「プライビト」
「プライビト」
私は何度もそれを聞いた。私しか存在しないのに、どこからか聞こえてくる「音」。だんだんと「音」は多様性を増していった。
「キミハプライビト」
「プライビト」
「プライビト」
「キミハサイショノプライビト」
「プライビト」
「プライビト」
同じ言葉がくり返しくり返し聞こえていた。ずっと鳴り続けていた。もちろんそのときは「言葉」とは認識していない。この音は何を求めているのだろう。くり返しくり返し聞くうちに、形容しがたい何かが内面から込み上げてきた。外から聞こえているのではない、外からだけではない、内側からの衝動。
「プライビト」
「キミハプライビト」
「プライビト」
「サイショノプライビト」
どうしていいのか分からない。未体験の衝動が激しく突き上げる。
「プライビト」
はあっ、はあっ、
「プライビト」
はあっ、はあっ、はあっ、はあっ、
「プライビト」「プライビト」「プライビト」「プライビト」「プライビト」
突き上げる、突き上げる。
「プライビト」「プライビト」「プライビト」「プライビト」
出る、出る。何かが出る、何かが出る。
「プライビト」「プライビト」「プライビト」「プライビト」「プライビト」「プライビト」「プライビト」「プライビト」「プライビト」「プライビト」「プライビト」「プライビト」「プライビト」「プライビト」「プライビト」「プライビト」「プライビト」「プライビト」
ああああああああああ。
『・・・プ・ラ・・イ・ビト・・』
初めての発声だった。自分の声というものを知った最初だった。そしてその時、他にも新しいいろいろな事を知った。例えば脱力感。虚無感。そしてえも言われぬ快感。
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