クロスオウヴア 12
■■■ プ ラ イ ミ ィ ■■■
一学期の期末テストが終わると、佑右は自分の部屋に籠りっきりになった。「プライヴィット」をもっと充実させるためである。
「あと、外観のデータを入力すれば、図書館が完成するぞ。」
図書館といっても、佑右のデスクトップパソコンやPHCの中に入っているSDVDと呼ばれるデータの読み書き可能なディスクにある情報を読み出せるだけであった。しかしSDVDはたった直径十cmのディスクでありながら、国立図書館ぐらいのデータは優に記録できるしろものだった。だから、やはり図書館と呼んで、そう誤りでもなさそうである。
インターネットは今世紀の初期には既に飽和状態にあり、一般使用とは別の超高速ネットワークが作られた。それは「DASH(data access super highway)」と呼ばれ、学術研究者やコンピュータのヘビーユーザーなどがそれを利用した。もちろん既存のインターネットと相互にアクセスが可能であったが、DASHができてからはインターネットの負荷が軽くなり、ホームページやメールの読み書きくらいなら十分インターネットも快適になったので、一般ユーザーはインターネット、学術研究者やヘビーユーザーはDASHという住み分けができたのである。
最初、佑右はDASHを通じて、プライヴィットのバーチャルタウン「プライミィ」から世界の図書館にアクセスできるような仕組みにするつもりであった。しかし、プライ人にDASHへの自由なアクセスを許可すると、万が一プライ人がコンピュータウイルス化してしまうと、世界のコンピュータに被害を与えないとも限らないので、ソフト「プライヴィット」外へのアクセスはPHC内部のSDVDへのみに限定した。また携帯通信端末も手動でしか動作しないように設定し、回線にはファイアーウォールを設け、「プライヴィット」関係のデータは一切外部に出ないように、厳重なセキュリティーを施した。
佑右は自分の部屋の扉に鍵をつけたいと考えていた。それはコンピュータのセキュリティーが目的の一つだったが、それだけが理由ではなく、一人の青春期にある少年として本能的に欲するものであった。しかし彼の両親はそれを許さなかった。彼の両親は今どきの時代に流された人ではなく、厳格で「正しい」信念を持った人だった。佑右の要望に対して、父母は許可なく彼の部屋には立ち入らないこと約束して、部屋に鍵をつけない事と普段は扉を解放しておくことを納得させた。
「よし、こんなものでいいだろう。」
佑右は「プライヴィット」上に「街」を完成させた。そして、その街を「プライミィー」と名付けた。
街が完成すると、プライ人を増やしてみようと考えた。彼らが複数になったとき、どう動くのかをシミュレーションしたかったのである。プライミィーはかなり大きな街にしたので、人間の感覚で言うと、おそらく一万人位は住めるのではないだろうかと思われた。まずは百人から始めた。最初に作ったプライ人をコピーして、百人のプライ人を作り上げた。最初のプライ人には言葉も教えておいたし、図書館などプライミィーの各種機関の使用方法も教えておいたから、すべてのプライ人が言葉を話すことが出来、プライミィーでの生活方法も知っているはずである。複数のプライ人がどうコミュニケーションを取るのか、非常に興味深く、百人を誕生させてからずっと観察する時間が続いた。しかし不思議なことに、百人のプライ人はお互いに話しもせず、けんかもせず、一切のコミュニケーションを取らなかったのだ。街の規模の割に人数が少ないのかと思い、プライ人を千人にしてみた。だが変化はない。五千人にまで増やしてみたが、一切のコミュニケーションを取らないという状況に変化はなかった。
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