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クロスオウヴア 07
■■■ プライヴィット 3 ■■■
「ポインタ」とよばれる「⇨」で佑右が示した場所を見ていると、道の向こうから人がやってきた。ピクチャ(静止画)ではなくムービー(動画)の様だ。やってきた人は一番手前までやってくると立ち止まった。
「・・・コンニチワ」
「ねえ、だから何なのこれは。」
シミュレーションゲームにしてはあまりにつまらなそうなプロローグに、沙紀がちょっと焦れったそうに言った。
「こいつに話し掛けてごらんよ。」
「えっ、こいつにって、この、これに。」
「ああ、そうだ。この画面の中の人間にだ。OSの中には日本語音声認識プログラムが内蔵されているから、このPHCは言葉を理解する、いやデータとして認識するんだ。」
「ねえ、OSってなんだったっけ。」
沙紀は理数が得意である。しかし機械物になるとこれが全くだめだった。
「中学でもやっただろ。OSってのはオペレーションシステムの省略じゃないか。」
「それは知ってるわよ、名前くらいは。でもそれがどんなものかわかんないから聞いているんじゃあないの。」
ちょっとふくれっ面をして見せながら、沙紀は聞いた。もちろん本当に怒ってなんかいないから、それがまた佑右には可愛く感じられるのだ。でも本気で怒った沙紀の怖さも知っているので、佑右は優しい「おにいちゃん」を演じつつ返事をした。
「うん、OSってのは、そうだな。まず、PHCから説明しよう。PHCすなわちパソコンってのはただの機械だ。『パソコンもソフトなければただの箱』なんて戯れ句が大昔に流行ったけどさ。」
コンピュータの黎明期、というのは、進化の早いこの世界にとっては、原始時代のような『大昔』の出来ごとだ。
「パソコン、コンピュータ全部がそうだな。コンピュータはCPUと呼ばれる中央演算装置がその中心だけれども、CPUとメモリ、記憶装置だな、それとキーボードやディスプレイなどなどの部品で成り立っている。CPUはコンピュータの頭脳で、ここで論理演算を行う。しかし、どういう演算を行うかは指示してやらなければならない。そのたくさんの指示を一つにまとめたものを『プログラム』という。」
佑右はPHCから目を話すと、ちょっとFIをはめている右手の肩を回すような仕草をした。
「で、コンピュータに命令を与えるプログラムの事を総称して『ソフト』という。『ソフトウエア』の省略だ。それに対応してCPUやメモリなど機械部分を『ハード』と呼ぶ。同じく『ハードウエア』の略だ。『ソフト』が『ハード』に命令を下してパソコンが動くのだけれども、当然人間の命令なくしては『ソフト』も『ハード』も動かない。しかし人間が直接パソコンに命令を下しても、悲しいかな、パソコンには人間の言葉がわからないんだな。そこで人間の言葉、すなわち入力した文字や数字をパソコンに理解できる言葉に翻訳してやるんだ。翻訳された機械語ならパソコンは理解できる。そして人間様の命令を聞いて仕事をすることになる。逆に、仕事をした結果、パソコンのした仕事だからといってその結果を機械語で表示されたところで人間には分からない。そこで機械語から翻訳されて人間の理解できる文字や数字、絵などなる訳だ。この翻訳をする部分、人間と機械との仲立ちをするのがOSなんだ。」
「ふーん。」
「また、ワープロやゲームなどの『アプリケーションソフト』いわゆる『アプリ』だな、それと機械、また『アプリ』と人間の仲立ちをしているのもOSなんだ。だから人間の声を、っと、声っていうのは音波という『波』だから、人間の音声波を機械語に翻訳してやるのも当然OSの役目なんだよ。」
佑右は途中、まるで論文でも読んでいるような口調も交えて、一気に説明をした。もともと良く分からないし、あまり分かろうという気もない沙紀にとって、とにかくOSがないとコンピュータって物は動かない厄介な代物だということだけを理解しておこうと思った。
「さあ、向こうが『コンニチハ』って挨拶しているんだから、こちらも挨拶しなきゃ。それが礼儀だろ。」
とは言っても、いきなり架空の存在に向かって挨拶ができるほど、沙紀は子供でも、感性が乏しい訳でもなかった。