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クロスオウヴア 20

■■■ 邂逅 2 ■■■

「おにーいちゃーん。」

 二人がパソコン談義に花を咲かせていると、背中ごしに佑右を呼ぶ声が聞こえた。沙紀だ。

「だから、その呼び方、やめろってるのにな。」

 佑右はつぶやくと、眉をしかめながら、でも心の底から嫌そうではなく、ゆっくりと振り返った。沙紀は同級生らしき女の子と一緒だった。佑右の動きにつられて、恭平も後ろへ振り向いた。

「あっ」

「あっ」

 後ろを向いた恭平が声を出すのと同時に、沙紀と一緒の女の子も声をあげた。

「なんだ?」

「どうしたの?」

 今度は佑右と沙紀が同時に聞いた。それらのタイミングがあまりにも旨く合っていたので、四人は一斉に笑った。笑いもまた同時だったので、みんなはそのことを指摘しようとしたが声にならず、身振り手ぶりで伝えようとしたのがまたおかしかった。

「はあ、なんかおかしかったね。」

 それで、一気に初対面の緊張がなくなってしまった。

「で、どうして『あっ』て言ったんだ。」

 佑右は恭平に聞いた。

「おれ、その子知ってるんだよ。」

「えっ、沙紀を?」

「じゃなくて、そっちの子。」

「あら、知り合いなの。」

 今度は沙紀がつれの女の子に尋ねた。

「うん、同じ学校だから、顔見たことあるの。学年は1つ上、かな。」

「ああ、二年だ。」

 恭平が答えた。そして今度は恭平が佑右に沙紀のことを尋ねた。

「おまえの妹? 妹いたっけ」

「違うんだよ。」

 だからおにいちゃんって呼ぶなっていってるのに、と心で思い、佑右はまた少し眉をしかめた。そして、沙紀とは小学生の時の幼馴染みで、しばらく会ってはいなかったが、偶然同じ三桐高校になって再会したことを話した。

「私と翔子はね」

 沙紀が説明した。

「私と翔子は中学の同級生なの。さっき偶然そこであってね、ゆっくり話そうかってここにきたのよ。」

「俺と恭平も偶然会ってさ。こちらも中学の同級生さ。」

 要するに沙紀と翔子は中学の同級生で、現在高校1年生。佑右と恭平も中学の同級生で、こちらは高校二年生。翔子と恭平が八雲高校で、沙紀と佑右が三桐高校の生徒である。だから、この中で佑右と翔子、沙紀と恭平が初対面でそれ以外は顔馴染みだったのだ。

「本当に何か偶然がいっぱい重なってるよね。」

 翔子がつぶやいた。他の三人もうんうんとうなずいていた。

 いくら確率が低くても、「偶然」は「偶然」にしかすぎないのに、そこに「運命」を感じてしまうのが、このくらいの年齢のみならず、人間の普遍的な共通点であるらしい。「偶然」という「運命」は四人を急速に親しくさせ、初対面の人間を含みながらも、話はどんどん盛り上がっていった。

 他愛のない話をひとしきりした後で、

「ねえ」

と、翔子が一つの提案をした。

「ねえ、祇園祭に行かない?」

「ぎおんまつりい?」

「祇園祭って、あの、京都の祇園祭?」

「そうよ、あの祇園祭よ。」

 祇園祭とは、平安時代、疫病の流行をきっかけとして、魔避けや死者の鎮魂のために行われたのが起源のお祭りで、室町時代に町衆と呼ばれる人達によって再興されたものが現在の原形になっているということくらいは、彼らは日本史の勉強で知っていた。

「しかし突然、『京都』ってのはどういうことだよ?」

 翔子の話によるとこうだ。翔子のお母さんには双子の妹 -----翔子にとっては叔母さんにあたる----- があって、その妹が京都にお嫁に行ったのだ。そこは京都の旧家で、昔は染め物の仕事をしていて、その作業場が今でも残っているので、友達を連れて泊まりに行っても大丈夫なくらい十分広い部屋があるらしい。去年も中学の同級生数名と遊びに行ってきた、ということだった。

「沙紀はそのときは来られなかったけどね。」

 翔子は沙紀と「うんうん」「残念だったね」と目と目でうなずきあって、続けた。

「そのときおばあちゃんがとても喜んで、『来年は来ないのか。来年も来なさい。十人や二十人は平気だから、絶対においでなさいや。』って、もうそれ以来ずっと言い続けているの。」

「へえっ、二十人も泊まれるのか?」

「ううん、二十人はちょっと大げさだけれど、寝られればいいっていうんだったら、十人は大丈夫かもね。」

「その祭はいつあるの。」

「七月の十七日が本番。だから行くんなら、十四日くらいからかな。」

「えっ、十四日って、あさってじゃないか。」

「えらく、急な話だなあ。」

「でも、行きたいわね。」

「行くとしたら、学校はどうするの。」

「テスト終わったから、終業式まで何にもないだろ。」

「終業式は?」

「十九日だ。そっちは?」

「同じ市立だから一緒だよ。十九日。」

「そんじゃあ、十七か十八に帰ってくれば間に合うな。」

「行けるかも知れないな。」

「でも、家がなんて言うかなあ。」

 学校の行事についてはクリアしたものの、あとはそれぞれの親たちが、この急な計画を許してくれるかどうかだった。四人は家へ帰って、親の許可が得られるかどうか聞いてみることにした。そしてその結果を夜に電話でお互いに報告することにした。

つづく

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