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エリアF -ハレーションホワイト- 2

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 今は3×××年。街は緑にあふれ、さわやかな風がかおる。子供は笑い、鳥はさえずる。環境問題という言葉は、もう古い辞書の中にしかない。都会も郊外も美しく、人々は安全である。それは全て、機械文明が素晴らしく進歩したおかげである。全て「量子コンピュータ=クオンタム」の制御による社会管理のおかげである。政治も経済も教育も、クオンタムの管理の元で、素晴らしく安定して運営されている。

 過去の人間たちは、クオンタムによる管理というと、それだけで否定したり揶揄やゆしたり、実現は不可能だと言ったりしていたようだ。確かに現在のように安定した運営は、当時の人々には想像できないだろう。もちろんここに至るまでには、様々なトラブルが生じた。しかし人知はそれらを乗り越え、今はほとんど何の問題もない社会が実現している。かつての人々が見れば、まさに理想郷であろう。

 クオンタムが全てを管理していると言うと、非人道的で冷血で機械的なイメージを与えるが、そんなことはない。クオンタムと言えども、そのプログラムは血の通った人間が行っている訳だから、もしシステムが非人道的で冷血で機械的なものであるとするなら、それは人間のせいである。現在のクオンタムシステムは、細部に至るまで人の心が行き渡っている。

 クオンタムは人間の能力の一部を代行しているにすぎない。システムが導入される過程で、様々な問題は生じたが、現在はそのほとんどを解決している。ほぼ全ての人が、現在の社会に満足しているとぼくは思う。かつてはバグ(プログラムミス)により社会の機能が一部麻痺することもあったが、現在では、そういうことはない。優れたバグフィックス(ミス修正)プログラムが完成しているため、原理的にバグは生じ得ない。

 個人の情報は、全てクオンタムが管理している。個人情報は不必要に公開されてはいけないが、かといって、隣近所の人の名前も分からない、同級生の住所、連絡先も分からないといった状態は、情報の過保護であり、かえって犯罪が増えるなど、世の中が乱れる原因となる。

 社会は多くの人々で成り立っているので、どうしてもその社会共通の規範が必要である。かつて人々は「道徳」という規範でもって、社会を成り立たせてきた。「道徳」は、その地域、民族に固有の宗教が作り上げた。しかし現在、世界が一つの社会にまとまった以上、かつての国家、民族、宗教を越えた、全人類共通の「規範」=「道徳」を築く必要ができた。それがクオンタムであったのだ。

続く

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