エリアF -ハレーションホワイト- 26
犯罪についても、「再教育センター」は非常に有効である。
懲役や禁固など、犯罪に対する罰則はもちろん必要であろうが、それ以上に必要なのは、二度と犯罪を犯さない事ではないだろうか。懲役などは犯罪者の矯正にある程度の役割を果たしているのだろうが、それでも常に一定の割合の再犯率があったことは否めない事実である。刑務所だけで犯罪者を矯正する事はできない。
そこで現在では、かつての懲役刑、禁固刑は廃止され、その代わりに「再教育センター」に送られるという方法がとられる。この方法がとられるようになってから、再犯率はほぼ0に近い数字になっている。
さらには、重篤な病気やケガの者も、場合によってはここに運ばれる。おそらくリハビリなどに高い技術をもっているのだろう。
働く能力に問題のある者も、学力に問題がある者も、社会生活を営む能力に問題がある者も、全てこの「再教育システム」は解決してくれる。「再教育システム」は人間性、社会性、また身体能力に至るまで、ありとあらゆる人間の問題を解決する方法を持っているのである。
この「再教育システム」は、うまく利用されれば、もちろん社会に役立つ素晴らしいシステムである。しかし悪用されれば、諸刃の剣、恐ろしい事態になるのは想像に難くない。政治も経済も、すべてクオンタムによっって最善の効果が生み出されている現在、この「再教育センター」こそが、最高の権力であり最大の経済効果を生み出す機関であると言って、言い過ぎではないだろう。
またぼくが興味をひかれた原因は、ほとんどだれもその実態を知らないところにもある。「再教育システム」の内容は、その性質上当然のことではあるが、一部のエリートのみしか知らない。そういう特殊な世界を、ぼくは見てみたいと思ったのだ。
ぼくももう、30歳を過ぎた。この仕事を始めて10年を超えた。学業を順当にこなしてきたぼくは、この「再教育センター」に入所してからも、順調にキャリアを積み上げてきた。
様々なケースの再教育を行った。就いた仕事に不適応な者、学業についていけない者、かなり手のかかるケースもあったが、上司や先輩たちの手助けやアドバイスを受けて、どれも「再教育」に成功してきた。
不適応や落ちこぼれだけでない。高い能力を発揮している者に、それ以上の能力を生み出させる、という難度の高い技術も修得した。
「再教育」するには、被験者にかなりの負担を与えることもある。心理的にも、肉体的にも。場合によっては人格を破壊するような、いや実際には破壊などしないんだけれども、それぐらいの心理的圧力を与えて、人間改造をしたこともあった。きちんとシステムが出来上がっているから、どこまで負荷を与えて良いか、安全な範囲で行われている。
被験者の現状とその再教育の度合い、つまりどこまで再教育により改良するか、とを兼ね合わせて、被験者には10級から1級までのクラスが付けられている。
10級は難度の低いもの。被験者の能力がすでに高いか、目標値が低いか、である。そして最も難度の高いものが1級である。
ぼくは10年間で、2級以下の全ての被験者に対応する技術を身につけた。あとは1級のみ。1級の技術を身につければ、この「再教育センター」では、最高の技術者ということになる。