エリアF -ハレーションホワイト- 9
「お前はここから動けない。さあどうする。何か言ったらどうだ。今まで迷惑な爆音はたてていたくせに、まだ一言も声を出していないなあ。けれども、大声で助けを呼ばないと、一生現実世界には戻れないぞ。助けを呼べば、WPがなんとかしてくれるだろう。」
ヤツが反省して誰か助けを呼ばない限り、コンクリートで塗り固められたヤツは、このバーチャル空間から出ることはできない。あるいは現実世界で誰かがヤツの異変に気がついて、彼のヘッドセットをはずさない限りだ。
ぼくはそれでもまだ懲りず、ぼくを睨み付けているヤツの正体を調べてやろうと、ヤツをおいて飛び去りながら、その個人データをハックした。
「へっ、なんだ『カバ』じゃないか。」
「カバ」とは、ぼくの同級生だった。ぼくより確か2、3歳年上で、それでもまだ15学年を卒業できずにいたのだった。何をさせても人よりも劣っているくせに、体が大きいことと年齢が上のことをかさにきて、いつもえらそうな態度をしているヤツだった。
「カバじゃなくて、バカじゃないか。」
ぼくは空を飛びながらぐるりと転回すると、壁に塗り込めた「カバ」のところまで戻り、ヤツを壁から引っこ抜いて、逆立ちの向きにさせてから、もう一度壁に塗り込めた。
「『カバ』には、逆立ちの『バカ』が似合っている。」
くっくっくっ。ぼくは込み上げてくる笑いをこらえながら、明日カバはどんな顔をして学校へ出てくるのだろうと思った。もちろんぼくの正体は、カバにはばれていない。
ぼくは「カバ」を処理した後、それから今朝にかけてまで、ずっとWebの中にいた。それはWeb内での新しい移動方法を発見したからだ。