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エリアF -ハレーションホワイト- 20

 ぼくはこの古びたれんがの壁の論理座標を、端からスキャンした。論理座標スキャンだけで、当局に露見することはない。壁の右端から2mほどスキャンした所に手応えがあった。入り口の扉と、ロック解除のためのキーボードがある。さあここからは慎重に進まなければならない。一つ間違えば、地獄へまっ逆さまだ。

 ここはただ単にパスコードを入力すれば良いというものではない。ぼくは扉と入力キーを見つけた後も、慎重にれんがの壁をスキャンし続けた。

「・・・」

 やっぱりだ。壁の質がそこだけちがう。ぼくは手のひらをその部分に当てると、すでにハックしてあったパスコードを打ち込んだ。ゴリゴリゴリという石と石のこすれる重い音がして、扉が開いた。内側の壁もスキャンして、同じように扉を閉めた。ぴったりと閉まったとたん、扉は消え、壁はまた一面のれんがに変わった。

 「Saotome, Ryo 早乙女 凌 121-87367-5520-9」

 ぼくは自分の成績データを見つけ、読み出した。やはりぼくの選択した「プログラミング応用多元線形数学」の点数は27点で「2(不可)」の印がついている。自動採点の後、まだどうやらだれも読み出していないようだ。ぼくはただちにそれを学年で3位の85点に書き換えた。これでもう大丈夫。ぼくは無事に進級できるだろう。どの科目も、いつも学年1位をとっているぼくとしてははなはだ不本意だが、さすがに書き換えで1位をとるのは、良心がとがめた。まあしかし、課外研究の評価が、ぼくの学校では10数年ぶりになる「特A」だったので、総合評価はおそらく世界ランクの上位に入っているだろう。

 さっきからこの広いデータ室を、コウモリが飛んでいる。監視システムの自動巡回ロボットか。いや、これは恐らくただの脅しだ。おとりに違いない。D管理域ともあろう所が、こんな分かりやすい監視システムを導入している訳がない。これに慌てて妙な動きをすれば、感知されて捕まってしまうのだろう。

 ぼくは自分の成績を完成させ、心が落ち着くと、カバの成績がどんなものか見てやろうという気になった。ぼくの学年のデータを繰って行くと、あったあった、カバの成績があった。毎回毎回、赤点、追試、赤点、追試の繰り返しだ。先生のお情けで、ここまで来させてもらったのだろう。でも、あれ、どういうことだ。今回の試験だけ、ヤツにしてはとても良い成績をとっている。平均70点を超えているぞ。やっぱり、タコスケが教えたな。カバの腰ぎんちゃくのタコスケは、まあまあできはいい方だ。試験中の様子がなんだかおかしいと思ったら、腰ぎんちゃくが親分に、答を見せていたんだろうな。カバはカバらしく(バカはバカらしく)、赤点をとりなさいっ、て。ヤツの成績を普段と同じように、全て40点台に書き換えておいてやった。しっかりと補習を受けておいで。くっくっく。

続く

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