神宮には同じ空がある
うぐさんは普通に歩いて来た。
スーツ姿で普通に電車に乗り、スマホ片手に道を確認しながら歩いて来る。
書店に入ってきて、並んでる人達に会釈をして、「ここでいいのかな」と会場を覗き込む。しばらくしてスタッフに連れられて控室に行ったけど、相変わらずでかくてかっこよくて微笑ましい人だった。
長谷川晶一さんの「再起」発行記念イベントで、ゲストに鵜久森淳志。
元々は「再起」にナミさんが書いたうぐさんのコラムがあったから。前回決起イベントではナミさんも一緒で漫才のように笑いに溢れていた。今回はうぐさんだけ。
意外としゃべるのは知っている。松山でもトークイベントを見せてもらった。野球論は色々持っているし、子供達への指導もよくしている。
今回ナミさんはいないし、真面目一辺倒で話すかな?と思っていたら、後で見事に裏切られた。
長谷川さんの話の引き出し方がいいし、長谷川さんとの関係性もどんどん親しくなってきているんだろう。雰囲気に固さがないし、ちゃんと笑いを入れたり、観客に問いかけてみたりしながら筋道立てて話をしてる。
色々考えてる人だなぁとは思ってたけど。今回はトーク力というか、プレゼン力が上がっていることに驚いた。
期待する若手の話をしてくれるのが嬉しい。「ヤクルトの試合が気になってしょうがない」「ヤクルトファンは熱い」というのが嬉しい。もちろんハムだって気にしているけど。
一緒にやっていた選手たちがどうしてるか気にして、そして彼らが悩んだり迷ったりしている時に、外から話を聞いたり手を貸したりしてあげたいのだと。
中にいると中のことしか分からない。外からの方が分かることもあるだろうと。
それが、これからのうぐさんの野球との関わり方。
トークは面白くて、色んなことに感心したり、笑ったりしたけれど、切なかった部分もあった。
去年のキャンプ前に、うぐさんは新しくバットを作った。少し短くしたものを。打席での対応力を上げるために。
「宮出さんにも相談して。宮出さんは短いの使ってたんです」
「変えたくなかったんですけど」
「我慢して1年使ってみた」
我慢して、という言葉が堪えた。
結果、コンタクトは良くなったが打球は飛ばなくなった。ヒットを打つだけなら自分でなくてもいいのでは?そんな思いもあったのだと。
バッティングで2種類のバットを持ってたのは見ていた。フリバのケージにも2本持って行った。
「トライアウトは長い方で打ったんですけどね」
イースタンの最終打席は短い方だ。そんなに嫌だったんだとは思わなかった。
自分の打撃の根本に関わる問題だったんだろう。
サイン会が終わって最後に、ファンからイースタンリーグガイドに載っている出場記録や打数記録のことを伝えられて「知ってました。鎌ヶ谷では更新してるぞって言われてました」と言っていた。その記録が載っているから買ったというファンに「不名誉な記録ですけど」と言ううぐさん。
「でも普通の人だったらそんなに長く出来ない。一つひとつが血と汗と涙の記録ですよ」と言えば、「ありがとうございます」と笑った。
イースタン通算922試合。2955打数。782安打。
うぐさんが14年間重ねてきた、努力の跡だ。
「僕みたいな凡人」と何度もうぐさんは言うのだけど。そんなことはないと思う。
ヤクルトに来て初めて1試合4打席もらえて、右投手とも対戦できて、「やっと野球をやっていると思えた」といううぐさん。
ほんの3年間ではあったけど、傍で見られて応援出来て、本当に良かった。
野球を外から見て楽しむことになったうぐさんは、神宮でビール飲みながら見たいらしい。まだ実現してないけど。
「内野ですか?外野ですか?」という質問には「外野もいいですよね。僕あの応援好きなんです。ラッパ隊とか。でもじっくり見たいので内野ですかねぇ。内野でひっそり見ます」
果たしてひっそり出来るのかどうかすごく気になるけど。
自分は引きが良くないので、出会える確率なんて当てにしてないけど。
でも、いつかはきっと一緒に応援できるだろう。
「野球選手ってかっこいいな、と思う」
打ったらやったなって。打てなくてもまた頑張れって。
野球選手を見て応援して、困った時には外から助けることをしていきたいと思ってるうぐさん。
たまにしか会えなくても、姿を見たり声を聞いたりできなくても。
あの「心の空」のように。心に同じ空がある。
一緒にいるよ。
神宮で一緒にスワローズを応援しよう。