完璧なキース・カーロック(ドラマー)on ドナルド・フェイゲン『ザ・ナイトフライ・ライヴ』
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Donald Fagen / The Nightfly Live
去年リリースされたときに聴いて、いいねと思って記事にもしたドナルド・フェイゲン(スティーリー・ダン)の『ザ・ナイトフライ・ライヴ』(2021)。その後もずっと聴き続けているお気に入りとなっています。
なんど聴いても飽きないし、そもそも『ザ・ナイトフライ』(1982)というアルバムが前から大好きだったので、その全曲そのまま再現ライヴなんか、そりゃあ好きにならない理由ないのではありますが。
それにしても気持ちよすぎる、快感だ、ここまで聴きやすいと思えるのにはなにか音楽的な理由があるはずだと思ってじっくりさぐってみたら、どうもドラムスを叩いているキース・カーロックのスタイルがぼくの好みピッタリどまんなかなのかもしれません。
ってか、たぶんそれ、うん間違いないです。『ザ・ナイトフライ・ライヴ』は、1982年のオリジナル『ザ・ナイトフライ』を基本そっくりそのまま再現したものなので、アド・リブ・ソロのパートを除き、同じなんですが、やはりドラマーの演奏ぶりがきわだっていて、そのグルーヴがたいへん心地いいわけです。
ご存知のとおりスティーリー・ダンというかフェイゲンはドラムスのサウンドに異常なこだわりを持つ音楽家で、1970〜80年代のスタジオ録音では大勢のドラマーを呼んで同じ曲を演奏させたものを聴きかえし、パーツごとにベストなものを、それこそシンバルだけとかスネアだけとか切り貼りテープ編集して完成品にまで持っていっていたという人物。
あのころはそれしか自分の理想とする音楽の完成品を実現する方法がなかったのかもしれず、一回性のナマのヴァイブより緻密な組み立てを優先し、ライヴ・パフォーマンスはまったくやりませんでした。
風向きが変わってきたのは1990年代に入りスティーリー・ダンを再結成し、アメリカン・ツアーをやるようになってから。93/94のツアーから収録した『アライヴ・イン・アメリカ』CDがリリースされたことで、ある意味ぼくらなんかはビックリしたわけです。えっ?あのダンが、フェイゲンが、ライヴ・アルバムを出しただなんて!と。
その当時二十歳そこそこだったキース・カーロックをフェイゲンが見出したのは1990年代末ごろらしく、ダンの『トゥー・アゲインスト・ネイチャー』(2000)から参加するようになっています。その後継続して、ライヴもどんどんやるようになったフェイゲン/ダンにずっと帯同しているようです。
結局このフェイゲンの重用がカーロックの知名度と評価を決定的なものとしたようで、その後TOTOをはじめさまざまなバンドで演奏するようになっていますが、2022年までも一貫してフェイゲン/ダンの活動ではカーロックがドラムスを叩いています。ぼくは去年の『ザ・ナイトフライ・ライヴ』で知りました。
このライヴ・アルバムで聴けるカーロックのドラミングは、特に目立つとか派手に叩きまくるとかいったスタイルじゃありません。一貫して定常ビートをステディにキープすることで心地よいグルーヴを持続させるという演奏ぶりで、しかもどのパーツを叩くのもタイミング的にこの上なく正確。
特にハイ・ハットとスネアを中心に組み立てられている職人芸で、ここぞという箇所で的確に入るスネア・フィル・インなんかぼくには極上の快感。特にコーラス終わりとかサビに入る直前とかの節目節目できれいにそれが入り、音楽的にしっかりした意味のある音でもあって、ほんとうにいいドラマーだなと実感します。
『ザ・ナイトフライ』に収録されているどんなタイプの曲を叩かせてもいっさいブレがなく、常に余裕綽々のドラミングに徹しているさまは、まるで何百枚焼いてもすべて同じ味のおせんべいを仕上げる熟練の職人みたい。これだよこれこれこそフェイゲンの求めていた生演奏ドラマーだよねえと納得させるに充分なものがあります。
(written 2022.7.19)