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レビュー『まちづくり幻想』:幻想に気づくと、現実が見えてくる

この記事では、私の読んだ書籍『まちづくり幻想』の感想をお伝えしたいと思います。

 私は、この本の著者、木下斉さんのコーディネートするLDL(Localy Driven Labo)のメンバーとして活動しています。そして、このメンバーとして一緒に出版記念イベントを企画しています。4月14日に開催です。

1.「まちづくり」を美談として扱い、幻想をみていた

 本の内容は、私が要約して書くより、他の方が書いた方が絶対分かりやすいと思うので、この記事では、私の経験も紹介しながら、印象に残った部分をまとめていこうと思います。

 私は、広島市のいわゆる郊外の団地がある地域で育ちました。広島市の郊外は山坂が多い場所で「○○台団地」「○○が丘」という地名がいっぱいあります。私の小学校区もそんな地域です。ただ、私の実家は団地ができる前から農業をやっていた地元の家です。

 今思えば、団地の人には、広島の街の大手の会社の人もいたのでしょうか。持つものや遊び方が私とは違う都会的な志向がそれなりにいたんだと思いますが、私はなぜかあまりそんな人とウマが合いませんでした。何となく農家気質があったのでしょうか。大学で岡山県の高梁市という地方に進み、その後も岡山の田舎の地域で働きました。地方で住むと「若い人が良く来てくれた」と、それだけでなぜかいろんな人に歓迎してもらえたのは嬉しかったです。ただ、自分が好きでそうしていただけです。

 その後、紆余曲折あって、今の勝央町のまちづくりの会に関わるようになった時、「この地域のために恩返しになるのでは」、と前向きな気持ちになったのを覚えています。

 「まちづくり」について自分なりに学ぶ過程で、木下さんの著書を知ります。木下さんは「補助金はまちを滅ぼす」という鋭い意見を言う人で、すぐには理解できませんでしたが、「まちづくり」の活動に関わりを続けていって、徐々にその意味を理解できるようになりました。

 この本でも、まちづくりという美談のもと多くの補助金が無計画に消費されている実態が紹介されています。しかし、地方ではその消費が「○○ができました」、「○○が開催されました」と成果と関係なく「美談」としてメディアに取り上げられます。

 私も、自分の地域での活動がメディアに取り上げられた嬉しくなったことがあります。でも、そのメディアに取り上げられたことが何につながるのか、そこからどうお金を地域で循環させるのか、豊かな地域にするには、そんなことをしっかりと考える必要があります。「美談」を「幻想」と翻訳することで、現実を見つめることができました。

2.「人がくれば良い」という幻想

 地方での暮らしが長くなると、空き店舗ができたり、空き家ができたり、若い人が減ったり、とネガティブな話をよく聞きます。そして、昔の栄えていた時代を取り戻すために「若い人を呼んでこよう」「子どもを産みやすくしよう」「移住者を増やそう」というキャッチコピー、取り組みがたくさんあります。

 私も、人が多いのが良いことだと思っていましたが、この本では、その常識の前提をグルっと覆してくれます。人口が少なくても、豊かな地域はたくさんある。人口が多くて町が栄えたのは、労働集約型の時代のイメージで、例え農業でも付加価値の高いものを作り、大きな収入を得られる地域があるということを知りました。私のいる勝央町も、岡山の特産として有名な桃やブドウの産地です。私は、自分の実家のイメージも含めて農業にはあまり良いイメージがなかったのですが、可能性を感じることができました。

 地域のイベントや事業でも「○○○人参加しました」という数字が良く目安になりますが、人数を追うのでなく、お金の動きを追うことの大切さにも気づきました。地方のお祭りでは盛大にお金が使われる印象ですが、一時的に人が来ても、安くたくさんでは、準備にお金を使って、地元の人が疲れる割に、収入は増えません。地方では、「みんなで手伝ってがんばろう」みたいな掛け声で、地域の行事に時間を使うことがあります。そして、疲れます。私は、のんびりしている田舎の暮らしは好きですが、時には街に出たいし、自由な時間もほしいです。だから、この人数の幻想の話は、私のこれまでの違和感を整理させてもらいました。社会で支え合うには全てが不必要ではないでしょうが、活動の意味を考えて、イベントごとは見直す必要はあると感じました。

 関係人口についても、ただ友達を増やすのが好きなだけなら良いのでしょうが、経済的な視点で考えた際には、どんな人と関係をつくるべきか、イメージをしっかりとする必要があることに気づきました。仕事の関係と一緒で、地域に貢献できる人かどうかを考えないと、ただお金を配って人が集まっても、依存的な人の中からはあまり良いアイデアは生まれません。一緒に考えれば良い答えが出るのが「幻想」ということも「なるほど」と感じます。私のまちでも関係人口というキーワードがありますが、一歩踏み込んだ議論をしようと感じました。

 他にも、違和感を整理させてくれたものがいっぱいあります。「若い人にがんばってほしい」という割に、年功序列で窮屈だったり、「女性に来てほしい」という割に、ジェンダー差別が根強かったり、「結局、因果応報的なところがある」、という話、納得しました。人込みが苦手な私でも、相対的に「個」を大切に暮らせる都市部が良いと思うことが多々ありますので。

3.立場が違ってもできることがある

 この本では、行政、民間の立場の違い、権限のある人、そうでない人、さらには、地方に対して外から関わる人と立場に合わせてできることを提案しています。幻想に気づいたあとに、「では、現実と直面して、何ができるのか」、アクションプランが示されています。私もまちづくりの会には所属していますが、普段はいちサラリーマンですので、できることは何か考えることができました。

 ただ、それぞれハウツー本みたいに分かりやすいことは書いていません。それでも、著者がつながっているそれぞれの地域で実践している事例が紹介されており、考えるヒントになります。この本で警笛を鳴らしているのは、良い事例の丸パクリです。良い事例はその地域、そこの人だからできたことで、自分の地域でどうするか、考える必要があります。そして、覚悟が必要です。その地域で前に進むためには、それぞれの立場でできることをやる。

 覚悟が必要なのは、都市部でも地方でも、結局一緒ではないかと感じました。逆に、地方だから「みんなでよく頑張った」「昔は良かった」という幻想によってぼんやりしてしまいがちな現実に意識的に向き合わないといけません。

 インバウンドも、ワーケーションも、乗っかっていたらうまくいくというのも幻想で、最終的には自分達で考えなければならないという、著者の愛のムチを感じます。

 最後に、志ある人でつながり、仲間で刺激し合って実践することを提案されています。私も、この木下さんを通じて人との出会い、多くの刺激を受けています。いろいろ偉そうに書きましたが、私自身現実を見て、行動したいと感じています。一緒にがんばろうと思える仲間が増えることを願っています。

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メンバーで実践内容を記事としてアウトプットしています。アウトプットも大事なアクションだと感じています。ご覧ください。


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