【なぜ伝統音楽NFTなのか?】Part3.解決策としてのNFT
※この記事は『Part3』です。
『Part1』と『Part2』をまだお読みでない方で、全体像を把握したいという方は、そちらからお読みいただくことをオススメします!
◉Part1 邦楽界の抱える問題
https://note.com/hisashi_musik/n/n644e98d7a546
◉Part2 邦楽再生の方法を本気で考えてみる
https://note.com/hisashi_musik/n/n8e39cc3aa506
解決策としてのNFT
ここまでの記事で、邦楽界が抱えている問題と、今実際に機能している3つの解決策について詳しく書いてきました。
この記事では(ようやく)既存のものとは異なる『第4の方法』として、NFTがなぜ有効だと考えられるのか、現時点での僕の考えをまとめていきます。
1.日本のNFTは『何かがおかしい...』
僕がNFTを最初に知ったのは、2021年の3月頃でした。
当時(2020〜2021頃)僕は、SNSでカバー動画をたくさん投稿していました。
上手くいくときもちょくちょくあったのですが、正直限界を感じていました。
アルゴリズムの変更など、プラットフォーム側の容赦ないルール変更により、少し前までうまくいっていたことが急にうまくいかなかくなる… 当時の僕はまさにそんな状況にあったからです。
だからこそ、NFTやweb3的な世界観に強く惹かれたのを覚えています。
『リツイート』や『視聴回数』を追いかけなくても、少数の熱狂を生み出すことができれば「アート作品」としてデジタルコンテンツを販売することができる、プラットフォームに依存しない非中央集権的な世界観。
なんとなくの理解でしたが、間違いなく当時自分が抱えていた問題、そして邦楽全体の問題解決の糸口になるという、確信めいた感覚がありました。
それから、とりあえず情報収拾のため様々なNFTアーティストの動向をTwitterで追っていったのですが… その中で僕は、ある傾向に気付きました。
日本発NFTで注目を集めているクリエイターやプロジェクトの中に、日本文化をモチーフにした、和風な世界観のものが非常に多かったのです。
日本人なんだから当たり前でしょ?と思う方もいるかもしれませんが、僕にとってはこれは『明らかな異常事態』でした。
確かに日本人は日本文化を「好き」かもしれません。
しかしその「好き」とは多くの場合「嫌いじゃない」という意味です。
具体的にいうと、例えばこういうことです。
Q. 箏や尺八、三味線など、「邦楽器」の使われている楽曲の曲名を5つ挙げてください
いかがでしょうか?
邦楽関係者、あるいは和楽器バンドのファンの方以外で、何人の人が5つ挙げることができたでしょうか。
ではこれが『ピアノ』や、『バイオリン』や、『ギター』ならばどうでしょうか?
いずれの場合も、音楽好きであれば多くの人が5つ以上(人によっては10も20も)挙げることができるのではないでしょうか?
単純な楽器の使用頻度を考慮に入れても、邦楽とその他のジャンルに圧倒的な認知度(熱狂度)の開きがあることは間違いありません。
例えばYouTubeの登録者数を見てもそれは明らかです。
トップクラスのピアニストYouTuberは100人〜200万人もの登録者がいますが、純粋な和楽器奏者はトップクラスでも1〜2万人がいいとこです。(グループや複数人運営、マルチタレント的な人でようやく5万〜8万くらい)
非常に雑な単純計算にはなりますが、和楽器の演奏コンテンツはピアノのそれに比べて1/100程度の需要しかない、ということになります。(実際には、ピアニストYouTuberの人口はYouTubeをやっている和楽器奏者の人口より圧倒的に多いので、下手したら1/1000〜それ以下かもしれません。)
確かに僕は、「和楽器を嫌いで嫌いでしょうがない」という日本人に会ったことはありません。
そういう意味では、「日本人は日本文化が好き」というのは間違いではないと思います。
ですが、それは多くの場合「嫌いじゃないけど、そんなに興味もない」という意味であることを、数字が証明していることは認識しておくべきでしょう。
ではもう少しジャンルを広げて、こういう質問はどうでしょうか?
Q. ここ5年間で、着物や和楽器、茶道や伝統工芸など日本文化に関連する商品・体験に、いくらお金を使いましたか?
いかがでしょうか?
『日本文化は全然嫌いじゃないし、それなりにありがたい存在だと思っている。だけど日常的に積極的に情報を取りに行ったり、わざわざお金や時間を使って夢中になる対象ではない』
これが、大半の日本人のスタンスです。
ちょうど、「いい人だけど恋愛対象にはなれない男」みたいなポジションだと僕は思っています。
やはり、多くの人が夢中になるのは『おしゃれイケメン』や『ヤンチャ系マッチョ』です。
音楽でいうなら、J-POP・ボカロ・ロック・EDM といったところでしょうか。
僕の知っている日本文化というのはまさに、こういったモダンで刺激的なライバルの影にかくれ、『いい人だけど恋愛対象としてはちょっとね...』と言われてしまう、そんな存在です。
ところが、NFTの世界では少し様子が違いました。
日本文化をモチーフに採用した作品・プロジェクトの比率が明らかに多いのです。
個人レベルだけでなく、大型プロジェクトにまでこの傾向が見られました。
今までいいやつ止まりで見向きもされなかった『日本文化』が、なぜか急にモテ出したのです。
それも「それまで特に日本文化にコミットしていたわけじゃない人」にもです。(もちろん元々日本文化に携わっていた人がNFTに参入したケースもありますが、特にプロジェクト系NFTは、この傾向が強い気がします。)
依然として少数派ではあるのですが、YouTubeやテレビの露出などと比較すると、業界全体における日本文化の採択率はかなり高い、という印象を受けました。
なぜ、このようなイレギュラーな現象が起きたのでしょうか?
ついに日本文化の真価が見出され、多くの日本人が日本文化を愛するようになったのでしょうか?
残念ながらそうではないと思います。
おそらく最大の理由の1つが「戦略的合理性」です。
NFTは世界中がマーケットなので、海外展開を視野に入れる人の方がむしろ多数派です。(たとえ現在は注力していなくても、いずれ海外展開を…と考えているプロジェクトは非常に多いはずです)
それゆえ、『日本人にしかできないことをして差別化を』と考えるのはごく自然な流れです。
もちろん、『純粋な母国文化への愛』も十二分に含まれているとは思いますが、『戦略的合理性』が微塵も感じられない場合でも、果たしてプロジェクトのファウンダーやクリエイターは「日本文化を扱う」という意思決定をしたでしょうか?
誤解のないように言っておくと、僕はこういった戦略的な理由で日本文化を使用することを非難するつもりは全くありません。
それどころか、寧ろありがたく思っています。
理由はどうあれ、日本文化が今かつてないほど(NFTという業界に限っていえは)注目を集めているのは事実だと思いますので。
間違いなく、伝統業界が今までになく戦いやすいフィールドが、NFTには用意されているわけで、これは非常に喜ばしいことです。
ただし、この評価はバブルのような側面もあると思っています。
「NFTの黎明期」という非常に特殊な文脈の中で評価が高まっているに過ぎず、実際にコンテンツや体験に対する「本当の価値」を感じてもらえているのかというと、少し疑問が残ります。
海外戦における日本文化の「戦闘力」を過大評価する世間の風潮(Part.1参照)もこの評価を手伝っていることを考えると、浮かれてばかりはいられないなと思っています。
今吹いている追い風・チャンスをうまく利用して『価値あるコンテンツや体験』を提供し、真の意味での長期的な評価を高めていくことが重要になってくるでしょう。
2.「協力」というweb3的文化
これも僕が非常に重要視しているところです。
web3には根本に「中央集権からの解放」という理念があります。
そのためか、NFT界には、一緒に盛り上げていこう!という仲間意識が(少なくとも今のところは)あり、独特の協力体制が比較的生まれやすいように感じています。
また、そもそもNFT自体がまだまだ小さい業界なので、業界自体を大きくすることが結果的に自分のリターンになる。
あるいは、報酬の分配なども従来より簡単にでき、インセンティブの設計がしやすい。
こういった業界構造やテクノロジーによる仕組みも、協力関係を結びやすくするのに一役買っていると言えます。
こういった思想や雰囲気、仕組みなどのおかげで、プロジェクト同士が協力関係を結びやすい業界、これが今のNFT業界です。
これは僕にとってはとても大きな意味を持ちます。
そもそも、伝統文化全般には「業界が分断されており、あまり積極的に業界を跨いだ協力をしない」という傾向があります。
例えば、僕のいる伝統音楽の業界には下図で示すように様々なジャンルがあります。
一般の方からすると、「全部まとめて伝統音楽じゃないの?」という印象かもしれませんが、これらのジャンル間には(一部を除いて)想像以上に大きな隔たりがあります。
たとえば、箏(琴)を中心としたジャンル『箏曲』は、歌舞伎や能、雅楽などのジャンルとはほとんど接点がありません。
一応、同じ「音楽」というカテゴリーの中の話なのですが、それでもこの有様です。
着物、茶道、伝統工芸、書道など、ジャンルの違う伝統文化間の繋がりは、(一部歴史的・文化的に交友がある組み合わせを除けば)更に希薄だと言えるでしょう。
それでも、各産業が協力しなくても単独で十分やっていけるだけの体力と市場規模があれば別に良いのですが… そんなはずはありません。(伝統産業はどこも仲良く沈みかけています。)
となれば、戦力を業界ごとに分散させるのでなく、いくつかの業界が手を取り合って団結することはもはや必須であると僕は考えています。
避けては通れない「協力」という行為を促してくれるという意味で、web3的文化とテクノロジーは伝統産業において大きな武器になります。
まだまだ課題もありますが、少なくとも従来よりは透明性の高い仕組みがあり、関係者への収益分配もスムーズにできるようになっています。
さらに、NFT業界にはさまざまな分野のスペシャリストが集まっているのも大きいです。
Part.2で少し触れましたが、これからの伝統産業において起業家やマーケター、デザイナー、エンジニアなどの人材の重要性はどんどん上がっていくでしょう。
NFTという領域では、今まで接点がなかった「伝統産業従事者」と「プロフェッショナル人材」が出会うことで、全く新しいイノベーションが生まれる可能性があります。
3.従来とは全く違った層へのアプローチ
現在、NFTに興味を持ち実際に購入や販売をしている層は、
・IT・テック業界人
・クリエイター
・起業家
・暗号資産投資家
etc…
というように様々ですが、これらの方々のほとんどが、従来の邦楽愛好家層とは全く違った層です。
NFTを使用することで、こういった新しい層へのアプローチを期待できます。
NFTという業界はまだまだ小さく、様々なプロジェクト・クリエイターが『NFT業界』という1つのカテゴリーに放り込まれている状態です。
よって、今まで邦楽業界とかすりもしなかった人たちとの距離が近く、実際に僕のプロジェクトを通して邦楽に興味を持っていただいた方もちらほらおり、既に手応えを感じています。
これはもちろん、邦楽や伝統産業だけに言えることではありません。
ありとあらゆるジャンルが「NFT」という1つ屋根の下に集まることによって、「新たなジャンル同士の出会い」が生まれているのは非常に面白いです。
実際僕も、NFTを始めてから今まであまり縁がなかったジャンルに触れることが増え、とても刺激的な毎日を送っています。(知らなかったことを知れるって楽しい!)
とはいえ、今後は徐々に細分化がどんどん進んでいくと思うので、期間限定のボーナスみたいなものだと思いますが… 今までとは全く違う層にアプローチできることで、新たな活路を見いだせるのではないかと期待しています。
なぜ伝統音楽NFTなのか?まとめ
①現在のNFT業界では日本文化への注目度が高い
②協力関係が結びやすい
③従来とは全く違った層へのアプローチが可能
以上3つが、僕が伝統音楽領域でNFTを活用すべきだと考える主な理由です。(他にもあるのですが、長くなりそうなので別の機会に…)
こうやってまとめてみると、『NFT特有の文化や業界を取り巻く状況が、伝統産業において有利に働くこと』が重要であり、『技術的にNFTでなければできないこと』はほとんどない、というのが面白いところです。(別にそれでいいと思っている!)
もちろん、これは現時点での「仮説」に過ぎず、思いも寄らない壁が立ちふさがることになると思いますので、今後プロジェクトを進めていく中で修正をかける必要が出てくるでしょう。
結局何をするのか
さて、これまで3章にわたり、長々と御託を並べてきましたが、「結局、何をしていくプロジェクトなの?」ということに全く触れられていません。(すみません!)
このままだと机上の空論、ただの御託野郎になってしまいますので、この記事の公開と同時に1つ、企画を発表します!
主に「②協力関係」に関する企画です。
企画詳細
↓↓↓
取り急ぎ1つ公開しましたが、もちろん打ち手はこれだけではありません。
ラストのPart.4では、これまで述べてきた前提を元に、CryptoWagakkiが目指すものをより具体的にお示ししたいと思います。
Part.4(ラスト)に続く…
2023/08/14追記
…の予定でしたが、色々と活動を続ける中で、当初やろうとしていたことより明らかに効果的なアプローチがあることを確信しました。
内容的には、今までの内容と一応繋がるのですが、より広く、根源的なテーマに関わってくるので、続きとして書くには少しチグハグになってしまう気がします。
そこで、「なぜ伝統音楽NFTなのか?」というテーマとしては一旦このPart.3で終わりとし、後日改めて記事を書きたいと思います。公開され次第、そちらへのリンクを↓に貼っておきますので、ぜひ読んでいただけると嬉しいです!
2023/08/20追記 : 公開されました!ぜひ下記リンクかお読みください。