見出し画像

AI時代に向けたエキスパート教育の難しさ

ご無沙汰しております。
宣言通り1月は休養とし、2月からはまた忙しくなってきました。
去る2月16日、OHKKの会(関西4私大の会)で特別講演をしてきました。
場所は参天製薬さまにお借りして、新大阪のオフィスで行いました。
この会は関西4私大の若手眼科医を育成するための研究発表の会です。
座長も演者も初めてクラスの若い先生たちにやっていただき、我々中堅〜ベテランが形成的にコメントしていきます。
今回で第7回で、割と長く続いておりました(諸事情で今年が最後なのですが)

このOHKKの会で特別講演のお役目をいただいて、自分の専門である網膜内科領域についてお話してきました。

網膜内科領域は、多角的網膜画像診断(multimodal imaging)を駆使して正確に診断し、レーザーや硝子体注射、あるいは全身治療などを併用して治療していく領域です。
診断や治療にかなり物理学の難しい概念に基づいた技術を使うのですが、実はほとんどの先生はわかっていません。
例えば蛍光眼底造影は我々がよく使うツールなのですが、「蛍光」を説明できる先生は少ないです。
蛍光とは励起光を浴びた最外殻電子が励起し、元の周回軌道に戻るときに発する光です。
あるいはレーザーのお話もしました。
レーザーの言葉は、LASER(Light Amplification Stimulated Emmission of Radiation 誘導放出による光増幅放射)ということから来て、略称なのですべて大文字表記が正しいです。
特殊な媒質に電圧をかけ、ミラーとハーフミラーを使い光を抽出したもので、単一波長かつ指向性、高出力に優れ、光の工学的応用を可能にした重要な発明です。
私はレーザー専門医も持っており、このあたりも勉強しているのですが、多くの先生はレーザーのメカニズムを知らずに治療に使っています。
多くの眼科医はある意味、ブラックボックスを通した概念を使用しているのです。

ブラックボックスが入る怖さ

何でも、仕組みがわかっていると変化が生じた際に微調整ができますよね。
例えば眼底写真でいつもと違う物が写っていたとき、これは病気なのか、それともカメラ側の問題なのか。
レーザー治療で思ったような結果が出ないとき、その原因は患者側の因子なのか、機械側の因子なのか。
医療技術がブラックボックス化していると解釈ができない場合があります。
もちろん、全てを理解するのも難しいのですが。。

AI時代に向けたエキスパート教育とは

ブラックボックス化の最たるものがAIによる判断ではないでしょうか。
AIは膨大なデータを蓄積し、人間の判断基準とは違うところで結果を吐き出します。
困ったことにその論理は説明できるものが全てではありません。
レントゲン写真や、内視鏡検査などではすでにAIが診断や治療に応用される時代が来ています。
AIが吐き出した診断をみて判断に迷ったとき、どのように考えればいいのか。
今回の講演では、その助けになるように技術背景のお話をたくさんしました。
かなり難しいお話だったのですが、ためになっていることを願います。
AI医療のもう一つの問題点は、AI医療を超えたところを考える修練がおろそかになる可能性です。
基本的にAIは多くのデータを集めるため、正規分布に基づいた結果を吐き出します。
ですが、眼の前の患者さんが、万に一つのレアケースだったら。。?
AIにはこのような時に適切な対応は難しく、エキスパートは自分の経験でこれに対処していきます。
AI医療が優秀であればあるほど、若い先生たちはAI医療で満足してしまってその先に進まなくなってしまうかもしれません。
そんな事を考えながら、講演をしてきました。
自分もまだまだ成長が必要ですが、次世代を育てる工夫も日夜考えております。


いいなと思ったら応援しよう!