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近視の講演をしてきて思うこと(日本の新規医療認可の遅さについて)

去る11月3日、日本視能矯正学会でオルソケラトロジーによる近視治療について講演してきました。
近視治療という言葉の意味は、①近視の方の(裸眼)視力を改善させること、②小児において近視の進行を遅らせることの2つの意味があります。
オルソケラトロジーとは別名ナイトコンタクトも呼ばれ、夜間就寝中にコンタクトレンズを使用することで(裸眼)視力を改善させる治療です。
しかし、近年の多数の研究によってオルソケラトロジーは②の近視の進行を遅らせる働きがあることがわかっています。
しかし今回の講演では、①のオルソケラトロジーは小児において(裸眼)視力を改善させることだけを話してきました。
②については話せなかったのです。
なぜか。
実は世界各国の報告で確認された②の効果を日本が認めていないからです。

我が国は新しい医療に対して、非常に保守的です。
例えば海外で開発された新薬が我が国に入ってくるのが遅れる/入ってこない問題を、ドラッグラグ・ロスと呼びます。
新薬の認可が遅れたり、認可されなかったりするんですね。

こちらの先生が国の資料も交えてしっかりと書いてくれています。
国は取り組んでいるとのことですが、明らかに色々と遅い現状が続いています。
かつて肺がんの治療薬「イレッサ」がスピード導入され、治験時に明らかでなかった間質性肺炎の副作用が多数出たため大きな問題になったことがあります。
その時の教訓で、やっぱりゆっくり吟味しよう、になったのかもしれません。
さらに、この問題は薬においてだけではありません。
現在認可されていない治療全てに対し、遅れが発生しています。

今年の日本眼科学会総会で京大に所属する三宅先生(母校の後輩であり、大変尊敬しています)がこのドラッグラグ・ロス問題について講演を行いました。
網膜の病気の一つである、中心性漿液性網脈絡膜症に対して、光線力学療法という特殊なレーザー治療は既に有効であることがわかっています。
2015年には日本大学の方から90%の有効率があったとの報告もありますし、海外の報告も多数あります。
しかし、日本の厚生労働省は改めて治験を要求してきました。
過去の積み重ねは認められず、現在改めてこの治験が走っているそうです。

この講演のなかで三宅先生が紹介していた、寓話的論文です。
「パラシュートの有効性は証明されていない!
だからパラシュートを使う群と、使わない群に分けて高所から飛び降りる研究が必要だろうか!?」
というような内容です。
パラシュートは。。使いたいですよね。無いと死んじゃいますよね。
誰もが有効だと分かっていることをあえて証明する必要があるのか?ということです。

先ほどの②である小児の近視進行抑制に関しては、点眼、オルソケラトロジー、多焦点ソフトコンタクト、特殊眼鏡、光線療法(Red Light Therapy)のいずれも有意な効果があるとの論文が複数あります。
しかし、その全てが国の認可を得ていません。
我が国ではこれらのデータが認められていないため、それを公的な場で語ることができないのです。
幸い日本において医師の裁量権は多く認められているので、「個人的に」私はこの件について書くことができております。
しかし、この現状は健全なのでしょうか?
衆議院選挙ももう終わりましたが、こういったこともやはり国民全員が知り、議論すべきかと思います。

オルソケラトロジーを未成年に使えるようになったのは、2017年のガイドライン変更のときからです。
開業医以外の先生はまだまだこの治療法を知らない事が多いです。
引き続き各方面に向けて、啓蒙活動を続けていきたいと思います。

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