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研究発表「質疑応答」の10のコツ

研究発表の質疑応答は、慣れないと非常に緊張するものです。この記事では、質疑応答の際に「これを守っておけばきっと上手くいくよ」というコツを紹介します。質問への答え方のパターンも載せています。大阪大学大学院の教員であり、2021年10月に『卒論・修論研究の攻略本(森北出版)』を上梓した著者が解説します。
※この記事は、著者の駆け出し研究者のための研究技術入門の記事に多少修正を加えて転載したものです。

10のコツ

この記事で紹介するコツは以下のものです。

①質問の疑問詞を聞き逃さないようにしよう
②まずは簡潔に一言で答えよう
③考えたことのない答えは考えながら答えなくて大丈夫
④質問が分からないときは聞き返していい
⑤質問者に勘違いがありそうなら確認しよう
⑥他の聴衆にも気を配ろう
⑦平身低頭し過ぎず、また過剰に防衛的にもならなくていい
⑧質問者に教えてもらうのもあり
⑨もらったコメントには見解を盛り込もう
⑩真剣に答えよう

一枚絵にしたものはこちら。

1つずつ解説していきます。

①質問の疑問詞を聞き逃さないようにしよう

質問には、空欄を埋める形式のもの(オープンクエスチョン)と、選択肢が与えられる形式のもの(クローズドクエスチョン)があります。どちらの形式の質問なのかを瞬時に聞き分けて、それに合わせて答えることが大切です。聞き分けるには、質問の言葉のなかの「疑問詞」を聞き逃さないように集中しておくと良いでしょう。

空欄を埋める形式のオープンクエスチョンは、たとえば、「~なのはなぜですか」「何を用いたのですか」「どのようにお考えですか」といったものです。この場合は、その疑問詞を埋めた形で答えましょう.「~なのは~だからです」「~を用いました」「~というように考えます」といった具合です。

選択肢が与えられるクローズドクエスチョンには、たとえば「これは~ということでしょうか」「それでよいと考えているのですか」のようなYes/No選択の質問や、「A、B、Cのうちのどれでしょうか」のような要素選択の質問があります。この質問の場合は、「Yesです」もしくは「Bです」のように、基本的には相手の提示した選択肢を選んで答えましょう

ただし、YesでもNoでもない場合や、「AとB」のように複数選べる場合、さらには提示された以外の選択肢Dも選んでよい場合があることは忘れてはいけません。この場合は、「YesでもNoでもありません」「AとBの両方です」「どれでもなく、Dです」と答えればよいでしょう。

②まずは簡潔に一言で答えよう

質問を受けたとき、単純にYes/Noでは答えられず、「たくさんのことを説明しなければ納得してもらえないぞ」と考えて焦り、長々と説明を続けてしまいがちです。しかし、これは質問と回答の対応が聴衆にとって分かりにくくなるので避けるべきです。

説明が長くなりそうなときには、まずは簡潔に一言で答えておいて、そこから必要に応じて補足の説明をしましょう。曖昧でも一言答えておくことで、随分気持ちが楽になります。「それに答えるのはややこしいですが、概ねその通りです」「理由はうまく答えられませんが、実感としては~であると考えています」「実はまだうまく整理できていません」などのような答え方があり得ます。

③考えたことのない答えは考えながら答えなくて大丈夫

これまで考えてこなかったことを質問されたときには、原則、考えていなかったことを素直に認めましょう。じっくり検討しなかった内容を説明してしまうと、そこに矛盾が発生して、それまで説明してきた論理が破たんしてしまう恐れがあります。

質問者は常に完璧な答えを発表者に求めているわけではありません。曖昧で穴だらけの回答を聞くよりも、「考えていませんでした」という回答を聞く方が質問者にとっても有益です。「なるほど、そこを考えていなかったからあそこがこういう話になっているんだな」とか、「それならそこを先にうちが考えたら先に成果を出せそうだな」といったように納得感や気づきを得られるためです。

④質問が分からないときは聞き返していい

質問の意図がわからず、どのような形式で答えればよいかがわからないときは、「その質問は~ということでしょうか」のように、自分なりの理解を加えた答えやすい形式の質問に置き換えた上で、それが正しいかを質問者に尋ねましょう。質疑応答とはいえ、発表者に質問の権利がないわけではないのです。

質問を勘違いして頓珍漢な回答を長々としてしまう方が全体にとっても不利益なので聞き返して質問の意図を確認することは多くの先生もやっていることです。最悪の場合、「すみません。質問がよくわかりませんでした。別の形で質問していただいてもいいですか?」もありです。

⑤質問者に勘違いがありそうなら確認しよう

質問者は、ときには間違った理解に基づく質問をする場合があります

ですので、発表者は、どのような理解に基づいてその質問がなされたのかをしっかりと把握し、その正しさを確認した上で回答をするようにしましょう。

たとえば、先輩研究者から、「発表では紹介されていなかったけどこの研究の背景にはAということがあるはずで、それなら別のこっちの手法の方を用いるべきではないか」という質問(に近い主張)があった場合、「その手法を用いるべきか否か」という選択肢のどちらを選ぶべきか、ということだけに意識が向きがちです。しかし、まずはしっかりと前提を確認しましょう。

この場合であれば、「研究の背景にはAがある」という前提を真としてよいかどうかです。「Aの存在は考えてみたことがありませんでした。なぜAが存在するとお考えかを教えていただけないでしょうか」といった質問を返したり、「Aの影響は今回ないことを確認しています」といった回答をしてもよいでしょう。

⑥他の聴衆にも気を配ろう

質疑応答の時間が限られた学会発表のような場では、特定の質問者との一対一の議論を延々と続けないようにしましょう。もちろん、その議論が多くの聴衆にとっても有益だと判断した場合には続ける意味がありますが、そうでない場合にはある程度で打ち切って別の質問者に質問をしてもらう機会を配分すべきです。「議論が長くなりますので、後で個別でお話しさせてください」と言えば大抵の質問者は同意するはずです。話題をコントロールすることは、発表者の特権です。

ただし、学位審査会(卒論発表会や修論発表会など)や面接での発表の場合は例外です。議論をどこまで続けるかは審査側(審査員や司会者)が判断してコントロールすることになりますので、審査側が続ける限りは一対一の議論に集中することが必要です。

⑦平身低頭し過ぎず、また過剰に防衛的にもならなくていい

論理が完璧で、誤りがなく、手段が最適で、課題が残されていない研究は現実的にはほぼないといってよいでしょう。

ですので、「この研究はここが足りないね」と言われても、自信をなくして卑屈になったり、謝ったりする必要はありません

かといって、「荒さがしをするなんて失礼な!自分の論理は完璧だ!」といった過度に防衛的な態度も相応しくありません。足りないと言われた部分に対して、これまでどのように考えてきたのか、今どう考えているのか、今後どうしていくつもりなのか、ということを淡々と述べればよいです。

⑧質問者に教えてもらうのもあり

質問に対する明確な答えを持ち合わせていない場合には、それを素直に認めた上で、その答えに近づく上で有益な知識やアイデアを持っていないかを教えてもらうのもよいでしょう。

大抵の質問者は味方です。穴をついて論理を潰してやろうとか、困らせてやろうと考えて質問をしているわけではありません。一見いやらしく映る質問であっても、実際はそうでなく、見つけた論理の穴を埋める説明を知りたいとか、自分のアイデアや知識が役に立ちそうか確かめたいとか、困ってそうだからアドバイスしてあげようとか、そういった純粋な学問的な立場からなされている場合がほとんどです。

⑨もらったコメントには見解を盛り込もう

質問者からもらったアドバイスや意見に対しては、必ず自分なりの見解を述べましょう。「~だからこうした方がよいのではないか」といったアドバイスをもらったとき、「ありがとうございます。今後の参考にさせていただきます。」としか返答しなければ、せっかく提供したアドバイスが伝わっていないのではないかと心配させてしまいます。「ありがとうございます。そういったやり方は聞いてはいたものの、どれほど効果があるかの判断ができず、実施していませんでした。実施することを検討してみます」くらいの見解は述べておきましょう。

⑩真剣に答えよう

質問に対する答え方を見て、聴衆は発表者の能力や性格を判断します。新しいアイデアに対して柔軟なのか頑固なのか、議論好きなのか、理解力や察しのよさはどれほどで、どの分野の知識が豊富なのか、また慎重なのか大胆なのか、積極性やモチベーション、そして責任感や自信はどの程度か、といったことが、質疑応答のやりとりを見て多くの人に判断されるのです。たかが数分の質疑応答だと高を括らず、真剣に臨みましょう。

おわりに

  • 質問の言葉のなかの「疑問詞」を聞き逃さないように集中しましょう。

  • 質問者は常に完璧な答えを発表者に求めているわけではありません。

  • 質問者は間違った理解に基づく質問をする場合があります。

  • 論理が完璧で、誤りがなく、手段が最適で、課題が残されていない研究は現実的にはほぼありません。

  • 大抵の質問者は味方です。


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