果てしない文章推敲を「3ステップ」で効率的に終わらせる方法
文章は、「これで伝わるだろう」という淡い期待を簡単に裏切ります。伝えたいことを期待通りに伝えられるようになりたいのなら、「表現の質」を高めるための推敲の技術の習得が不可欠です。
この記事では、大切ながら手間のかかる推敲を「効率的に」実施する方法を紹介します。ほとんどはじめて論文を書くことになった学生さんが、論文原稿(卒論・修論)の価値を飛躍的に向上させるうえで役にたちます。また、論文に限らず、「正しく、詳しく、丁寧に伝えたい」という気持ちで文章を書こうとする場合には、さまざまな場面で使えるはずです。
この記事で紹介する推敲の手段は、「切り分ける・並び替える・繋ぎ方を変える・削り落とす・一貫させる・まとめる・明確にする・限定する・やさしくする」の9種類です。この9種類さえ自由自在に駆使できれば、論文の文章を劇的に良くすることができます。この9種の推敲を、「まず工事して、片付けて、最後に気遣いを加える」という手順で実施すると手戻りが少なくなりますので、この3ステップで推敲を進める方法を解説します。
推敲は仕上げまでの工事のように
家を作って仕上げていこうとするときには、家具や装飾品を配置するより「先」に、柱や壁の工事や、その工事で散らかったものの片付けを済ませておきますよね。そうしないと、せっかく置いた家具が置けなくなったり、装飾品が汚れてしまったりするなど、無駄が出てしまうからですね。
推敲でも同じです。まず工事を済ませて、片付けてから、最後に気遣いをするという3つのステップを踏んで着実に文章を仕上げていきましょう。
この3つのステップを、著者は「構造改良」「整理整頓」「意味確定」と呼んでいます。
それぞれのステップではどんな推敲をするのか、詳しく見ていきましょう。各ステップでは3つの推敲を駆使することになりますから、3×3で合計9種類の推敲を扱います。
第1ステップ「構造改良 - 大工事」
構造改良に含まれる推敲技術は、①切り分ける、②並び替える、③繋ぎ方を変える、というものです。工作みたいな作業ですね。
①切り分ける、は長い文章を途中でばっさり打ち切って構造を単純にするものです。軽い一息で読みきれないくらい長い文章を見つけたら積極的に切り分けていきましょう。読点を句点に変えられないかを検討するのが効果的です。修飾語が長い場合は、そこだけ次の文に回すのもありです。切り分けることで、文法が単純になるので読みやすくなりますし、誤解されるおそれも減らせます。さらには、主語と述語が対応しない、などの文法的な誤りも減らせますので、一石三鳥です。
②並び替える、は関連が強い語句どうしがなるべく近くになるようにするものです。まずは主語と述語,形容詞と名詞、あるいは修飾語と被修飾語のように関連する語句のペアを探しましょう。離れているものがあれば、近づけます。ペアが遠くにあると、前の語句を覚えておいたり読み返したりする必要がでてくるので、読みにくいのです。すべてのペアが近くにいる状態になれば、楽に読んでもらえる文章になります。
③繋ぎ方を変える、は文と文の関係を正しく理解してもらえるように接続詞や接続助詞を選びなおしたり、新たに配置したりするものです。接続詞は、「そして/しかし/たとえば」といったもので、接続助詞は、「~であるが/~であって」のように使用する「が」や「て」といったものです。
上記のような接続語は、「今読んだ文と、次の文の関係はこうだよ。だから次の文はそのつもりで読めばいいよ」という案内板のようなものです。なんとなくで選んでしまいがちですが、それは道案内の看板を複雑な迷路に「なんとなく」で置いていくようなものなので、無責任なのです。あえて混乱させたくないのであれば、各接続語がどのような案内板であるのかをしっかり理解して、慎重に選ぶべきですよね。
ここまでで、推敲の第1ステップ「構造改良」の3つの推敲技術を紹介しました。「切り分けて、並び替えて、繋ぎ方を変える」ことによって、文章量が多少増えるものの、分かりやすさを根本的に高められることが確認できたと思います。
第2ステップ「整理整頓 - 片付け」
整理整頓に含まれる推敲技術は、④削り落とす、⑤一貫させる、⑥まとめる、というものです。第1ステップの「構造改良」で大工事が終わったので、きれいに片づけていきましょう。うまくやれば、文章は劇的に簡潔になります。
④削り落とす、は話の展開上なくても支障のない「余談」や、消しても文の意味が曖昧にならない「冗長な語句」を削除していくものです。伝わる内容が同じなら、文は短いほどよいです。記憶に残りやすく、また他の内容を伝える文を加える余裕ができるからです。ざくざく削りましょう。
⑤一貫させる、は意味内容が同等な文章の表現形式を統一するものです。「対になる語句」があれば、それらの表現や語順、あるいは文法構造や語尾を揃えましょう。「あるいは/また」といった並列関係や、「一方/対して」といった対比関係を示す接続詞で繋げる語句が「対になる語句」です。これらの形式が異なっているとどのような意味で対になっているかが分かりにくくなりますので、形式をきれいにそろえておきましょう。※この修辞技法はパラレリズムと呼ばれます。
また、内容が同じなら、呼び方も一貫させましょう。同じ内容を説明なしに別の呼び方をするのは混乱を招きます。よほど一般的な言い換えでない限りは、呼び方を統一するか、しっかりと呼び方の変更を宣言するようにしましょう。
⑥まとめる、は共通語句でのくくり出しや、熟語の活用によって、より端的な表現に置き換えるものです。共通語句でのくくり出しというのは、「因数分解における共通変数でのくくり出し」のようなものです。複数の文章に同じ語句が繰り返しでてくるのであれば、その語句が一度だけでるような表現に置き換えてみましょう。そうするとすっきりした表現になります。また、複数の語が長く連なった場合には、熟語にできないかどうかを検討してみましょう。
ここまでで、推敲の第2ステップ「整理整頓」の3つの推敲技術を紹介しました。「削り落として、一貫させて、まとめる」ことによって、文章量を大幅に削減しながらも意味を読み取りやすくできることが確認できたと思います。
第3ステップ「意味確定 - 飾りつけ」
意味確定に含まれる推敲技術は、⑦明確にする、⑧限定する、⑨やさしくする、というものです。第2ステップの「整理整頓」で片付けて文章量を減らせたので、飾りつけをしていきましょう。うまくやれば、安心して読み進んでもらえるようになります。
⑦明確にする、は語句が指し示す対象や内容が確実に特定できるようにするものです。曖昧になりやすい語句の代表は、「それ」や「この」のような指示代名詞を用いた語句です。これらの指示代名詞だけでは、どこかを参照してほしいということは伝えられますが、どこを参照すればよいかまでは伝わりません。「このこと」や「それによって」などの指示代名詞を含む語句があれば、語句を補って明確にしましょう.
⑧限定する、は語句の意味内容がより厳密に定まるように表現し直すものです。特に形容詞は要注意です。「重たい/短い/適切な」など、捉え方によって色々な解釈ができるものが多いのです。また、「使う/用意する」といった一般的に使う言葉にも注意が必要です。一般性がある分、簡単に使えますが、その分多様な解釈ができてしまいます。できるだけ、数値や専門用語などの語句に差し替えるか、あるいは意味を限定する修飾語を添えましょう。
⑨やさしくする、は難解な内容に対してできるだけ平易な言葉での解説を加えるものです。先ほど、意味が限定されるように専門用語を使うべき、と書きましたが、専門用語には、少し専門から外れた人に対してはかえって読みにくくさせるという副作用があるのです。「〜であるA」のような修飾による解説や、「すなわち」などでの言い換えを加えると、専門外の読者にも安心して読み進んでもらえるようになります。
ここまでで、推敲の第3ステップ「意味確定」の3つの推敲技術を紹介しました。「明確にして、限定して、やさしくする」ことによって、文章量は増えるものの、より多くの人に安心して読み進めてもらえるようにできることが確認できたと思います。
おわりに
推敲に終わりはないが、終わらせないといけない
この記事では、構造改良(大工事)、整理整頓(片付け)、意味確定(飾りつけ)、という3ステップで、合計9種類の推敲技術を駆使して文章を仕上げていく方法を解説しました。このステップを守って推敲を進めると、無駄な推敲がなるべく出ないように見通し良く効率的に推敲を進めることができるはずです。
たった9種類の推敲技術とはいえ、論文全体にかけていくのは非常に大変です。推敲のかけ方には様々な選択肢がありますし、ある推敲を加えることでかえって他の部分で文章の質が落ちてしまう恐れもあるからです。もっと推敲を加えたくても、他の推敲との兼ね合いでうまく実現できないということはよくあります。
推敲は、ある意味で自己満足であり、自分の不安を消すための方法でもあります。まだまだ推敲が足りないと感じていても、読んだ人にはしっかり意味が伝わるものにできている可能性もあるのです。推敲は、かければかけるほど文章の質は高められますが、きりがないので、どこかでやめなければいけません。
今回紹介した「3種類×3ステップ」で推敲を進める方法は、推敲を一通りかけるための時間的目途を得て、「とりあえず予定していた期間内で9種類の推敲は一通りかけたから、まあ良しとしよう」といった区切りを与えてくれる方法でもあります。ぜひ習得してみてください。
さらに詳しく学ぶために
今回紹介した9種類の推敲よりももっとしっかりした推敲の技術を学びたい場合には、以下に挙げる書籍を是非読んでみてください。良書は他にも多く出ているのですが、これらの書籍は網羅的で、実践向きの解説が多いです。
「超」文章法 伝えたいことをどう書くか(野口悠紀雄・中公新書)
数学文章作法 基礎編・推敲編(結城浩・ちくま学芸文庫)
理科系の作文技術(木下是雄・中公新書)
文章は接続詞で決まる(石黒圭・光文社新書)
短く書く仕事文の技術(高橋昭男・講談社+α新書)