パラグラフライティングの作法 -書き手にもメリットのある文配置ルール-
パラグラフライティングは、難解な内容を分かりやすく説明するために必須の記述法であり、読み手だけでなく、書き手にもメリットがあります。ポイントは「各段落の先頭行だけを抜き出せば正しい要約ができあがるようにする」ことです。この記事ではまず、パラグラフライティングの概要とメリットを説明します。そして、守るべき5つのルールと、そのルールが守れているかを確認する方法を紹介します。
※この記事は、著者のブログ「駆け出し研究者のための研究技術入門」からの転載です(一部修正あり)。
論文はパラグラフライティングが基本!
パラグラフライティングは、「文章のまとまりを作るルール」と、各まとまりの中での「文の配置のルール」に則って文を書く方法です。これらのルールを簡単に言えば、「共通の話題で括れる内容は一つのまとまりとする」というものと、「各まとまりの先頭には最も重要な文を置き、それ以後にはその文の補足説明のための文を置く」というものです。このまとまりのことをパラグラフと呼び、各パラグラフの先頭の文のことをトピックセンテンス(話題文)と呼びます。
このような形式で書くのは、論文を書く上での共通ルールです。書きたいことを勝手に好きな場所に書くのではだめですよ、ということです。論文で説明される内容は、意味関係が複雑で、論理構造も難解であるため、少しでも読みやすくするためにこのような共通ルールを守る必要があるのです。
具体例をみてみましょう。ももたろうの話をモチーフにした創作論文の冒頭部分をパラグラフライティングのルールを守って書いた例です。
この例で、太字にしている先頭文がトピックセンテンスです。各パラグラフにおいて、トピックセンテンス以後の文章はトピックセンテンスの補足説明に終始していることを確認してください。
読み手にとってのメリット
パラグラフライティングで書かれた文章の最大のメリットは、要約が簡単なので効率的に読むことができるということです。各パラグラフの先頭文だけを目でなぞるだけで、話のあらすじ(話題展開)と、どのパラグラフにどの話題の説明がなされているのか、という話の構造を把握することができるのです。上記の例で、太字の部分だけを抜き出して読んでみてください。「度重なる鬼の襲来によって村は疲弊し、窮地に追い込まれているため、鬼襲来への抜本的な対策が必要である。一方で、村は状況打開の好機を掴んでいる。」という話のあらすじがすぐに理解できると思います。このあらすじに納得できればそれ以上読まないでおくという判断ができますよね。あるいは、たとえば、後半の「状況打開の好機を掴んでいる」という内容が気になるようなら、第2パラグラフだけを読めばそれで済みます。効率的に読めますね。
ところが、これがパラグラフライティングのルールに則って書かれていなければどうなるでしょうか。先ほど挙げた例の、文の順とまとまりを多少変えた下の例を見てください。各パラグラフの先頭文を太字にしています。ぱっと見はパラグラフライティングで書かれているように見えますが、ルールが守られていない悪例です。
全ての文をしっかり読めば言いたいことはわかるものの、話のあらすじが掴みにくい文章になっていることがわかるかと思います。先頭文だけ抜き出して読もうとしても、第2パラグラフから第3パラグラフに移るところで話が途切れてしまって、話の流れが追えませんよね。さらに、「村は状況打開の好機を掴んでいる」という非常に重要な情報が他の多くの文字に埋もれてしまって目立たなくなってしまっています。要約しなさい、と言われたときにこの情報を見つけ出すのが大変で、見逃してしまいそうですね。
書き手にとってのメリット
パラグラフライティングのもう1つのメリットは、何をどこに書くべきかが自動的に決まるため、書く方にとっても楽だということです。どこに何を書いても自由だと、その配置をどうするべきかに悩んでしまって時間がかかってしまうのです。「どのような内容をどの順で説明するのか」という話題展開の概略(アウトライン)さえ先に決めてしまえば、パラグラフの数と、そのパラグラフの先頭文はほぼ自動的に決まります。あとは、どんな補足説明を加えればその先頭文がよりわかりやすく、また納得できるものになるのかを検討し、随時後ろに付け加えていけばよいのです。
具体的な書き方を確認していきましょう。例えば、「度重なる鬼の襲来によって村は疲弊し、窮地に追い込まれているため、鬼襲来への抜本的な対策が必要である。一方で、村は状況打開の好機を掴んでいる。」を話題展開のアウトラインとして定めたとします。この場合、まずはアウトラインをいくつの話題に分解するかを定めます。最初に挙げた例では2つの話題に分けていますね。他にも例えば、「度重なる鬼の襲来によって村は疲弊している」「窮地に追い込まれているため、鬼襲来への抜本的対策が必要である」「一方で、村は状況打開の好機を掴んでいる」の3つにしてもよいですし、2番目の話題をさらに前後半で分割して合計4つの話題にしても構いませんが、はじめはそれほど細かく分けなくてもよいでしょう。話題の分け方が決まったら、分解した文を先頭におく話題文としてパラグラフを作っていきます。それぞれのパラグラフに補足説明を加えていったときに、あまりにも文章が長くなるようなら話題文をさらに分割してパラグラフを増やせばよいですし、短すぎるようなら,前後のどちらかの話題文と合体させてパラグラフを減らすことができます。
文の配置を決めるための5つのルール
ここまででパラグラフライティングのルールについて解説してきましたが、おさらいもかねて、5つのルールとして整理しておきます。各ルールが守られていない具体例も挙げます。
ルール① 各パラグラフで扱う話題は1つに
同じパラグラフ内に違う話題の内容を混ぜてはいけません。先頭文と違う話題に移るようであれば、そこでパラグラフを分割しましょう。もしくは、そのパラグラフに含まれている全ての話題の要約になるように先頭の話題文を改善しましょう。「このパラグラフでは一体何について説明しているの?」という質問に対して自信を持って一言で答えられないようであれば、このルールが十分に守れていない可能性があります。
ルール② 話題の要約文はパラグラフの先頭に!
各パラグラフの先頭には、そのパラグラフで扱う話題において言いたい内容を要約した文章を置きましょう。1つの文章としてパラグラフの内容を要約できないのであれば、複数の話題が混ざっている可能性があるので、その場合はパラグラフを分割することも検討しましょう。「この段落で一番大事な文章はどれか?」と聞かれたときに、自信を持って先頭文を指せるようにしておきましょう。先頭にない文章が一番大事な文章なのであれば、それを先頭文に移すべきです。
ルール③ 先頭の文だけであらすじを成立させる!
各パラグラフの話題文は、前後のパラグラフの話題文と話の繋がりがあるものでなければいけません。「このパラグラフを削除してもいいか?」と聞かれた場合に、削除をしてはならない理由を明確に説明できるかどうか、また「各パラグラフの先頭文しか私は見ません」と相手に言われた場合でも不安なく承知できるかどうかが、このルールが守れているかを確認する方法です。このルールが守られていない例は、「パラグラフライティングで書いていない悪例」として先に挙げたものです。
ルール④ 話題文を補助する文だけをそのパラグラフ内に!
話題文の根拠、解説、具体例など、各話題を補助する役割を持つ文章だけを話題文の後に続けて書きましょう。話題文だけでも話のあらすじを理解させることはできますが、それだけでは意味が曖昧で、イメージが沸きにくく、また根拠に欠けるものになりかねないため、補助文が必要なので。ただし、話題文の理解を補助する文しかおいてはいけません。関係のない文が混ざると、「あれ、何の話だったっけ?」と読者を混乱させてしまうからです。「この文は何のために書いたの?」と聞かれても困らないよう、「話題文の説得力を高めるための根拠として」「話題文の理解度を高めるための解説として」あるいは「話題文のインパクトを高めるための具体例として」など,明確な役割を持たせて配置しましょう。
ルール⑤ 適切に接続語を置く!
読者が論文の論理構造を把握するための明快な助けとなるように、適切に接続語を置きましょう。上記の4つのルールを守って書いていれば、話題文同士、そして話題文と補助文の間には必ず関係性が存在します。この関係性を明示する役割を果たすのが接続語です。たとえば、「言い換えると」「すわなち」「例えば」「この理由は」といったものです。これらの接続語は、適切に置かれた場合には理解の助けになりますが、もし十分な考えなしに曖昧で不適当な接続語を置いてしまえば、読者の誤った解釈を誘発し、混乱を招く諸刃の剣です。なぜその接続語を選んだのかの明快な理由が説明できないのであれば、不用意に接続語を置くべきではありません。
まとめ
上記の5つのルールに則った文章を書くためには、「どのような話題展開で自分の言いたいことを伝えるかという話のあらすじ」,すなわち「要約文となりうるアウトライン」が事前にできあがっていることが必要です。いきなり長い文章を書き始めるのではなく、アウトラインという大枠を定めてから、各パラグラフの詳細を決めていくとよいでしょう。このイメージをつかむにはこの記事がおすすめです。
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