研究発表後には「質問分析」をしないととっても損
研究発表が終わった後、「やっと終わった!」という開放的な気持ちで資料をそのままにしていませんか?「たくさん質問を受けたけど、なんとかその場をしのげたからもう忘れよう」と考えていませんか?もしそうなら非常にもったいないことをしています。
多くの質問を得て発表を終えた直後こそが、発表資料をより良いものにし、またその発表資料改善スキルを伸ばすための最大のチャンスなのです。この記事では、発表資料の改善指針を得るための「質問分析」の方法について解説します。
質問分析の流れ
質問分析は次の4ステップで実施します。
ひとつずつみていきましょう。
①質問者の思惑を探りながら質問を聞く
これは発表中の質疑応答の最中に行うステップです。
効果的に質問分析を進めるためには、質問の言葉面だけを捉えるのではなく、「質問の裏の意図(思惑)」を探りながら質問を聞くことが大切です。質問者は大抵の場合質問のプロではないため、「本当に質問したかったこと」と「質問として投げかけた言葉」が常に一致するとは限りません。また、質問という形式ではあるものの、実際にはアドバイスやヘルプとして投げかけられる場合もあります。質問者の思惑を精度よく推定できていればいるほどより効果的な資料の改善ができるので、しっかりと思惑を考察できるようになりましょう。
質問の種類とそれぞれの思惑については、たとえば以下のものがあります。いずれも良し悪し関係なく、研究発表の質疑応答でよく交わされるものです。覚えておくとよいでしょう。
図にしたものもTweetしています。
このように発言の背後の思惑は様々ですが、「私の質問はこのタイプの思惑の質問ですよ」ということを質問者がはっきり教えてくれるわけではありませんから、質疑応答のやりとりの中で皆さんが推察することが必要になります。
②質問の内容を忘れないように書き留める
質疑応答を終えた後に大切なことは、「誰に」「どんな質問を」「どのような思惑で」なされたのかをしっかり記録しておくことです。記録方法はなんでもよいのですが、発表スライド資料の最後に新しくスライドページをメモ用に付け足して、箇条書きで質問を書き留めていくというのも良い方法です。質問の内容だけではなく、「誰に」その質問をしてもらったかも含めて記録しておきましょう。そうすることで、質問をより精確に思い出しやすくなりますし、あとで質問の思惑について質問したいことができた場合に、「誰に質問されたんだっけ…?」と曖昧な記憶を辿る手間を減らすことができるからです。
発表後に作成できた「受けた質問のリスト」は、皆さんが発表を通じて獲得したスキルアップ素材です。それだけではまだスキルアップは叶いませんが、多く集められるほどスキルアップに有利です。どんな質問を受けたのかは、大抵の場合すぐに忘れてしまいますから、記録漏れが出ないように発表直後にしっかり書き留めておくようにしましょう。質疑応答の流れが滞らない程度であれば、質問を聞きながらその場で簡単にメモを取っておくのもよいでしょう。
③思惑に基づいて質問を「広さ」と「深さ」の二軸で分類
続いて、質問を分類していきます。質問者の思惑を精確に捉えられないとしても、ここのステップでどうにか分類できればそれで大丈夫です。
質問は「広さ」と「深さ」の二軸で分類することができます。ですから、まずは各軸二分割の分類から始めましょう。つまり、質問が「狭いか/広いか」と「浅いか/深いか」の2×2の合計4種類のいずれに当てはまるかを考えましょう、ということです。
質問の「広さ」というのは、発表で扱ったどれだけの内容に関連する質問か、という見方です。関連する内容が少ないほど、狭い質問だということです。たとえば、ある特定のスライドだけを見ながら質疑応答が十分できるような質問は、「狭い」質問です。それに対して、複数のスライドを切り替えて話題をいったり来たりしながらでないとうまく質疑応答が進まないような質問は、「広い」質問です。
他方、質問の「深さ」というのは、発表で扱った話題からどれほど(論理的に)離れた話題の質問か、という見方です。「浅い」質問というのは、扱った話題そのものを再確認するような質問であり、記載されている内容の意味や詳細,妥当性を確認するものです。たとえば「そこで言っている意味がわからないのですが」や「どうすればそのグラフからそのような結果を読み取れるのですか」といったものです。「深い」質問というのは、記載されている内容の理解を踏まえたうえでなされる発表範囲外の論点での質問であり,たとえば「その結果が正しいとしたらこういう可能性もありますが,どのようにお考えですか」や「今回得られた結論から,他には何が言えそうですか」といったものです。
たとえば,上で挙げた7つの思惑についての分類は下記のようになります.
大雑把な分類なので分類の根拠が曖昧なところもありますが、修正の方針を見極めるためのひとつのきっかけとして、とりあえずざっくりとでも広さと深さで質問を分類してみるというところが大事なポイントです。
④分類毎に資料改善の方針を決める
質問が分類できたら、その分類ごとに、下の表のように資料改善の方針を決めていきます。大雑把にいえば、次回以降の発表では同じ「浅い質問」は極力でないようにする一方で、「深い質問」からはしっかりと収穫を得て研究をステップアップさせるように改善しましょう、という話です。
まずは浅い質問についてみていきましょう。表の左上の欄の「狭くて浅い」質問に対しては、指摘箇所の軽微な修正で十分であることが多いです。言葉の表現を改めたり、補足説明を追加するなどです。どこを直すべきかもすぐ分かりますので、最も簡単に修正を終えられます。さくっと直してしまいましょう。
右上の欄の「広くて浅い」質問に対しては、質問の発端となった発表箇所を見分けて、そこをピンポイントで修正する必要があります。質問者に疑問を浮かばせた発端となる箇所を適切に修正できない限りは、それ以外の場所を修正したとしても、また違った形で質問を受けることになるからです。簡単なようでいて、実は難しい修正です。質問者にその質問を思い浮かべさせた原因をよく考えて、そのすべての原因が取り除かれるように直していきましょう。
次に、深い質問についてみていきましょう。左下の「狭くて深い」質問に対しては、発表資料に安易な変更を加える前に、質問者に質問の背後にある思惑を尋ねたり、「このように話しておけば納得できていましたか」という確認を取りにいくのが望ましいです。というのも、深い質問をなくすためには、スライドの追加や順番の並び替えなどの大工事が必要になる場合があり、間違ったやり方で修正をしてしまったときの時間と労力の無駄が大きいからです。
右下の「広くて深い」質問に対しては、すぐに資料の細かい修正に取り掛かる必要はありません。この種の質問がくるのは、発表の全容が上手く伝わった場合のみなので、細かい修正に囚われるよりも、研究全体のグレードアップを図るべきときなのです。得た質問を、今後研究が向かうべき方向性の参考とするのがよいでしょう。
まとめ
『質問者の思惑を探りながら質問を聞く』『質問の内容を忘れないように書き留める』『思惑に基づいて質問を「広さ」と「深さ」の二軸で分類する』『分類毎に資料改善の方針を定める』という質問分析のステップを紹介しました。
発表後の振り返りとして紹介しましたが、実際には、質問を受けたときに思惑の推定に基づく質問の分類を即座に実施し、それを踏まえた質疑応答を行えるのが理想です.