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父さんからカメラが届いた
父のカメラの記憶
私がまだ小学校1年生の時、通学路で角を曲がってきたタクシーにはねられ、病院へ運ばれました。幸いにも命には別条はなかったのですが、仕事をキャンセルし病室に飛び込んできた母は涙ぐんだ表情で、子どもながらにこれだけの心配をかけてしまったことにショックを受けたのを覚えています。
父は少し遅れて、病室へ遅れて駆けつけてくれました。
手にはカメラ。「大丈夫か」と声をかけるよりも先に、ベッドに横たわる私と付き添う母をパシャリ。
「初交通事故の記念だな。」
あまりにも不謹慎だと思ったのか、母はその場でカメラを取り上げ「いいかげんにして」と強い語気でたしなめていました。母は今でもこの時のことを、父がいかにズレた感覚の持ち主かを表すエピソードトークとして引っ張り出してきます。
とにかく空気を読むことが下手な父は、シャッターを切るタイミングもその場の状況が何であれお構いなし。
私がまだ3歳くらいだった弟を羽交い絞めにし、盛大に泣かせているところ
弟が第一志望の高校に落ち、苛立ちから慟哭しているところ
母がタクシーから降りる際にコケて大の字に倒れ、痛みのあまり動けなくなっているところ
家の車が車上荒らしにあい、警察から聴取を受けている母
実家のアルバムは、いわゆる家族写真というよりも、事件ファイルのような様相になっています。
しかし今思えば、あれほどタイミング構わず息をするようにシャッターを切る、そもそもどういう時でもカメラが手元にある状態だった、というのは、本当にカメラ好きで常にシャッターチャンスを意識していた、いや、もはや無意識に切っていたんだなと感心すら覚えます。
不謹慎な写真も、今となってはいい思い出。撮られた写真は母が一枚一枚アルバムに入れ、ネガも日付を書いた封筒に管理しています。なんだかんだ、父が撮った写真を一番楽しんでいたのは、母のような気がします。
父からの贈り物
そんな父から、2025年2月15日。めったに連絡を取り合うことはないのですが、この日は珍しくメッセージが送られてきました。
「フィルムのカメラが2,3あるけど、いるかい?」
父は以前にも、私がフィルムカメラを始めたことを伝えた後日、15本のKODAK UltraMax400を送ってくれたことがありました。
次いでこの申し出です。息子がカメラを始めたことが、父なりにうれしいのか、共感してくれているのか。
これも親孝行だと思い、私は遠慮なく受け取ることにしました。
2日後には大きめの段ボールが手元に。
リモートワークの最中でしたが、もっと小さいサイズの荷物をイメージしていたため、その箱の大きさに驚き仕事を一時中断せざるを得ませんでした。
開封して出てきた中身がこちら。
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カメラ本体
Nikon F2
Nikon F3 説明書付き
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レンズ
単焦点
Nikkor 24mm f.2.8
Nikkor 28mm f,2.8
Nikkor 35mm f.2.8
Nikkor 85mm f.1.8
Nikkor 200mm f.4ズームレンズ
Nikkor 36-72mm f.3.5 説明書付き
Nikkor 70-210mm f.4
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フィルター
Nikon L1B 52mm
Nikon L1Bc 62mm
Nikon L37c 52mm
HAKUBA MC UV 52mm
レンズフード
8個
露出計
SEKONIC TWINMATE L-208
SEKONIK DIGITAL MASTER L-758D
その他
書籍「絶対ニコン主義!」
カメラレインカバー
「もうデジタルでしかとらないからね」と言っていましたが、ここまで思い切った断捨離をするとは。
思い出したこと
F2とF3の姿を見てとにかく懐かしく、このカメラを構える父の姿が鮮明によみがえると同時に、小さいころ、父にこのカメラの使い方を教わった日のことを唐突に思い出しました。
カメラの持ち方、ピントの合わせ方、巻き上げレバーとシャッターの切り方。多分、千葉にあるアンデルセン公園の原っぱ、父の膝の上で教わっていたと思います。
小さい頃はキャンプやキャッチボール、バイクツーリングでたくさん遊んでくれた父でした。でも私も思春期に人並みの反抗期を迎え、そりが合わないことが増え、大人になってもしばらくぎくしゃくした関係が続いてしまいました。
それでも、進学や就職も口うるさく言うことなく静かに見守ってくれていましたし、自分がやりたいと思ったことには支援もたくさんしてくれたました。
そろそろ父子の倦怠期も終わりにし、また父と写真で遊ぼうと思い、今週末は実家に帰ろうと思います。なんなら父がまだ蓄えているGRとRollei、Hasselbladのいずれかを譲る気はないか、がめつくも交渉してこようと企んでいます。デジタルでしか撮らないと言ったのは父ですからね、断捨離に協力する親孝行はまだ終わっていません。
父のカメラを受け取ったことが、本当に仲の良かった時のことを思い出すきっかけになるとは思いませんでしたが、生き形見としてガシガシ使っていこうと思います。
ありがとう、父さん。
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