彦星と織姫は投票するのか
今週の日曜、7月7日は東京都知事選がある。いい年齢と言われるおばさんだけど、私はさほど選挙にも政治にも興味が持てずに生きてきた。
選挙権を持った20歳はまだ実家住まいをしていて、選挙の必要性も価値観について話すこともないまま、両親は「行きなさいよ!」と。やたら選挙参加を強要してきた。20代前半はまだ反抗期も完全なる終了を迎えていなかったので、生返事だけで行かなかったことは何度もある。腹落ちしていないことに時間を割かれてたまるものか。ちなみに両親に「なぜ選挙に行くのか」と問いたことはあるけれど、確かな回答は得られなかった。真面目な団塊の世代、行かない選択肢がなかったはずだ。
しばらくして東京の出版社へ入社して、編集部員となった。中堅どこの出版社で、女性ファッション雑誌(一番ハードな渋谷ギャル雑誌)配属で、当時は徹夜が当たり前のような恐ろしい勤務形態。政治や選挙どころの騒ぎではなく、本気で時間がないので投票に行くことはできなかった。いや、もし時間があったとしても寝ていたかった。
こんな調子で30代も投票へ行ったり、行けなかったり。私の政治に対する関心は「何も変わらない」とどんどん消耗していく。これもひとりごちた行動ではなく、若者の投票率も同じように減少していく。
そういえばこんなこともあった。30代後半だっただろうか。通っていた整体院の鍼灸師とふいに選挙の話になった。私はまた「そんなに興味が持てなくて」とこぼすと
「小林さん、白票でもいいから行くんですよ!」
そう大きな声で説得されてしまった。自分の担当の鍼灸師だったら、通うのを控えていたかもしれない。いつも穏やかな印象だったのに選挙となると熱量がヒートアップするのか。
40代前半、お付き合いのあった家庭のある友人にも同じようなことを言われた。
「久乃ちゃん、お願いだからそんな興味のないふりをしないで選挙に行って! 行ったら投票証明書、もらってきてよ!!」
いや、私、あなたの子どもじゃないのに。この時はとりあえず選挙には行ったけれど、前夜にSNSで流れてきたフローチャートに引っかかった人に投票したのみ。当日は友人たちと「投票行って外食するんだ」のごとく、証明書を見せながら飲んでいた。残念ながら彼女とのつき合いは無くなった。
そんな調子のおばさんがなぜ今回ばかりは選挙に興味を持ち出したかというと、昨今の都政にいささか疑問を感じてきたからだ。ひょっとしたら単身の身分で東京に骨を埋めることになるかもしれないのに、昨今の東京都には不安が多すぎるし、突然の男女マッチングシステムの開始など、どうにも出遅れ感が否めない。このままもし、東京都で大地震が起きたらどうなるんだ。そして日本の首都、主脚とはなんだろう? と考えるようになっていた。
実は今から数年前、小池百合子都知事の開催した「政治塾」にミーハー心で参加したことがある。あの時の百合子の勢いはすごかった。熱量を肌で確かめたいと、面倒な論文を書いて申し込み、きっちり講義を聞いた。詳細は割愛するが、本当に面白かった。彼女が只者ではないと間近で知り、興奮した。
あれから8年間。パンデミックに襲われて、オリンピックも行われて。なんだか東京がどんどん摩耗していくような気がした。百合子も面白いと思うし、否定することもないし、まだやってくれるのかも……という淡い期待もある。でもやはりどこかでアップデートは必要だ。私も連載が始まると「まあ、2年くらいか」と考えながら、執筆する。媒体が面白くなるためには刺激が必要だ。東京も同じ。
まだ脳内で決まらない結論を出して、七夕は張り切って選挙へ行く。
自分の意見がどういう方向に向くのかは分からないけれど、このまま意見を表示しなかったら大きなものに巻かれてしまうだけ……なのは悔しいから。
ああ、なんだかNetflixの『離婚しようよ』が見たくなってきた。