郷ひろみ「NHKうたコン」に見る永遠の歌声
昨夜、NHKうたコンに出演した郷ひろみの歌声について、記事を書きました。
どなたでも読めます。
変わらない歌声
私が彼の生歌を拝見したのは、2年前の年末に日本武道館で行われた50周年の記念コンサートでした。
初めて彼の生歌を拝見しましたが、彼の伸びやかで透明感のある歌声は、とても67歳とは思えない歌声だったのを覚えています。
何より一番驚いたのは、彼が3時間ほどのコンサート中、ずっとステージにいたことです。
多くのアーティストは、必ず、コンサートの間に衣装替えなどでバックステージに戻るタイミングがあり、その間は、バンドが演奏していることが多いですが、彼は衣装がえ(確か、上着だけを替えたと思うのですが)の間も、照明が落とされた中でスタッフが持ってきた上着を取り替えるだけだったように記憶しています。
そのパワフルさ、そして、もちろんターンなどのパフォーマンスのエネルギッシュな様子を拝見して、彼が如何に自分を厳しく管理し、肉体と声帯を維持し続けているのか、ということを強く感じたものでした。
あれから2年。
昨夜、拝見した彼の歌声は、その時の印象と全く変わらず、歌声が何も衰えていないことをあらためて感じさせるものでした。
その時の様子や感想も加えた記事を、私は、青春出版社の連載「人生を変えるJ-POP」の方で、2023年の1月に掲載させて頂き、多くの方にお読み頂いたことがあります。
この記事を書くにあたり、彼のことを色々調べさせて頂いた時、非常に印象に残ったのは、彼が、2002年から3年間、渡米した中で、徹底的に「歌」「発声」というものを基礎から作り直した、という部分でした。
普通、男性の声帯は、25歳ぐらいまでに肉体的に完成されると言われています。その為、ボイストレーニングをして歌声を変換させるには、25歳までがいいとされていて、三浦大知や韓国人歌手のジェジュンなど、歌声を変えた歌手は、20代前半に変えていることが多いです。
しかし、郷ひろみは、40代になってから発声の基礎からやり直しています。
実に47、8歳で発声を変えたということになります。
そのことを知って、私は、彼の歌に対する熱意、探究心が並大抵のものではなく、自分の歌というもの、アーティストとして歌い続ける、ということに対する厳しい自己管理の目を持っている、ということを強く感じたものでした。
3年間のボイストレーニングを経て、彼は徹底的に自分の発声を見直し、それまでの歌声とは別物の歌声を手に入れたことは、彼の著書「黄金の60代」の中にも書かれています。
彼がアメリカに渡ったのは、デビューから実に30年近くが経ってから。
即ち、彼はその歌声でデビューをし、その歌声が「郷ひろみの歌声」と多くの人に認識されている30年間、というものの歌声を手放したことになります。
その証拠に、彼の歌声は、渡米前と渡米後では全く違うものになっていたと感じるからです。
変化した歌声
渡米前の彼の歌声というものの印象を私もよく記憶しています。なぜなら、ファンの方にはお叱りを受けそうですが、私は彼の歌声がそれほど好きでなかったからです。
その頃の彼の歌声の印象と言えば、「甘い濃厚な歌声」という印象が強く、その歌い方と合わせて、どちらかと言えば、女性的な印象を受ける歌声だったと感じます。
中・低音域は、やや透明的でしたが、それでも濃厚な色彩で、高音は少し伸びやかさに欠ける、という印象を持っていました。
その「濃厚で甘い歌声」というのが、私にはどうも苦手だったのを覚えています。
そして、新御三家と呼ばれる中で、一番、歌唱力がない、と感じるのも彼でした。
しかし、彼の歌声は大きく変わりました。
上記のような印象を持っていた私は、彼の歌を積極的に聴くということはしませんでしたから、アメリカに行き、帰国した後も、彼の歌声というものを意識したことはなかったと言えるでしょう。
ですが、その後、NHKの特集で、彼が渡米し、歌声を徹底的に基礎から作り変えたというような話を番組の中で聞き、(確かNHKの「郷ひろみという生き方」だったと感じます)彼への認識を大きく変えたのを覚えています。
彼が、如何に真摯に「歌」というものと向き合い、自分をアーティストとして一生歌える人間に作り変えていったか、ということを知ったからです。
そうして、聞いた彼の歌声は、私の印象に残っているものとは大きく違い、「伸びやかで透明感のある歌声」に生まれ変わっていました。
その時、感じたのは、彼が一生、歌い続けられる、ということです。
50代になっても透明感を失わない歌声を手に入れたことは、声帯が老化しても、それに負荷をかけない発声法を手に入れているということの現れであり、如何に、彼が自然体で歌が歌えているか、ということの証明でもあると感じます。
彼がその歌声を手に入れるのに、どれほどの努力を積み重ねたのか、どれほど自分と向き合って、自分と感覚と闘い続け、作り直していったのか、ということは、声楽出身の私には、容易に想像がつくのです。
そして、彼は、70歳を目の前にしても、歌声の透明感と伸びやかさは変わりません。
それが、昨夜のNHKうたコンでの歌唱で証明されたと感じるのです。
ポップスを歌う歌手で、70代になっても歌声が変わらないのは、布施明と小田和正だけです。
小田和正の発声法は私は分かりませんが、布施明は、数年前にポリープの市手術の一歩手前まで行ったことがあり、その時に行ったイタリア歌曲の歌唱法によって、ポリープが自然に消失し、歌声が蘇っています。
郷ひろみもアメリカで受けたボイトレの一部分には、声楽の唱法が取り入れられているようですから、やはり、ポップス歌手と言えども、声楽の基礎発声を知っているのと知らないのでは、歌手生命そのものに大きく作用するのではないか、という印象を持ちます。
「長く歌い続けてほしい」
「いつまでも今の歌声を聴いていたい」
これは、ファンの願いでしょう。
そんなファンの願いを彼は間違いなく叶えてくれる。
そんな気がした昨夜の歌声でした。
来年は、私も彼の歌声を聴きに行こう!
そう思った昨日の番組でした。