布施明『霧の摩周湖』(うたコン)に見る奇跡の歌声
先日のNHKのうたコンでは、非常に聞き応えのある歌をたくさん聴くことができました。中でも来年、歌手生活60周年を迎える布施明の歌唱が随分、ネットで話題になっています。
このことについて、記事にしました。
76歳の歌声
この日、彼が歌ったのは、MISIAの楽曲をカバーした『Everything』と自身の代表曲『霧の摩周湖』の2曲。
『Everything』は彼が大好きな曲ということで歌っていましたが、楽曲のキーポジションが彼には少し低めのような気がしました。
そのため、前半は少し重い歌声になっていましたが、楽曲のキー全体が転調して上がった後半は、彼の高音が鳴り響いていました。
2曲目の『霧の摩周湖』では、冒頭にコンサートでしか聴かせないというアカペラのフレーズを熱唱。マイクを外した状態でも十分会場の収音マイクで拾えるだけの歌声を披露。
楽曲では、伸びやかな高音を聴かせ、76歳というよりは、往年の彼の歌声とは思えない歌声だったと感じます。
伸びやかさや、歌声の艶も申し分なく、全く衰えを感じさせない歌声は、会場の観客だけでなく、放送を観ていた人も驚愕したのではないでしょうか。
ネットニュースになるほど、話題になっています。
実際、私も昨年、生のステージを拝見しましたが、2時間近いコンサートの最初から最後まで、全く衰えを見せない歌声に驚きました。
仕事柄、ハッキリ言って、非常に厳しい耳で聴いていますが、それでも何の引っ掛かりのないほど、見事な歌声だったのを覚えています。
なぜ、76歳にもなる彼が、このような歌声を維持できるのでしょうか。
奇跡の歌声を維持できる発声法
布施明さんは、2019年に喉の不調を訴えて、耳鼻科を受診し、ポリープがあることがわかりました。
ですが、ツアー中ということもあって、不調を抱えながらも発声を変えて歌うと、不思議なことにポリープが消失したと言います。
このことは当時、記事にもなっています。
記事にもあるように、彼は発声法を変えたと話しています。
その発声法とは、イタリア歌曲に用いられる発声法とのことですから、おそらくベルカント唱法に近いものだったのではないかと考えます。
彼の歌声を聴いていると、鼻腔に綺麗に響きが当たった歌い方をしています。
元々、地声と頭声の区別のつきにくく声質のように見受けられますので、発声ポジションを変えることによって、喉の負担を減らしたのでしょう。
昨年のコンサートでも感じましたが、非常に伸びやかで響きのいい歌声をしています。
さらに背筋、腹筋という歌に必要な体幹の部分の筋肉がしっかりしており、そのことによって、クラシック方式、オペラ歌手方式の歌い方が出来ている。即ち、身体全体が1本の筒のようになっていて、その中をズドーンと息が通り抜けていくことで、声帯が鳴り響く、という身体の使い方になっていると思われます。
ですから、NHKホールやフェスティバルホールのような場所でも、マイクを外して十分歌声を届けることができるだけの声量と響きを持っている、ということなのです。
マイクを外して歌えるのは、この年代のポップス歌手では、玉置浩二と彼だけです。玉置浩二は、彼よりも10歳下の66歳ですから、いかに布施明が特別な存在であるかということが分かるのではないでしょうか。
70代になっても美声を響かせることが出来る歌手によく演歌の人がいますが、演歌歌手は、出身が民謡歌手であることが多く、民謡の歌い方を習得しているために、高齢になっても美声を響かせることが出来る人が少なからずいます。ですが、ポップス歌手で70代になっても美声と豊かな声量を披露できるのは、彼ぐらいではないかと思うのです。
これだけの美声を維持するには、もちろん、喉の管理は怠ることは出来ませんが、それだけでなく、非常に体幹も鍛えていることが必要で、彼も70代とも思えないほど、しっかりした分厚い胸板を持っており、その体幹が歌声を支えていると言えるでしょう。
来年は、60周年ということ。
なかなか60周年を迎えることが出来る歌手は少なく、彼の美声を聞くことが出来る同じ時代に生きていることを幸せに思う人もいるでしょう。
一度は、生歌を聞かれること、オススメ致します。
いつまでも歌い続けて欲しいと思う歌手の1人です。