稲木紫織のアート・コラムArts&Contemporary Vol.7
アンサンブル・ノマド第69回定期演奏会を
松井久子監督と聴く
アンサンブル・ノマドは1997年、ギタリスト佐藤紀雄さんの呼びかけで結成された、全員ソリストクラスの実力あるアンサンブル。「NOMAD」(遊牧、漂流)の名にふさわしく、時代やジャンルを超えた幅広いレパートリー、斬新なプログラムが特徴で、古楽から超絶技巧を要する現代音楽まで、軽々と演奏する。サントリー音楽財団「第2回佐治敬三賞」受賞など受賞歴多数。海外公演やアウトリーチ活動でも活躍している。
ノマド・メンバーのフルート奏者で、作曲家でもある木ノ脇道元さんは、松井久子監督のドキュメンタリー映画『何を怖れる フェミニズムを生きた女たち』(2015年)で、映画音楽を担当。ゼロ試写会を見せていただいたが、試写会にいらしていた出演者の樋口恵子さんや上野千鶴子さんが、「音楽がよかった!」と口々に語っていたことが忘れられない。
木ノ脇さんをはじめとする、無類の個性豊かなメンバーを束ねているのが、音楽監督の佐藤紀雄さんだ。私は彼を、“猛獣使い”だと常々感じているのだが、公演で訪れたブラジルの公園でギターを弾けば、子供たちに囲まれて「ノリオ、愛してる」と何人もに言われるという彼は、自身がピュアで気取りがない。彼の人間性と魅力はアンサンブル・ノマドそのものだと思う。
松井監督は、「ノマドの音楽は『遊牧民』との語源通り、あらゆる垣根を超えて、自由に、さまざまな音楽表現を披露してくれるので、コンサートに何度行っても飽きるということがない」と語っているが、毎回その思いを強くする。日本でこんなに個性の強い超絶技巧演奏集団が20年以上続いていることに、驚嘆せさせるを得ない。
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