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稲木紫織のアートコラムArts & Contemporary Vol.27
“アール・デコの館”旧朝香宮邸
現在の東京都庭園美術館で
ルネ・ラリックに触れる至福
アール・デコとは1910~30年代、欧米で流行した美術様式のこと。1925年開催のパリ万国装飾美術博覧会でピークを迎えた。美術以外に、家具、ファッション、工業デザイン、建築にまで汎用され、ニューヨークの摩天楼、クライスラー・ビルやエンパイア・ステート・ビルなどは、まさにアール・デコ様式である。
日本が誇るアール・デコ建築の代表格が、JR山手線目黒駅から徒歩数分の東京都庭園美術館本館だ。1933年に竣工された旧朝香宮邸で、1923~25年のパリ滞在中、アール・デコ博も見学された、朝香宮鳩彦(やすひこ)殿下と允子(のぶこ)妃殿下の希望により、当時、最先端のアール・デコ様式で建てられた。
東京都庭園美術館外観
近所で、個人的にも大好きな美術館のひとつ。もちろん、キレッキレの現代美術を含め、様々な展覧会が開催されているが、やはり、同時代の作品が展覧される時は、建物やインテリアとぴったり合った空気感が、独特の濃密なラビリンスを出現させ、その時代へワープできる特権を得たような気持ちになる。
現在、開催中の『ルネ・ラリック リミックス』展は、19世紀から20世紀半ばにかけて、ガラス・アーティストとして一時代を築き、旧朝香宮邸にも様々な室内装飾を手掛けた、ルネ・ラリックによる作品展。本展には、「時代のインスピレーションを求めて」というサブタイトルが付いている。
本展の外看板
「リミックス」という音楽用語が使われているのは、19世紀末の貴族のためのジュエリーから、20世紀ブルジョワジーのために複数生産するプロダクトへと移行する彼の先進性、芸術と新しい時代を繋げようとする試みへの示唆が込められている。
決して懐古趣味の展覧会ではない。
ルネ・ラリックは1860年、フランスのシャンパーニュ地方マルヌ県に生まれた。当時は珍しかった植物や昆虫、女性をモティーフにした「モダン・ジュエリー」のスタイルを確立。1910年頃からガラス作品に力を注ぎ、1925年のアール・デコ博覧会メイン会場に、ガラスの噴水塔《フランスの水源》を制作した。
朝香宮邸正面玄関扉ガラス・レリーフ・パネル
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