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稲木紫織のアート・コラムArts&Contemporary Vol.6

ジャム・セッション 石橋財団コレクション×鴻池朋子「鴻池朋子 ちゅうがえり」展をアーティゾン美術館で堪能。地球に抱かれる心地よさと生きる力強さに覚醒する


 世界的に活躍する現代美術家の鴻池朋子さんを思う時、真っ先に浮かぶのは“原初”という言葉だ。“ピュア”や“プリミティヴ”という言葉では包括しきれない野生、ダウントゥーアースな野太い世界観、宇宙観を何にたとえたらいいだろう。狼に育てられた少女のような、手垢のつかない濁りのなさと、それでいて、現代社会を鋭く見据える、人間愛に満ちた視線。そんな果てしない魅力を持つ彼女の個展が、現在開催されている。

 東京駅の八重洲中央口を出て真っすぐ進み、徒歩数分。右側の高層ビルが2020年1月、かつてのブリジストン美術館から改称し、リニューアルオープンしたアーティゾン美術館である。ARTIZONとは、「ART」と「HORIZON」(地平)からの造語。ビル自体はミュージアムタワー京橋といい、その低層部1階から6階までがアーティゾン美術館だ。

 withコロナで、美術館も美容院や歯医者さんのように予約する時代となった。しかも、web予約。そのほうが、通常1500円のところ、1100円と安い。館内に入ると、検温、顔の撮影。帽子を被っていた私は「帽子のつばを少し上げて」と指示され、「脱ぎましょうか」というと、そこまでしないでいいとのこと。フェイスシールド姿の男性とのやりとりは、すべてゼスチャーというか、彼は一言も発しないで、慇懃に振る舞う。

 飛行機に乗る直前の検査通路のような廊下を、フェイスシールド姿の女性たちに恭しく囲まれ、片手でスマホのweb予約チケットURLページを示しながら、無言で通過する自分は、まるでスパイ映画か何かのようで苦笑したが、予約制限によって、混んでいない整然とした6階エントランスに到着し、広々としたワンフロアの会場に入った時は、思わず感嘆の声が出た。

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