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砂糖菓子に潜む毒、「ガラスの城」

今は亡き週刊マーガレットに1969年〜1970年まで、約2年間連載されたわたなべまさこ先生の代表作「ガラスの城」。
久しぶりに読み直したので、感想を書きます!


ロンドンの下町で母親と暮らす姉妹、イサドラとマリサ。

美しく華やかで勝気な姉と、控えめでおとなしく心優しい妹。
決して裕福ではないふたりの憧れは、遠くに見えるストラス・フォード伯爵邸。

あんな城で大勢の使用人に傅かれて贅沢な生活をおくりたいと夢想するイサドラは、急死した母親の残した日記から、実はマリサがストラス・フォード家の娘であることを知ってしまう。
証拠の日記に細工して「自分こそ伯爵家の娘」と名乗りを上げたイサドラはなりすましに成功し、貴族として城で暮らし始める。

マリサも伯爵の好意で城での生活を許されるが、イサドラはマリサを使用人として扱い、さまさまな虐待を加えるようになる。

ほんとうの令嬢は自分ではなくこのマリサなのだと、誰にも知られてはいけない……

ところが死亡したと思われていたストラス・フォード伯爵の妻フランソワは実は生きており、しかし記憶喪失で、自分の娘のことを覚えていない状態で城に帰ってくる。
親子として暮らし始めるストラス・フォード夫妻とイサドラだが、フランソワはイサドラの印象や振る舞いに違和感を持ち、同時に心優しいマリサに好意を抱くようになる。

イサドラは怪しい呪術師ツタンカーメンの助力でマリサを遠くアフリカヘ追いやることに成功する。
看護師として働くマリサはその地で医師と結婚し、娘マリアが産まれる。
イサドラはツタンカーメンとの間に娘ミューズをもうけるが、隠してきた出自がとうとう暴露してしまう。

伯爵家の後継者として城に戻ったマリサはミューズを引き取り、マリアとともに自分の娘として育て始める。


時は流れ、美しく成長したミューズとマリア。
そこにイサドラが現れ、自分こそ本当の母親であり、マリサに陥れられて伯爵家を追われたのだとミューズに告げ、ふたりは伯爵家から姿を消す。

数年後、伯爵家の領地である孤島を訪れるマリサとマリア。
しかし島の住民たちはかつての横暴な領主である伯爵家に反感を抱いており、ふたりは捕らえられ魔女として裁判にかけられることに。
魔女裁判に引き出されたマリアは、裁判官を見て驚く。
そこにいたのはミューズだったのだ……


気合い入れてあらすじを書いてしまった。
さすがにリアルタイムで読んでいたわけではありませんが、実家にコミックスがあって小学生の頃に何冊か読んでいたのかな。
大人になってから文庫版で読んで面白さに驚愕したんですがそれもいつの間にか手放してしまいました。

また読みたいと思いつつ電子書籍には食指が動かなかったのを、たまたまメルカリでA5 サイズハードカバー版全卷セットが安価(っても高いけど)で売られているのを発見、買っちゃったよね~~。
このハードカバーですら1991年発行。もともとわたなべ先生の極細の線って印刷に出にくいことと、製版技術が古いせいなのか線が飛びまくってて残念。原画からリマスターした新版が出ないかなあ〜


「ガラスの城」には少女漫画のすべてが詰まっている。
お城、貴族、ドレス、フリル、社交界、塔、姉妹、記憶喪失、皇太子、金髪、ヒ素、拷問、魔女。
母娘3世代にわたる大河ロマン!
こういうザ・少女漫画をまた読みたい!

作品全体の雰囲気が洗練されていて、ファッションもめちゃくちゃお洒落。
イサドラのウェディングウェアがパンタロンスーツなのは衝撃だった。

ウェディングドレスのフロントに大きくスリットが入っていて……
歩くと下からパンツが見えるレイヤードスタイル。お洒落〜


ニーハイブーツが素敵ね


この漫画を読んだ人はおそらくイサドラ推しになると思うし私ももちろんそうなんだけど、それ以上にミューズが好き。

ミューズはマリアに姉妹や従姉妹(といっても血の繋がりはない)としての愛情ではなく、あきらかにそれ以上の強い愛憎を抱いていて、それを抑えられない自分を恐れている。
いつかマリアを失うくらいならこの手で愛するマリアを殺してしまうかもしれない……このメンヘラっぷりよ。

幼いミューズが天使のような顔で微笑みながら小動物を殺す場面とか、エロティックでゾクゾクする。
エロスとタナトス、バイオレンス。
わたなべまさこ先生はその残酷描写で唯一無二の存在と言っていい。
同世代の人はみんな「聖ロザリンド」がトラウマになってるはず!


イサドラの実母ミルズが、あんな良妻賢母的なキャラに描かれているのに、選んだ男が娘に金の無心をするような前科持ちのクズ男って設定もエグい。
わたなべ先生、容赦ないな!


私は「ガラスの城」で初めて「スコットランドヤード」「ピカデリー・サーカス 」を知りました。
イギリスのお金持ちの家には「執事」っていう支配人のようなおじさんがいるんだってことも知った。
猫足のバスタプ、黒いリボンの花束を贈る意味、「木曜日は白いガウンよ」なんてセリフがあったり、なにからなにまで新しい文化だった。

当時の日本はまだまだ「戦後」の時代、少女漫画雜誌には「外国もの」が定番でした。舞台はアメリカよりヨーロッパが多かった気がする。パリを舞台にした金髪の女の子のラプコメとか。とにかく日本人の「金髪」「青い目」に対する憧れとコンプレックスときたらすさまじかった。
そこからしばらくすると、少女漫画の舞台はアメリカに移行、「キャンディ・キャンディ」…は時代物だからちょっと違うか。その後は成田美名子「エイリアン通り」とか吉田秋生「カリフォルニア物語」とかが出てくる。あー懐かしい。


「ガラスの城」、アニメ化して欲しいなあ。
まどマギみたいな絵柄で、ゴシックでダークなオトナアニメにしたら絶対いいと思うんだけどな。


淡いピンクの砂糖菓子でくるんだ毒薬のような「ガラスの城」、機会があったらぜひ読んでみてください。
電子もあるよ!


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