成熟した国

 キレる……のは「若者」であると、相場は決まっています。でも実際は、どうなんだろう。客商売をしてみれば分かるけれど、すぐにキレるおじさん・おばさんの、なんと多いこと。キレる人というのは、ようするに気の短い人、横柄な人、思慮の浅い人のことでしょう?

 実年齢じゃないんです。精神年齢なんです。相手との対話を考えずに自分を押し通そうとしてぶつかる。それが面倒で、無理やり突破しょうとするから摩擦が生じる。その摩擦によって礼節という薄皮が剥がされて欲望がむき出しになることがすなわち、「キレる」ということなんですな。

 大人というのは本来、長い人生経験から、じっくりと対話を交わし、ゆっくりと待ち、譲るところは譲り、然して握手にいたるこのゆるき道程をいとわぬ存在だったはず。デパートのおもちゃ売り場で合体ロボを握りしめ、「買って買って〜」「これ欲しいよ〜」と通路に寝転び泣き叫び我意を通そうとするのは、ガキの所行。良い子、じゃなかった良い大人は真似をしちゃあ、いけませんぜ。ねぇ、ジョージ(ブッシュ)坊や。おっと、慎太郎坊っちゃまもね。

 さて、と。優柔不断、弱腰に見えてしょうがない我が日本の外交も、香山リカさんにいわせれば成熟の証なんだとか(「大人の国」「成熟した国」、「河北新報」12月9日付夕刊)。

 国と個人とでは話が違うかもしれないけれど、それでもあえて国を個人のレベルに引き寄せてみれば、「すぐに報復や制裁といった現実的な行動に出ずに、相手が考え方を変えるまでじっくり待つという態度を取れるのは、非常に成熟した人格の持ち主」、つまり日本は、某国と比べるなら「より成熟を遂げた国」といえるのかもしれません。ふーむ、さすがに彼女は精神科医。鬱々たる日本人の心を軽くしてくれる。(2002.12.22)

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