スペンサーとの再開

 やあ、おひさしぶり。相変わらずですね……と言いたくなる、私立探偵スペンサー。
 かなり前になるけれど、朝日ジャーナルがまだ健在(?)だったころ、当時の編集長がコラムで、〈スペンサーは読んだ? が時候の挨拶〉と触れていたことがあって、みんな出版されるのを待っているんだなと、ぼくまでうれしくなってしまったことがありましたっけ。
 最近スペンサーが扱う事件は、少なくとも我々日本人には特異と思われる種類の犯罪が続いているし、登場人物達も固定化してきているので、少々魅力も薄れてきたような感じがします。それでもやっぱり、せめて年に一度はスペンサーとスーザン(スペンサーの彼女ですよ、念のため)の近況を知りたいと願うのは、彼らの魅力、彼らの存在感のせいでしょう。
 ぼくが最初に読んだスペンサー・シリーズは『初秋』。落合恵子さんのコラムで知った、代表作です。次に第一作の『ゴッドウルフの行方』を読み、それから次々と文庫本化されたシリーズを読破しました。単行本で(すなわち翻訳出版されるとすぐに)読むようになったのは、『蒼ざめた王たち』あたりからでしょうか。
 ミステリーファンというわけではないぼくには、事件そのものより、スペンサーという人物のものの考え方、対処の仕方にとても興味をそそられ、また納得させられます。
 時に饒舌に走りすぎるきらいのある彼だけれど、彼の思い、彼の判断はいつもストレート。グズグズしていてなかなか球を投げられない、投げてもへなちょこ球のぼくなんか、羨ましくて仕方ない。おっと、羨ましいなんて言っちゃ、いけないんだよね。傷つくことから逃げてきたぼくと、(肉体的にも精神的にも)傷つくことから学んできた彼との、違いなんだからさ。
 ところで、シリーズ第二十三作の『チャンス』で心に残ったスーザンとスペンサーとの会話の一つは次のようなもの。

 「人は常に正しいことをするわけにはいかないわ」スーザンがいった。「たしかにそうだ」「しかし、できるだけそれに近づくことはできる」(336頁)

ロバート・B・パーカー(菊池光訳)『チャンス』、早川書房

 ナンのことかって? うーむ、本を読まないとわからないかもね。(97.3.23)

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