独断と偏見でキングオブコント2021を採点・講評する
どうも、みなさんこんにちは。握りっ屁をしたいのに、すでに両手で握りっ屁をしているので、何もできない人です。
今回は、先日開催されたキングオブコント2021を、独断と偏見、というほどではないが採点しながら振り返ろうと思う。
毎年、m-1とキングオブコントは欠かさず見ており、昨年のm-1決勝を友人一同で集まって採点したのが楽しかったので、今回はそれを1人でやろうと思う。
なお、採点に当たっては審査員として、単なる自分のウケ量だけではなく、ネタの構成なと結構、設定キャラ、などを加味して総合的に行おうと思う。
●1番手 蛙亭
はっきり言って、嫌いなコンビ。天才ぶっているけど設定が浅いなという印象がある。が、今回はそういうのは抜きで採点。
まず、ネタとしての結構はまずまずよろしいと感じた。冒頭の緑ゲロの掴み、そこからボケである中野が演じるヒロシのキャラの立ち方、終盤にかけての展開。一つのネタとしてよい。
ただ、中野の演技が自然なのに対して、イワクラの演技が大仰というか、違和感があった。それと共に、自分が作ったはずの人造人間のことを知らなすぎないか、この科学者は。バックグラウンド(なぜ中野を作ったのか、そして狙われているのか)に関してもやや詰めが甘い印象を受けた。
また、途中途中の小ボケの挟むタイミングなどはよいが、オムライスの件とかはちょっとパンチが弱い。
最初の引き具合から、最後のハッピーエンド的なオチまでが急ぎ足すぎたのと、中野が刺客に襲われるあたりが茶番に感じてちょっと退屈。
全体の構造は、「いじめ」を想起させる類推させるが、ここまでハッピーエンドにするべきだったのか。蛙亭「らしさ」を出すには、怪物の悲哀的な側面をもっと強調した方が、らしさがあったのではないか。良くも悪くも、置きにいった感じを受けた。
そんなに面白いとは感じなかったけどネタ全体の完成度とトップバッターとしての下駄を鑑みて90点。
●2番手 ジェラードン
意外にも決勝初出場だったのね。ネルソンズの方が先に行くとは思わなかった。
ネルソンズが以前決勝に出たときは、「トリオ」であること、あるいは3人であることを過剰に意識しすぎて、その3人というバランス感のためにネタの精度が落ちてる気がした。その点、ハナコやロバートは小ボケである菊田や馬場の使い方が上手いなあと思う。
対するジェラードンは、ツッコミ海野に対して大ボケが2人という珍しいメンバー構成。割といつも海野がうるさめな印象なのだが、今回はかなり控えめに見えた。
小峠がコメントした通り、西本とかみちぃに対して海野がガミガミすると、全体として喧しい。その点はすごい効果的だったけど、ちょっと海野のギアが入るのが遅かった。
例えばネタ中盤で、女子学生を演じる西本に対して「なんで角刈りなんだよ」みたいなツッコミがあるが、これはもっと序盤に出してもよかったのではないか。途中かみちぃが髪の毛を解くシーンに対するフリとして、あるいはこれから西本が演じるおかしな役に対するフリとしてもっと先だしすべきだったんじゃないのかなあと思う。
そのほか「キモッ」とかなんとか、端的なコメントが多い分、もっと序盤から刻んでった方が良かったんじゃないかなあ。西本の動きがとろい分、ちょっと展開が重く感じた。
とはいえわかりやすい笑いのポイント作りとか、最後の海野が西本を引っ叩くところとかは面白い。91点。
●3番手 男性ブランコ
ほぼ初見コンビ。この前、なんかの番組で見た時は食道を詰まらせるほどのげぼが出そうなくらいつまんなかったけど、このネタは面白かったなあ。
明転して、まずツッコミの男がスポットライトに照らされて独白。何やら演劇っぽい掴みで緊張感。そこから、最初の大ボケ。小綺麗でおしとやか〜な服装をした細身の女。ボトルメールでやりとりをして、今日ようやく会う。どんな人なんだろう?……という暗黙のフリからの、「ほんま来てくれたんや〜」の爆発力。まさに緊張と緩和である。
そこからは、「早い電車」「通常のしこたまの2倍」と言ったワードボケ(こうしたワードはツッコミの方がしっかり被せててこういうところが上手いなあと思った)、「褒めても何も出んよ、出るのは昨日食べたたこ焼きだけ」と言ったベタネタ、さらには最後の予想を裏切る展開と、全く飽きさせない構成で素晴らしかった。
このネタを見て、果たしてコントに突っ込みは必要なのだろうか?と思った。明らかにボトルメールという概念と乖離するガサツな関西人女性、さらにいうならば、いわゆる「ブス」である。
そうした要素には全く反応せず、途中途中の小ボケ(ワードボケやベタボケ)にのみ辛うじてツッコミ様の反応をするネタだった。それでも起こる笑い。漫才はさすがに掛け合いが基本形になるので、お互いがボケていては話が進まない。しかしコントでは何より「絵面」の説得力がある。ストーリーの強さがある。一つの作品として、あくまでツッコミを委ねるっていうやり方があるんだなあと改めて思った。
95点。
●4番手 うるとらブギーズ
俺的に今決勝イチウケネタ。すごく面白かった。
迷子センターをテーマに、慌てまくる父親とあり得なさすぎる迷子のディテール、そして迷子センター担当の誘い笑いというのがこのネタの笑いどころだろう。
「ウケ」という意味ではこの決勝でトップクラスのウケを取れていたと思う。ケチをつけるならば、父親役の佐々木が慌てすぎてて聞き取れない箇所があったところかなあ。
また、名前の件はもうちょっと抑えて、例えばTOYOTAの靴、HEY YO!!のTシャツ、といったイメージ喚起要素をもっと強めてもいいんじゃないかなあと思った。
あと、「グレーのモッとした髪型、耳かきみたい、たんぽぽ」までは良かったんだけど、モーガンフリーマンはちょっと余計かなあ。結局大喜利的なボケで推していくネタなんだけども、モーガンフリーマンは手垢がつきすぎてて減点要素に感じた。TOYOTAの靴は意味不明すぎていいんだけど。
減点要素でいえば、あとは誘い笑いとツッコミのワードがちょっと余計なところか。男性ブランコと甲乙つけがたい。95点。
●5番手 ニッポンの社長
ここまでの流れでこのネタは、ちょっとトロい印象を受けた。
松本もコメントしていた通り、ちょっと展開がなあ。もっとケツが受ける球を増やしてリズム刻むとか、或いはもうひと展開欲しかった。
加えて、2人のコミュニケーションが物足りない。ケツ主導なのはしょうがないんだけど、辻が置き去りになっている感じがある。展開がない分、もうちょっとワードボケであったり、掛け合いによる笑いがあっても良かった。オチは好きなんだけどね。
なんとなくだけど、すでにあるショートネタを無理やり伸ばしたのかなあという印象も生まれてしまった。89点。
●6番手 そいつどいつ
同棲カップルの一幕。女の方が顔パックをしていて、それが怖いというのが着想なんだろうけども、その枠を超えられておらず、単なる日常を見ている感じがどうしても拭えなかった。
また、ツッコミのトーンがぶれすぎているのが気になった。「キモ」「こわ」に終始してもよかったのではないか。淡々とした言い振りでそこそこの量のツッコミをするのなら、ワードセンスが求められる。それを捻り出せないのなら、逃げてもよい。
オチも余計に思えた。舞台を縦に使うのはなんか新しい感じがしたけど、ただそれだけ。
ところどころの、床を拭くところでバタバタするところや、包丁を研ぐ音がホラーSEなのは面白かったけど。
88点
●7番手 ニューヨーク 80
ちゃらんぽらんなウエディングプランナー、という一言に尽きるネタ。一言で表現できるネタってどうなんだろうと思う。
いろいろとっ散らかって何やりたいのかわからない。「漫才でもできる」これに尽きるなあとつくづく思った。大喜利ラッシュのコントはもう時代遅れなんだな。2018かな?2017?かな?のm-1決勝で和牛がやったウェディングプランナーネタの劣化コピーとしか感じられなかった。ギャンブルの件も意味不明。このパート以降、もはやネタが空中分解している。
あと、屋敷のツッコミ。2019m-1の「最悪や!」事件以降、屋敷のツッコミはかなり一辺倒に感じる。尖った芸人アピールしてるのに結局松本のイエスマンなのダサすぎる。
80点。採点結果が出た後の平場もなんか寒かった。賞レースなんだから平場で目立ちまくろうとするなよ。
●8番手 ザ・マミィ
この決勝で、スタジオの審査員と自分の感覚が一番乖離したコンビ。
いわゆるホームレスなのか、頭のネジが飛んだ系なのか、障害者なのか(以下いったん「被差別者」とする)そういうオッサンに、青年が道を尋ねたり荷物を預かってもらったり、通常であれば「しないだろう」という行動を、「偏見」を持たないが故にとっていくというネタ。
ハッピーエンド的にしてるけど、コンプラ的にどうなんだろう? というのがまず気になった。被差別者に対する偏見あるいは差別を逆手に取ったと見えて、結局そういう人をダシにしているだけなのではないか。「この気持ちはなんだろう」って、被差別者が他者から優しくされたことがないってことか?なめてんの?
この点、全く「ブス」いじりをしなかった男性ブランコと対照的に感じた。ものすごい固定観念を感じてつまらない。笑いでオブラートに包めてもいないし、めちゃくちゃな毒で笑かせるわけでもない。手ぬるい。が故に今の時代にあってる感じ。
87点。
●9番手 空気階段 97
SMクラブに来た客が縛られて目隠しもされているところを火事が襲い、別の客に助けられる。その助けに来た客は消防士で、助けられた客は警官で、2人とも正義感にあふれており、縛られて半裸の状態のまま別フロアの救出にも行く、というどうしようもなくくだらないネタ。もちろんいい意味で。
ザ・マミィとの対比で考える。いわゆる「変態」とされる人を描きながら、全くその「変態」要素が捨象されている。マゾヒストの「ダメージに強い」という側面だけを切り出して笑いに昇華している。
ストーリー性、キャラ、動き、オチなどの要素どれを見てもほぼ完璧。加えて馬鹿馬鹿しさ。社交ダンス教室に半裸のドM(しかも消防士と警察官)が救出に入るシーンは本当に面白い。そして馬鹿馬鹿しいのに何となくカタルシスを感じらせる才能。97点。
●10番手 マヂカルラブリー
うーん。シャドウのネタの方が良かったんじゃないの?
ニューヨークと同じく、漫才でもできるのでは。村上が説明しすぎだなあと感じて、どうものめり込めなかった。野田クリが死んだというシーンもわかりづらいし。何よりセットが貧弱すぎないか。なんで机と椅子だけのセットにしたんだ。
87点。
さて、ここまでで1stステージの採点を終えたわけだが、並べてみよう。
空気階段 97点
男性ブランコ 95点
うるとらブギーズ 95点
ジェラードン 91点
蛙亭 90点
ニッポンの社長 89点
そいつどいつ 88点
ザ・マミィ 87点
マヂカルラブリー 87点
ニューヨーク 80点
松本人志のひそみにならい、今回は可能な限り各組の点差を付けようとしたが、難しいね、これ。結局全然できてないし。
さて、ここからはファイナルステージである。
●ファイナルステージ
・1番手 男性ブランコ
めちゃくちゃ菓子を買ったのにレジ袋をケチった男の話。
1本目のネタでは調和というかコミュニケーションが変に噛み合っていたが2本目はその真逆。終始、レジ袋をケチった側が的の外れたことを言っていく。その噛み合わないコミュニケーションが面白い。
面白いんだけど、展開がもう一つ、二つ欲しかった。1本目のネタが劇的すぎた分、物足りなく感じてしまった。キーホルダーの展開も、無理矢理に感じたかなあ。
92点
・2番手 ザ・マミィ
半沢直樹風の劇を脱臼していくネタ。このスタイルだといかに脱臼する前の緊張を高められるのかに尽きる感もあるが、序盤はそれが甘く、ありきたりな設定だなあと感じてしまった。
それが中盤以降、緊張度が高まっていき、どんどん面白くなっていった。その分1つの件にかける時間が長くなって手数が限られたので、違う形で何かできなかったかな。ただ、審査員の誰かも言っていた通り、義理の兄弟の件がちょっとかったるい。オチは読めたけど、俺は好き。
93点
・3番手 空気階段
かたまりの導入部が今時分あんまり見ないようなあまりにもベタな形だったので一瞬「ん?」と思ったが、もぐらの登場シーンが面白すぎる。1本目から、この2本目の掴みでもう優勝確定でしょう。
通貨の件やもぐらのキャラ、メガトンパンチマンの正体など、素晴らしい馬鹿馬鹿しさで空気階段らしさがあったネタだと思う。
97点
ここまでを総合して、空気階段が文句なしの優勝となった。空気階段は今大会の優勝候補の一角であったと思うが、その下馬評に違わず実力通りの力を見せての優勝だと思う。
俺が空気階段を初めて知ったのは、数年前のあらびき団での、箪笥の中に異空間があるネタだった。面白かったけど、なんか同じようなパターン(それこそ山内が言っていたように「止まった設定」)が多く感じて最近はそんなに注目していなかった。
決勝での2本のネタは、もぐらのキャラ頼みではなく、設定や展開などを総合して本当に素晴らしい出来だったと思う。
俺は本来、コントより漫才の方が好きだ。コントは設定とか出落ち頼みとかのものも結構あるから。しかし今回の決勝のネタは、いろいろと学ぶところがあった。また、審査員目線で見ると見えてくるものもあった。
あー、早くm-1見てえ。
(文責:ぺてん師)