郷土を好きになる感覚
「ここ、売ることにしたけん。
注文住宅が4軒建つと思うよ」
突然隣の家の方からそんな話を聞いた。
その家は古い平屋が建っており、
庭には50年は経つ桜や、あじさい、
彼岸花、金木犀、南天や水仙がある。
季節にはにぎわいと風情を出してくれる
数多くの植栽がある豊かな家だ。
椿も大量に成り、
椿油も取れる程だという。
まるで、
別荘の様な使い方ができ、
毎日横を通るたびに、
癒やされてきた場所だ。
そういえば、
持ち主がギャラリーとしても
活用してきた場所だ。
平静を装って会話をしているけど
あんまり気が利いたことも言えず、
「そうなんですか」しか言えなかった。
妻にすぐにLINEでメッセージをしたが、
ただただ事実を伝えるだけで
精一杯だった。
お金があったら買うのに、
とも思ったのだが、
そんなものはない。
家に帰って妻に、
「寂しくなるね~」とポツリとつぶやくと、「そうだよね」と答えてくれた。
同じ感覚だった。
ここで私は気付いたのだが、
この隣の家が好きだった。
無くなると知ってから、
今まで愛着を持って過ごしていた。
これに初めて気が付いたのだ。
しかしどうすることもできない。
庭から家が建つことを想像して
眺めているが、
全く想像できない。
今日も横を通ってみるが。
木々や草花はいつも通りだ。
来年この景色は変わるかも。
そう思うとスマホで残すのが
精一杯だった。