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パパと息子の寝かしつけ攻防戦

「顔がくしゃくしゃになってきた、
これではまた泣き出してしまう」

そう思った3秒後に息子は、
案の定泣き出してしまった。

さっきまでは
澄み渡る空の様な
穏やかな顔でいたのに、

むくっとベットから起きて、
顔をゆがめながら泣き出した。

その顔があまりにも
かわいくおかしかったので
ついスマホでカメラに撮り、
メッセージを添えて
妻や両親に送ってしまった。

「いかん、こんなことしてられん」

遊んでる間に
息子の目からは
涙が滝の様に流れ出し、
いっこうに止まる気配はない。

早く寝かしつけないと!

そんな焦りの気持ちと
もう少し見ていたいという
気持ちが心の中に
一緒に同居している。

泣きわめく息子をなだめながら、
よしよし、と体をさすってやる。

思わず「よしよし」と言っているが、
私の心中は穏やかではない。

さっきまで寝るかと思っていたのに
急に起きてしまったのは、
いきなり発生した嵐のようだ。

どうにか、泣き止んで
寝てくれないか!

と思った私は、
最終秘密兵器と言われている
反町隆史の「ポイズン」に
頼ることにした。

数々の赤ん坊を泣き止ませ、
世の中のママやパパを
救い出したという、
都市伝説にすがった。

救世主は意外なことに、
私のもつスマホの中にいた。

YouTubeを起動させ、
「反町隆史 ポイズン」とワードを
検索窓に打ち込む。

すると、
数々の伝説を打ち立てた、
何万回再生のエキスパート
反町隆史が現れた。

これで息子も私も助かる。
お昼寝という平和な時間が
迎えられると思った。

1番再生回数が多い
表示の画面をタップし、
救世主の登場を待った。

泣きわめく息子とは対象に
静かにイントロが流れ出し、
低音のベースが寝室に響き渡る。

おぉ、さすがは救世主だ!
これで私たちも救われる。

すぐに息子は聞き入るように
静かになり
元の穏やかな空の様になった。

このままリピートさせれば、
息子も寝てくれるに違いないと
スマホを持った瞬間、

再び空を雲が覆い
瞬く間に嵐が戻ってきた。

安心したのもつかの間。
すぐに息子は泣き出してしまったのだ。

もうだめだ。
私にはこの子を
泣き止ませる術はない。

諦めようと思った時に、
ふと、自分の幼少期の話を思い出した。

自分のほっぺの上にのせてくれ
一生懸命あやしてくれた母。

背中や足をさすって
横に寝てくれた父。

どちらも私が泣き止んで
寝てくれるまで付き添ってくれた。

そんな話を思い出した。

ならば、私のやることは1つ。
諦めずに息子に寄り添って
寝るのを待つまでだ。

足の下に私の手を入れ、
ふかふかの出来たてロールパンの様な
そのむにむにした足をさすってあげる。

覚えている限りの子守歌を歌う。
その時の心情は、

「早く寝てくれ」と言うより、
「大丈夫、ここに一緒にいるよ」だ。

自分の心も穏やかな空のような
気持ちにする。

息子はきっと寝てくれるし、
私も寝られる。

そう思いながら
なでなでよしよしする。

どれくらいの時間がたったか分からないが
息子はようやく静かになってきた。

寝るまでもうひと息だ、と
ひたすらなでなでよしよしする。

すっかり静かになり
なんとか息子は寝てくれた。

寝たのを確認して
部屋を出ようと思った瞬間、
またもや私をピンチが襲った。

私の手の上には、
今寝たばかりの息子の足がある。

この手を退かしてしまうと、
また起きてしまうのではないか?

またあの嵐のような空へ
逆戻りになるんじゃないか?

そう思うと、
この手をピクリとも動かせない。

自分の腕ごと石化されて
このまま息子が起きるまで
動かなせないんじゃないか。

そう思うと、
別の怪しげな空模様になってきた。

一体いつになったら
私の心に青空は戻るんだろうか?

こうしてても
状況は何も変わらないので、
意を決して
この左手を抜くことにした。

まずはイメトレだ。

ゆっくり引き抜こう。

テーブルクロス抜きのような
勢いよくはだめだ。

まずはパーにしている手を
グーにして様子をみる。

よし、
息子は寝たままだ。

今度はゆっくりと左手を抜く。

まだ大丈夫。

ネコが忍び足で歩くように、
ゆっくりゆっくり抜く。

指先の最後の段差で
ガタンとならないよう、
神経を集中させて抜く。

やった、ようやく左手を抜けた。
が、まだだ。
ラストミッションがある。

こっそり部屋を抜け出さなきゃ。

床は畳なので音はそんなに出ないが、
ふすまを開ける時、
閉める時にも注意深く動く。

忍者のように抜き足差し足忍び足。

よっしゃ~!
脱出成功だ!
ついに昼寝が出来る。

リビングのソファに寝転び、
吹き抜けの窓からは
空が見える。

私の心とおなじような
穏やかな青空が広がっている。

そんなことを思いながら
いつの間にか昼寝していた。

気が付けば、2時間くらい経った。
和室から息子の泣き声がしている。

「おはよう」と
ゆっくりと和室のふすまを開ける。

雨が降るように泣いていた息子は
私の顔を見るとにっこりと笑ってくれた。

その顔は今日1番の晴れ渡った空だ。
寝つくまでの嵐の気配はもうない。

息子をそっと抱きかかえ、
和室を出る。

オムツを取り替えて、
着替えさせる。

さあ、ミルクの時間だよ。

そう言うと、さらににっこりとした
笑顔をみせてくれた。

《おわり》





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