がんの骨転移について② 治療について
がんは「骨」にも転移することがあります。
いわゆる「骨転移」という状態です。
がんが「骨」に転移するということは、他の臓器に転移する場合に比べて、痛みがひどそうだったり、生活の質(QoL)が低下しやすかったり、残りの時間が少ないかもというようなイメージとつながっている場合が多く、「今回の検査で骨転移が見つかりました」という情報は患者さんにとってかなりのバッドニュース(悪い知らせ)になっています。
これは、その昔、我々医療者にとっても「骨転移」はかなり対処が難しい状態であったため、実際に他の部位への転移に比べて痛みのコントロールに難渋する症例が多かったり、生活の質(QoL)が低下する症例が多かったりという事実があったからかと思います。
また対処方法が限定されていれば、積極的に骨転移を発見しようという意識が薄れることは当然と思いますし、その結果、骨転移が発見されるのは痛みがひどくなったり、かなり進行してだれが見ても明らかな状況になったりしたときになるので、がん治療の最終段階で発見される事例が多くなっていたものと推察されます。
そのようなことは既に過去の話であり、最近は「骨転移」への対処方法が充実してきていること、その知識が拡がってきていること、様々な検査で発見することが容易になってきていることなどから、早期に発見される症例が圧倒的に増加し、痛みが出現する時期を遅らせたり、痛みが出てきた時点で素早く対処できたり、生活の質が落ちそうなことを予測して対応策を検討したりができるようになってきていますので、「骨転移」の悪いイメージは過去のものですよ!と胸を張っていえるようになってきたのではないかと考えています。
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▼骨関連事象(skeletal related event:SRE)
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骨転移に関して色々と調べていくと必ず行き当たる用語として、骨関連事象(skeletal related event:SRE)があります。
骨転移に関連して起こること(事象)なのですが、中身は色々とあります。
もちろん「痛み(骨痛)」などもそうですが、骨転移の部位に起こる「骨折(病的骨折)」や骨転移の増大に伴って脊髄を圧迫して手や足などがマヒしてしまうなども含まれます。
また、がんに骨が溶かされたりすることで骨のカルシウム分が血液中に溶け出し、血液中のカルシウム濃度が上昇する(高カルシウム血症)のもSREに含まれます。
さらに、骨転移に対して放射線治療を行ったり、手術を行ったりすることもSREとされます。
骨転移の治療は、このSREの発生を抑えることが目的とされます。
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▼骨転移の治療①:骨修飾薬
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骨転移の部位が痛くなったり、骨折してしまったりするのは、「がん」が直接その部分の骨を破壊するというよりは、もともと骨に存在する古い骨を吸収して新陳代謝を促す細胞(破骨細胞)が「がん」により必要以上に活性化してしまった結果と考えられています。
つまり、骨にいるがん細胞をどうにかするのではなく、この破骨細胞の過剰な働きを抑えることができれば骨関連事象(SRE)の発生は抑えられると考え、そのような働きをもったクスリが骨修飾薬です。
骨修飾薬は、骨粗しょう症治療にも使用され色々な薬剤がありますが、骨転移に使われるのはゾレドロン酸とデノスマブ(商品名:ランマーク)です。
いずれも副作用はそれほどなく、抗がん剤との併用もほぼ問題がないのですが、中・長期的な使用により顎骨壊死を起こすことがあるので注意が必要です。
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▼骨転移の治療②:放射線治療
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「外照射」と呼ばれる人体の外から放射線を照射する一般的なイメージの放射線治療は、骨転移そのものを治療するというよりは、痛みを緩和する治療と考えた方が間違いが少ないと思います。
骨転移は、1カ所だけのこともないことはないですが、多くの場合複数箇所に散在していることが多いです。
そして、複数箇所に散在している骨転移病巣を「外照射」で一つ一つやっつけていくということは難しいです。
何カ所かに散在している骨転移の全てが同時に痛くなることは稀(少なくとも私の20年以上に及ぶ経験ではありません)ですので、痛みがある部分だけを対象として、そこの部分の痛みを緩和するために放射線治療(外照射)が行われます。
多くの症例(約70%)で骨転移による痛みが緩和されるとの報告があります。さらに、骨転移による神経障害性疼痛も60%程度の症例で緩和されるとされています。
また、痛みの治療だけではなく、骨折の予防としても「外照射」が行われることがあります。
大腿骨転移に外照射を実施することで、多くの症例で手術を回避することができたとの報告があるようです。
さらに、背骨への転移の場合、時に背骨の中を通っている脊髄(手足などを動かすための神経)を圧迫してマヒを起こしてしまうことがあります。足などにマヒが起こってしまうとその後の生活に大きく影響を及ぼしてしまうため、そのような事態を回避するために外照射が行われることもあります。
以前はストロンチウム89(商品名:メタストロン)という、点滴で投与すると骨転移の部位に取り込まれ、放射線の一つであるベータ線が放出されるため、複数箇所に存在する骨転移病巣を一度に治療することが可能でしたが、数年前に製造中止になってしまい、残念ながら現在は使用することができません。
その後、似たような薬剤でラジウム223(商品名:ゾーフィゴ)が発売されましたが、現在前立腺がんの骨転移のみの適応であり、乳がんや消化器がん、肺がんなどの骨転移には使用することができないのが残念です。
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▼骨転移の治療③:整形外科的処置
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骨転移の部位に手術が行われることも近年増えてきました。
これは抗がん剤治療が効果的になり、一昔前より長期的なスパンでその方の生活を考えて行くことが必要になったからと考えられています。
特に骨転移が急速に増大し脊髄を圧迫してマヒが進行してきているような状況の際に、放射線治療も有効な場合が多いのですが、速度的に間に合わないと思われるような場合も経験します。そのようなとき、整形外科で颯爽と手術してもらえると惚れ惚れします。
手術までは必要がなくても、動作により骨痛が増悪してしまう場合、コルセットなどの装具を使用することで、痛みや骨折のリスクを軽減しながら動作が可能となり、QoL維持・回復につながることも多々経験されます。
僕は行ってもらった経験に乏しいのですが、骨セメント充填術(経皮的椎体形成術)という方法で骨転移の痛みを軽減する事も可能です。がんの転移により椎体(背骨)が潰れてしまった(いわゆる圧迫骨折の状態)ところに局所麻酔下に骨セメント製剤を注入するようです。骨粗しょう症による圧迫骨折にも実施されているようです。
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▼まとめ
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前回の最後に、今回の治療編は「骨転移があっても大丈夫!」って思ってもらえるようなお話になればいいなぁ~って書きましたが、どうでしたでしょうか?
骨転移の治療としては取り上げませんでしたが、もちろん「抗がん剤治療」も骨転移に対して有効なことが多いです。しかし、既に痛み(骨痛)が出ている状況で、抗がん剤が効いてくるまでガマンするというのはお勧めできず、痛みの治療は痛みの治療でまずは別に考えた方が得策です。
抗がん剤治療をうまく継続するためにも、上手に骨転移と付き合うと言うことが大切だと考えています。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
また次回もどうぞよろしくお願いいたします。
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