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がんと『悪液質』

『悪液質』という言葉をご存知でしょうか?

がんが発見される症状の一つに、食べているのに体重が減ってくるというのがあるのを知っている方もいらっしゃるかもしれません。
別にダイエットしているわけでもなく、普段通り食べているのに体重が減ってくるという状態です。
そのような症状で病院に行くと、色々と検査をされます。
もちろん「がん」以外の病気だったりすることもあります(病気でないこともあります)が、「がん」と診断される場合もあります。
この体重減少は、「がん」の影響と考えられます。
「がん」が成長するためにカラダの栄養を使用するからだとか、「がん」からサイトカインと呼ばれる物質が放出されるためだとか言われています。
さらに「がん」が大きくなって、影響力が強まってくると、体重がより減ってきたりするのに加えて、食欲が落ちてきたりします。
さらにさらに「がん」が進行してくると、体重の減少幅が大きくなり、見た目にも痩せが目立ってきたりします。痩せが目立つのは、筋肉が減ってきてしまうのも原因です。

「がん」が進行して、食欲不振などのがんによる症状に加えて、大きな体重減少や筋肉量の減少が起こってきている状態を『悪液質』と呼んでいます。
正確には、5%以上の体重減少か、2%以上の体重減少に筋肉量の減少(サルコペニア)を伴う状態が『悪液質』と定義されています。

『悪液質』の状態から、さらに進行してしまうと、「不応性悪液質」という段階になります。
「不応性悪液質」に至ると、日常生活に支障をきたすくらいの体調になってしまいますし、抗がん剤治療を行っても効果が得られにくくなってしまったりします。
「不応性」というのは、抗がん剤治療に不応だけではなく、栄養療法などほかのがん治療にも不応などを表しており、進行を抑制すること自体が難しい予後不良な状態とされています。
ですので、「不応性悪液質」に至る前にがん治療を行うことが重要と考えられています。

とはいえ、「不応性」に至る前の『悪液質』の状態でも、既に栄養をうまく活用することができず、栄養サポートを行っても体重減少が抑制できないと言われています。
つまり、『悪液質』の状態だと、頑張って食べても体重が減ってしまいますし、点滴などで補給しても効果が得られにくいため、時間経過とともに状況が悪化してしまいます。
そのような体調の良くない状況下で、抗がん剤治療などを受けねばならず、もともとの体調不良に加えて、抗がん剤治療による副作用でより体調を悪化させてしまい、抗がん剤治療を継続することが難しい場合もたびたび経験します。

このように、対応が難しかった『悪液質』ですが、いよいよ治療薬が登場しました。
アナモレリン(エドルミズ®)というクスリです。
今のところ、非小細胞肺癌、胃癌、膵癌、大腸癌の4種類のがんによる悪液質にのみ使用が限定されていますが、この4種類のがんで悪液質が起こりやすいため、「がん悪液質」の方の多くが使用可能であると考えられています。

アナモレリンは、
●食欲中枢を刺激して、食欲を増進させる
●脳下垂体から成長ホルモンの分泌を促す
この二つの作用があります。
成長ホルモンは、肝臓でインスリン様成長因子-1(IGF-1)という物質が作られ、これにより筋肉量が増えるとされています。
実際に臨床試験においては、除脂肪体重の増加が認められました。
また、食欲に関する質問票では、「食欲があるか」「食事を楽しめるか」「体重は減っていないか」の問いに対してプラセボと比較して有意にスコアが改善していました。

以前から、体重減少や筋肉量が減少している症例では、それらがない人に比べて、がん治療における予後が悪いことが知られていました。
副作用がでやすかったり、がん治療がうまく継続できなかったりしてしまうのが大きな理由と考えます。

そこで、アナモレリンで『悪液質』の状態を改善させながら、つまり体重減少や筋肉量低下を改善しながら、がん治療を行うことで、これまでよりもがん治療の成功確率が上昇することが期待されていますし、結果としてがん患者さんの予後が改善することにも期待がかかっています。
まだ直接的にそのような効果を実証した結果は出ていないようですが、これから臨床で使用された経験が蓄積し、効果が証明されていくことに期待したいと思います。

今回は、がん悪液質とそれに対する新しいクスリが出ましたよってお話でした。

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