
がんと『検査値の見方』④(好中球/リンパ球比:NLR)
『検査値の見方』も4回目になりました。
これまで、
●検査項目ごとの意味
●推移(時系列)で見ることの大切さ
などをお話ししてきました。
今回は、2つの項目の比率を考えていきたいと思います。
比率=割り算してみるということですね。
悪玉コレステロールと呼ばれるLDLと善玉コレステロールといわれるHDLという検査項目があります。
悪玉が少なく、善玉が多ければ良さそうですね。
LDLやHDLはよく検診などでもチェックされるので、ご存知の方も多いのではないでしょうか?
LDLの基準値は、70~139mg/dLですので
140mg/dL以上だと高いと判断されます。
HDL値は、40mg/dL未満だと低いと判断されます。
LDL値が高いと、動脈硬化が進行し、その結果として心筋梗塞や脳梗塞を起こすリスクが高くなるとされています。
そのため、以前はこの悪玉コレステロールといわれるLDLの値が低くなればOK!といわれておりました。
しかし近年、LDL値が正常範囲内の方でも心筋梗塞になってしまう方がいることがわかってきました。
また、善玉コレステロールであるHDLが多ければ大丈夫と考えられていたのですが、多くても動脈硬化を起こしてしまう方がわずかながらいます。
ですので、単純にLDL値が低いとか、HDL値が高いから大丈夫とは言えなくなってしまったわけですね。
そこで新たな判断基準として、「LH比」というものが提唱されました。
「LH比」とは、LDLコレステロール値÷HDLコレステロール値のことです。
LDL値=135mg/dL
HDL値=45mg/dL の場合、
LH比は、135÷45=3.0となります。
各基準値からすると、LDLもHDLも正常範囲内なのですが、
LH比が2.5以上の場合動脈硬化や血栓のリスクが高いとされており、他に病気がない方は2.0以下に、高血圧や糖尿病がある方は1.5以下にLH比を下げられるよう、LDL値をもっと下げるか、HDL値をもっと上げるかを目指しましょうと指導されます。
ちなみに、LDL値を下げるには、
①そもそも食べ過ぎない(腹八分目)
②コレステロールの多い食品(鶏卵・魚卵や脂身など)を減らす
③コレステロールを減らしてくれる食品(植物性蛋白質、水溶性食物繊維など)を多くとる
④血液中のLDLコレステロールの酸化を防ぐ(禁煙、ビタミンCなどをとるなど)
一方、善玉HDLコレステロールを増やすには、適度な運動(有酸素運動)が効果的です。
このように、各検査項目の数値だけではなく、比率を考えてみるとよりよい場合があります。
「がん」の場合でお勧めな比率は、
好中球リンパ球比(Neutrophil-to-Lymphocyte Ratio: NLR)です。
好中球は、特に抗がん剤治療を受けていると担当医などからよく聞くと思います。
「今日は好中球が少ないから、抗がん剤の投与はお休みした方がいいね」とかですね。
リンパ球は、担当医によっては重要視されている方もいらっしゃいますが、好中球よりは話に出てくることが少ないのではないかと思います。
リンパ球も白血球の一部で、Bリンパ球やTリンパ球、NK(ナチュラルキラー)細胞などが含まれます。俗に言う、免疫力を担当している細胞です。
好中球もリンパ球も、多ければ良いように思われますが、
特に好中球が多すぎる場合は、注意が必要です。
例えば細菌感染などが起こっている可能性があります。
また、がんから顆粒球増殖因子様物質が放出され、それに反応して好中球が増えていることがあります。
そういうことがなくても、「がん」自体が慢性的な炎症を引き起こし、様々なサイトカインと呼ばれる物質が放出されるなどした結果、好中球数が上昇し、リンパ球数が低下するという状況に陥りやすいです。
通常、好中球は白血球の約50%程度、リンパ球は30%程度ですので
好中球リンパ球比は、50÷30≒1.7くらいになるのですが
「がん」が進行し炎症が強くなってくると、先ほど書いたように、好中球数が上昇(50→60%)し、リンパ球数が低下(30→20%)し、
好中球リンパ球比(NLR)の数値は高くなる(60÷20=3.0)ことになります。
NLRの数値をいくつに設定するかは、論文によって様々ですが
大腸がんの手術前のNLRが4以上の高値群は、低値群に比べて全生存期間や無再発生存期間が短くなり、予後の予測因子として有用であるとの報告があります。
(https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/gakkai/sp/jss2012/201204/524446.html)
このような報告は、大腸がんのほか、胃がん、肝臓がん、乳がん、膀胱がん、非小細胞性肺がんなどでもなされています。
また、最近ですと自分の免疫細胞を活用してがん治療を行う免疫チェックポイント阻害剤の効果とNLRの関係が注目されています。
免疫チェックポイント阻害剤であるニボルマブ(オプジーボ®)を進行胃がんに投与する場合、投与前のNLR値が高い症例は早期に増悪してしまうという報告がされています。(がんナビ:https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/cancernavi/news/201901/559506.html)
NLR値が高いとは、つまりリンパ球の割合が低いということであり、ひいては免疫力が低い状態と言えると思いますので、もともと免疫力が低い方に免疫力を使った治療は効果が出にくいという結果は、「それはそうだよね!」って印象です。
では、リンパ球を増やす(NLR値を低くする)にはどうしたらいいのでしょうか?
リンパ球数が減ってしまう一番の原因は、栄養不足とされています。
抗がん剤治療を受けていると、吐き気や食欲不振などの副作用のため、栄養が不足しがちになります。副作用が抜けてくるとまた食べられるようになるため、短期的には取り戻しているようにみえますが、長期的にみるとわずかずつ不足が積み上がっていくようで、徐々にリンパ球が減ってしまう方が多いです。
進行胃癌の場合、ニボルマブ(オプジーボ®)の出番は3番手(三次治療)になることが多いです。
ニボルマブ(オプジーボ®)を使用する時点で、1年以上抗がん剤治療を続けられている方も多く、ちょっとずつのマイナスが積み重なり、いざニボルマブという時に、リンパ球が疲弊してしまっていることも多いです。
「じゃあ、もっと早く使ったらいいじゃん!」ってみんな考えると思います。
肺がんではすでに1次治療で抗がん剤と併用して使用されることが増えてきておりますが、胃がんでもそろそろ1次治療で使用できるようになりそうです。
(ケアネット:https://www.carenet.com/news/general/carenet/51355)
米国では、2021年4月の時点でFDAが承認しているようですね。
(がんナビ:https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/cancernavi/news/202104/569965.html)
■まとめ
検査項目単体では問題なくても、比率が重要な場合があります
「がん」においてはNLRをチェックしてみましょう!
抗がん剤治療中は、リンパ球が減らないような努力は必要!
最後までお読みいただきありがとうございました。
また、次回もお会いできるのを楽しみにしております。