“これが最善” がん治療の選び方 その5-3
「がん治療の選び方」、特に進行がんにおいて、抗がん剤治療を勧められた時にどうすればいいのか?について考えてきています。
今回も、「治療を選択したら、それで終わりじゃないですよ」というお話しのつづきのつづきです。
「つづき」ですので、最初にこちらにたどり着いてしまった場合にはお手数ですが前々回分から(お時間があれば『その1』から)ご覧いただけますと大変嬉しいです。
最後までお読みいただけたら嬉しいのですが、“予後”や“死”に関する話題が含まれていますので無理なさらずにお願いいたします。
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▼治療選択後に後悔しないようにするには
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色々考えた末にようやく治療を選択したものの
「あとは担当医に任せてやってもらうだけだ」と考えていると、失敗したり、後悔してしまうことがよくありますので、そうならないようにしていくことが肝要です。
よくある失敗例として、
①やはり副作用が大変だ
②残念ながら効果がでなかった
③担当医とあわないから、変更してほしい
以上の3つを挙げ、これまで①~②についてお話ししましたので、今回は③について考えていきたいと思います。
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▼ダメ出しされたようで、落ち込みます?
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「担当医を変更したい」という相談はよくあります。
僕が担当していた患者さんからも、他のドクター・別の病院に変更したいという申し出を受けたことは何度もあります。
このような申し出があると、昔は「自分の何が悪かったのだろう?」と地味に傷ついていたのですが、他のドクターから私に変更になる人もそこそこいて、変更したかった理由を聞いてみると(こちらから尋ねなくても多くの人が初回に教えてくれますが)、それはもう人それぞれであります。
「担当医と合わない」という人もいらっしゃいますが、「曜日が都合悪くなった」、「男性(女性)がいい」、「年配のドクターがいい(若いドクターはイヤ)」(逆もあります)など、担当医からはどうすることもできない理由も多々ありますので、それがわかってからは「あまり気にしなくていいんだ」と考えるようになりました。
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▼一般的には40%超らしい
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ある調査によると「担当医をかえて欲しい」と要望されたことのあるドクターの割合は、44%ほどとのことである。
私の主観ですが、腫瘍内科医の90%以上は担当医をかえて欲しいと言われた(直接ではないかもしれないが)経験があると思う。
実に倍以上!!
一般的なドクターに比べて、それほど腫瘍内科医は人間ができておらず、「このドクターとは合わない」と思われやすい集団なのだろうか?
そうではないと信じたいが、自分は大丈夫かについて、一度はきちんと考えた方がいいかもしれない。
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▼なぜ担当医変更が多いのか?
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人間性的には腫瘍内科医と一般のドクターは基本的に変わらないとしたら、どうして腫瘍内科では患者は担当医を変更したがるのでしょうか?
その理由としては、下記のいずれかに該当することが多いように思います。
・治療方針の不一致
・説明不足(して欲しい説明がない)
・説明過剰(予後など、そこまでは聞きたくなかった)
・いつも●●(不機嫌、忙しそう、ぶっきらぼう等々)
他にも様々な理由があるのだと思いますが、これらはいずれも「建て前」、つまり表面上の理由にすぎないのではないかと私は思っています。
では、「本当の理由は?」というと、「他のドクターに診てもらった方が治療がうまく行きそうだから」ではないかと考えています。
基本的に治療がうまく行っている時に担当医を変更したいという人はおらず、治療が効かなかった時や副作用が大変だが思うように対応してもらえない時などのタイミングで相談されるケースがほとんどだからです。
普段は担当医の言動にガマンしているけど、がん治療までうまく行かないのであれば「もうガマンも限界だ!」という話ではないかと思っているということです。
とはいえ、腫瘍内科で担当する患者さんの多くは進行がんのため抗がん剤治療を受けている人であり、その中のほとんどの人はいつかは抗がん剤が効かなくなる時がきてしまいます。
つまり、腫瘍内科では治療がうまく行かない(途中までうまく行っていたが効かなくなった)」場面が、他の診療科に比べて圧倒的に多く、「治療がうまく行かないのは担当医が悪い。担当医を変更すれば次の治療はうまく行くはず!」という論理で一部の人が担当医の変更を希望するのだと思っています。
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▼担当医が代われば治療はうまく行くのか?
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手術がいいのか抗がん剤治療がいいのか?
抗がん剤ならどれを使用するのがいいのか?
これらの治療方針が担当医ごとに異なるかといったら、ほとんどの場合「No(いいえ)」です。
一昔前ならいざ知らず、近年は「ガイドライン」が充実していますので、その「ガイドライン」に沿って治療が行われます。「ガイドライン」に沿えない特殊ケースは、カンファレンスなどで相談して方針が決定される病院がほとんどでしょう。
つまり、同じ病院で治療を受ける限り、担当医を代えても治療方針は同じになります。
そして、担当医が代わっても、同じ抗がん剤が使用されるのであれば、期待される治療効果は同じでしょう。
副作用マネジメントに関しても、ガイドラインや参考書が充実したことで、かなり担当医間の差異が少なくなりました(昔は結構あったと思います)。また、最近はこの分野での薬剤師さんの活躍がめざましく、担当医が対応しきれない部分を補って、対処方法を提案してくれるようになっていますので、益々医師間格差はなくなりつつあるかと思っています。
私の結論としましては、「治療効果は担当医に依存しない」としたいと思います。
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▼確率的に、期待に応えるのは難しい
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残念ながら遅かれ早かれほとんどの人に、抗がん剤が効かなくなる日がきてしまいます。
抗がん剤が効かなくなるのは、担当医のせいではないし、抗がん剤の選択が悪かったわけでもありません。どの抗がん剤を選んでも、いつかは訪れる結末です。
「担当医が勧めた治療が悪い」「そもそも担当医が悪い」だから担当医を変更したいと希望されても、次に担当するドクターは大変です。
たとえ最良の選択をしたとしても、いずれは効かなくなる治療です。
さらに、一次治療よりも二次治療、二次治療よりも三次治療の方が有効性が低下する場合が多いので、二番手の担当医はそもそもより良い結果を出すことがとても難しい状況であるにもかかわらず、「あいつに任せたのが失敗だった。あなたには期待している。」と言われても、「俺に任せておけば大丈夫!」なんてとても言えません。
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▼自分には何ができる?
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抗がん剤の選択も間違いではない。担当医も悪くないとしたら、何が悪かったのでしょうか?
実際には、どこにも「悪者」はおりません。
強いて言えば、「他人任せにした自分」ということになるかもしれません。
「副作用が思いのほか大変だ。担当医は当てにならない」→「自分で何とかするしかない!」
「腫瘍マーカーが上がってきているようだ。担当医は仕方がないと言っている。」→「自分で何ができるか、調べてみよう。」
このように担当医任せにせず、自分でできることを考えて、とにかく試してみる。
「人事を尽くして天命を待つ」(私が最も好きなことばです)
自分でやれることはやった。やりきった。そう思える状況であれば、結果がどうであっても、選択した治療に後悔をすることはないのではないかと思います。
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▼まとめ
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どんながん治療を受けるかを決める(治療法を選択する)のはとても重要なことですが、僕は選択した「その後」の方が重要だと思っています。
どんなに良い苗やタネを植えても、その後ほったらかしにしていたら、育たずに枯れてしまうでしょう。
がん治療も同じようなものだと僕は考えています。
選択した治療方法が、最終的に大きな実をつけるのか、途中で枯れてしまうのか?
自分でコントロールできる部分をしっかりとコントロールしていけば、きっと大きく育ってくれます。
たとえうまく育たなくても、その経験は次のチャレンジに活きることでしょう。
その選択が正しいかったのか、間違っていたのか?
間違っていた場合に、もう一方を選択したら正しかったのか?(どちらも間違いという場合もあり得る)
と後悔するのではなく、「反省」していけるといいのだと思います。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
また次回もどうぞよろしくお願いいたします。