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がんと『効果判定』

がんばってやった抗がん剤が、効いたのか?効かなかったのか?
抗がん剤治療を受けている方にはとても興味があるところかと思います。
しかし、実際にどう判断しているか(されているか)を知っている方はとても少ないのではないでしょうか?
医者からCT検査などの説明の際に
「効いている」と言われれば「効いている」
「効いていない」と言われれば「効いていない」
という状況の方が大半なのかなぁ~?って思っています。

身体の表面から見えたり、触ったりできる「がん」であれば、大きくなった、小さくなったはすぐにわかりますが、多くの「がん」は身体の内部に存在しますから、多くの場合CT検査などで判断されます(白血病などの血液腫瘍はCTで判断できないので、別の方法が必要です)。

治療前のCTであった「がん」が、治療後のCTできれいさっぱり消えてなくなっていれば、「効いた!」と言えるのはどなたも異存はないと思いますが、
大きくはなっていないが小さくもなっていない、いわゆる「横ばい」であれば「効いている」といえるのか?
微妙に大きくなっていたらどうなのか?
など、一般的考える「抗がん剤が効いた状態」ではない結果になる場合の方が、現実的には多いです。

これらを医師だからといって、主観的に「効いた」「効かない」としてしまうと、微妙な変化の場合、ある医師は「効いている」と判断したのに、他の医師は「効いていない」と意見が分かれてしまう結果を招きかねません。
効果があるのであれば、現在の抗がん剤を継続するし、効果がないのであれば抗がん剤の変更を考えた方がいいかもしれませんから、効果があったのかなかったのか?は治療方法の選択にも大きく影響してきます。

ですので、我々は効果を一定の指標に従って判断するようにしています。
臨床試験で効果判定に使用されている「RECIST(Response Evaluation Criteria in Solid Tumors)」(レシストって呼ばれています)を、日常の診療でも使用していることが多いです。
このRECISTに従うと
腫瘍がすべてなくなれば、「完全奏効:CR」
腫瘍径が30%以上縮小すれば、「部分奏効:PR」
マイナス30%からプラス20%までを「安定:SD」
20%以上の増大を「進行:PD」
と、効果を4段階に分けています。
腫瘍は、まん丸(正円)ではなく、楕円形に近いことが多いので、腫瘍径という場合には、長い方の長さをはかります。
また、1個ではなく複数個ある場合には、それぞれの長さをはかって、足し算します。
そして、治療前の長さと治療後の長さを比べて、どのくらい変化したかで効果を評価します。
その結果、CR、PR、SDの場合は治療効果あり
PDの場合は効果なしと判断します。

ここまではOKでしょうか?

では、腫瘍の大きさが計測ができない場合はどうでしょう?

がんを手術した後に、再発を予防するために行う抗がん剤治療を術後補助化学療法と言いますが、この場合には目に見えるサイズの腫瘍自体がないため、大きさを測定することはできません。
ですので、術後補助化学療法の場合は、その抗がん剤治療が効いたのかどうかの判断はとっても難しいです。
目的が、がんの再発予防ですから、残念ながらがんが再発してしまったときには「効果がなかった」となります。
じゃあ、再発しなければ効果があったと言えるかというと、そうでもないのです。
そもそも、がんの手術後に術後補助化学療法を行わなくても再発しない人がそれなりにいます。
つまり、術後補助化学療法をしたからがんが再発しなかったのか、しなくても再発しなかったのかは「神のみぞ知る」という状況なのです。
だから術後補助化学療法はしなくてよいということでは決してないのですが、
効果があったのかどうかという質問には答えるのが難しいのです。

つまり、抗がん治療の効果があったかどうかを判断するためには、何らかの指標が必要だということです。

では、その方にとって、抗がん治療の効果があったのか?なかったのか?についてはどうでしょうか?
その方の人生において、抗がん剤治療を行って良かったのかどうか?ということです。
僕はCT検査ごとに行う効いた効かないの評価より、こちらの方がよほど重要だと思っていますが、こちらの評価はとても難しいです。
なぜなら、指標がないからです。術後補助化学療法の場合と同じですね。
臨床試験であれば、「全生存期間が延長した」などの指標があり、その指標をクリアすればよいわけですが、「ある一人のヒト」にはそれはたぶん当てはまりません。
例えば、「この治療の全生存期間は1年です」と説明を受けてその治療を受けた場合、1年以上生存できたらその人は満足か?というと、きっと満足ではないと思うんです。
1年たった時点で、もっと生きたい。もっと、もっと・・・ってなりますよね。
当然だと思います。
しかし、人間ですからいつまでも生き続けられるわけではないです。それは「がん」でなくてもです。これも当然です。
どちらも当然のことなのですが、共存できない『当然』なのです。

その結果どうなるかというと、
「この治療の全生存期間は1年です」と説明を受けて、抗がん剤治療をはじめ、最終的に5年生きられた、10年生きられたとしても、亡くなるときには「満足だ!」とはならないのではないかと思います。

結論としては、
進行がんだから、抗がん剤治療を行うというのではなく
抗がん剤治療を受けて、どうなったら治療の効果があったのか?
どうなったら満足か?
をきちんと考えてから、つまり指標を定めてから、治療を始めたほうが良いですよというお話でした。

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