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マスク着用に関する議論はデメリットも考慮されるべきである

「マスク着用に感染を予防する効果はあるのか」という論点は比較的よく示されますが、「マスク着用におけるメリットとデメリットはどちらが勝るか」という論点はあまり見受けられません。しかしながら、マスク着用を推進するためには、その効果だけでなくデメリットを上回るメリットを提示するのが妥当です。そこで本記事では、マスク着用のデメリットを指摘し、マスク着用の効果を複数の論文から検証していきたいと思います。

マスク着用のデメリット

マスク着用のデメリットは大きく分けて2つ挙げられます。

1. 酸素濃度の低下

1つ目のデメリットは酸素濃度の低下です。地球の空気中の酸素濃度は約21%、人間の吐く息の酸素濃度は約15%です。したがって長時間のマスク着用を続ければ、マスク内の酸素濃度は低く保たれるでしょう。酸素濃度の低下による自覚症状が出始めるのは酸素濃度16~18%以下と言われており、頭痛、めまい、吐き気などが症状として現れます。

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出典:森の里ホームズ


マスク着用による酸素濃度低下については、以下の記事が分かりやすく説明してくれています。


また、マスク着用におけるデメリットを検証した論文は非常に少ないですが、2020年にドイツで「子供のマスク着用に対する影響」を調査した論文が発表されました(査読はまだ行われていません)。この研究では20353人が参加し、25930人の子供に対してオンラインアンケートでの調査が行われました。その結果が以下です。

The average wearing time of the mask was 270 minutes per day. Impairments caused by wearing the mask were reported by 68% of the parents. These included irritability (60%), headache (53%), difficulty concentrating (50%), less happiness (49%), reluctance to go to school/kindergarten (44%), malaise (42%) impaired learning (38%) and drowsiness or fatigue (37%).
出典:Research Square

筆者和訳:(子供たちの)マスクの平均着用時間は1日に270分であった。保護者の68%がマスク着用による障害を報告した。その内訳は、易怒性(60%)、頭痛(53%)、集中困難(50%)、幸福感の低下(49%)、学校への倦怠感(44%)、不安感(42%)、学習への障害(38%)、眠気または疲労(37%)であった。
※易怒性⋯些細なことですぐ怒りを露わにする性質。


さらに、ベルギー医師団の公開書簡においても同様のことが述べられています。

Wearing a mask is not without side effects. Oxygen deficiency (headache, nausea, fatigue, loss of concentration) occurs fairly quickly, an effect similar to altitude sickness. Every day we now see patients complaining of headaches, sinus problems, respiratory problems and hyperventilation due to wearing masks. In addition, the accumulated CO2 leads to a toxic acidification of the organism which affects our immunity. Some experts even warn of an increased transmission of the virus in case of inappropriate use of the mask.
出典:DOCS4 OPEN DEBATE

筆者和訳:マスク着用に副作用がないわけではない。酸素濃度低下(頭痛、吐き気、疲労、集中力低下)はかなり早くに訪れる。これらは高山病による影響と類似している。マスク着用を原因とする頭痛、鼻に関する症状、呼吸に関する症状、過換気症候群(ストレスなどの原因で呼吸過多になる症状)を訴える患者を私たちは毎日目にしている。さらに、蓄積された二酸化炭素は有毒な人体の酸化に繋がり、免疫にも影響を与える。専門家のなかには、不適切なマスクの着用によってウイルス感染が拡大することを警告する者もいる。

このように、マスク着用による酸素濃度低下は、多くの症状を伴うことが分かっています。特に、成長段階である子供や、体の機能が低下する高齢者においてはその症状が顕著に現れるでしょう。


2. 口呼吸の増加

2つ目のデメリットは口呼吸の増加です。マスク着用が原因で口呼吸が慢性化し、免疫力が低下する恐れがあります。マスク着用がなぜ口呼吸に繋がるかというと、以下の理由が挙げられます。

理由の1つとして挙げられるのは、マスクをつけていると呼吸そのものがしづらいということ。〔中略〕冬場なら顔を覆うマスクは体を温めてくれるのでいいですが、夏は逆効果。脳の温度を指し示す“脳温”が42℃を超えたら命の危険が生じてしまう。鼻呼吸は体温を下げませんが、口呼吸は体温よりも低い温度の空気をそのまま体に取り込み、熱を体外に逃がしてくれるため、自然と口呼吸をするようになってしまう。
出典:介護ポストセブン「『マスクで口呼吸』の弊害 免疫力低下、扁桃腺炎…認知症を招くことも」

つまり、マスクが口呼吸を促進するのは、マスクをした状態では口呼吸のほうが楽であり、マスク内の温度も下げてくれるからです。


しかし、口呼吸よりも鼻呼吸のほうがウイルス感染に対して効果的であるのは明白です。なぜなら、鼻呼吸にはウイルスを防ぐ効果があるからで、鼻呼吸によって得られる効果は下記のように様々です。

フィルター効果:鼻毛や粘液鼻毛でウイルスや大きめのほこりはブロックされます。また、粘膜からはネバネバした粘液が出てチリや細菌、ウイルスを絡めとります。
加温・加湿効果:毛細血管どんなに乾いた冷たい空気を吸い込んでも、鼻の中に張り巡らされた毛細血管によって、喉の奥にくる頃には体温近くまで温度が上昇します。また、湿度も80~85%に上昇します。このため、ウイルスにとって生存しにくい環境になります。
殺菌効果:副鼻腔副鼻腔では常時、一酸化窒素が産生されているのです。一酸化窒素は殺菌作用があるため、気道を清浄に保ち、病原菌などから体を守ってくれます。さらに、一酸化窒素が肺に運ばれることで、肺と心臓の血液循環の一助にもなります。
出典:大阪府豊能町の保健センター

このように、鼻呼吸にはウイルスを防ぐための機能が複数存在するにも関わらず、マスク着用によって引き起こされる口呼吸はそれらを全て無視してしまいます。これが、口呼吸によって免疫力が低下する理由です。

みなさんも、マスクを鼻まで覆って長時間過ごしてみると、口呼吸をしていることに気付くと思います。それがどの程度ウイルス感染に悪影響を与えるかについては、考えたことがないのではないでしょうか。


マスク着用の効果についてのエビデンス

では、マスク着用はデメリットを上回るほどのメリットが検証されているのでしょうか。結論から言いますと、マスク着用の効果を検証する論文は多々発表されていますが、その調査結果が一致していないのが現状です。


科学的根拠のエビデンスについて

まず最初に、科学的根拠のエビデンスレベルについて説明します。
Wikipediaより、根拠に基づく医療(evidence-based medicine, EBM)のエビデンスレベル分類表を引用しました。上から順に科学的根拠としての信頼性が高いものを示しています。

1a ランダム化比較試験のメタアナリシス
1b 少なくとも一つのランダム化比較試験(RCT)
2a ランダム割付を伴わない同時コントロールを伴うコホート研究(前向き研究、prospective study, concurrent cohort study)
2b ランダム割付を伴わない過去のコントロールを伴うコホート研究(historical cohort study, retrospective cohort study)
3 症例対照研究(ケースコントロール, 後ろ向き研究)
4 処置前後の比較の前後比較、対照群を伴わない研究
5 症例報告、ケースシリーズ
6 専門家個人の意見(専門家委員会報告を含む)
出典:Wikipedia

※メタアナリシスとは複数の論文を解析し、結果をまとめたもの。
(その他の研究方法について詳しく知りたい方はこちらのページを参照してください)

以上を踏まえて、マスク着用の効果を示す研究論文を見ていきます。


Nonpharmaceutical Measures for Pandemic Influenza in Nonhealthcare Settings—Personal Protective and Environmental Measures
(非医療現場においてのインフルエンザパンデミックに対する公衆衛生上の対策ー個人予防策と環境予防策)

この論文は、インフルエンザ感染に対する予防策を複数のランダム化比較試験から検証したものです。つまり、エビデンスレベルとしては最上位(ランダム化比較試験のメタアナリシス)に位置します。
インフルエンザと新型コロナウイルスは両者ともに「飛沫感染、空気感染、接触感染」が主な感染経路であると考えられており、インフルエンザウイルスに対するマスクの研究は、新型コロナウイルスに当てはまる可能性が高いと考えられます。結論部分は以下です。

In our systematic review, we identified 10 RCTs that reported estimates of the effectiveness of face masks in reducing laboratory-confirmed influenza virus infections in the community from literature published during 1946–July 27, 2018. In pooled analysis, we found no significant reduction in influenza transmission with the use of face masks
出典:CDC Nonpharmaceutical Measures for Pandemic Influenza in Nonhealthcare Settings—Personal Protective and Environmental Measures

筆者和訳:私たちのシステマティックレビューでは、1946年から2018年7月27日に発表された、集団内のインフルエンザウイルス感染におけるフェイスマスクの有効性を見積もり報告した10個のランダム化比較試験を確認した。累積された論文の中で、私たちはフェイスマスクの着用によるインフルエンザウイルスの伝播において、有意な減少を発見しなかった。

この論文の結論:集団内でインフルエンザウイルスの感染を防ぐために、マスク着用に有意な効果は見られなかった。


A cluster randomised trial of cloth masks compared with medical masks in healthcare workers
(医療従事者を対象とした布マスクと医療用マスク集団のランダム化比較)

この研究は、ベトナムのハノイにおける医療従事者1607人が参加したランダム化比較試験です。そのうち、580人が医療用マスク群、569人が布マスク群、458人がコントロール群(マスク着用を含む通常通りの集団)に、ランダムに振り分けられました。そして、マスク群の参加者には4週間連続で全てのシフトにおいてマスクを着用してもらい、それぞれの集団内でインフルエンザの症状などが確認された割合を検証しました。その結果が以下です。

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出典:BMJ Open A cluster randomised trial of cloth masks compared with medical masks in healthcare workers

【補足】
・CRI⋯Clinical respiratory illness(呼吸器に関する2つの症状、または呼吸器に関する1つの症状と全身の症状)
・Virus⋯検査によって確認されたウイルス
・ILI⋯influenza-like illness(38度以上の熱と呼吸器に関する1つの症状)
・棒グラフは左から順に布マスク群、コントロール群、医療用マスク群。

この論文の結論:布マスク群、コントロール群、医療用マスク群の順番でインフルエンザ発症の確率が高かった。その理由としては、布マスクが粒子透過率97%、医療用マスク44%だったことが挙げられる。布マスクは医療現場などのリスクが高い場所では推奨されるべきではない。


Physical distancing, face masks, and eye protection to prevent person-to-person transmission of SARS-CoV-2 and COVID-19: a systematic review and meta-analysis
(身体的距離、フェイスマスク、目の保護による人から人へのSARS-CoV-2とCOVID-19の伝播の予防:システマティックレビューとメタアナリシス)

この論文は、メタアナリシスとシステマティックレビューを用いてSARS、MARS、COVID-19に関する172個の研究を解析し、身体的距離、フェイスマスク、目の保護の効果を調査した壮大なものです。しかし、そのなかにランダム化比較試験は含まれておらず、44個の非ランダム化試験が含まれています。

ここで留意しなければならない点があります。

一つ注意して欲しいのは、エビデンスレベルが一番高いのは「ランダム化比較試験」のメタアナリシスという点です。
つまり、観察研究や単軍試験をいくらメタアナリシスしても、エビデンスレベルが高くなりません。
出典:いちばんやさしい、医療統計「エビデンスレベルをわかりやすく!医療研究デザインで結果の信頼性が変わる」

すなわち、この論文はメタアナリシスではありますが、ランダム化比較試験のメタアナリシスやランダム化比較試験よりは信頼性の劣るものとなっている点に注意が必要です。

この論文の結論:フェイスマスク着用はCOVID-19の感染リスクを大きく減らすだろう。


Respiratory virus shedding in exhaled breath and efficacy of face masks
(呼気に含まれる呼吸器ウイルス排出量とフェイスマスクの効果)

この研究では、従来のコロナウイルス、インフルエンザウイルス、ライノウイルスの感染者をコントロール群とマスク着用群にランダムに振り分けて、飛沫やエアロゾル中に含まれるウイルスを観察しました。結果的に111人からサンプルが得られています。
被験者の飛沫を採取する方法としてGesundheit-IIという装置が使われました。

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出典:EurekAlert Collecting Exhaled Breath from Flu Patients Using the Gesundheit II Machine (IMAGE)

参加者にはこの装置の中に30分間入ってもらい、いつも通り呼吸し、いつも通りに咳もしてもらいました。そして、マスク非着用の参加者とマスク着用の参加者における飛沫およびエアロゾル中のウイルスの検出を試みました。

この論文の結論:フェイスマスクは旧型コロナウイルスとインフルエンザウイルスの症状を伴う感染者からのウイルス伝播を防ぐだろう。

しかし、この研究をよく見ると

【旧型コロナウイルス感染者】
コントロール群:10人中3人の飛沫、4人のエアロゾルにウイルスが確認。
マスク群:11人の中で飛沫やエアロゾルにウイルスが確認された者はいなかった。
【インフルエンザ感染者】
コントロール群:23人中6人の飛沫、8人のエアロゾルにウイルスが確認。
マスク群:27人中1人の飛沫、6人のエアロゾルにウイルスが確認。


となっていて、たしかにマスク着用によって排出するウイルスを減らすことができそうです。しかし、この研究はGesundheit-IIという装置の中で30分間ウイルスを集積し続けた結果であり、実際の生活環境とはかけ離れている可能性が高いです。
さらに、Gesundheit-II内でマスクをせずとも50%以上の感染者の飛沫とエアロゾルからウイルスは検出されませんでした。症状を伴っている感染者においてさえも、です。

飛沫を防ぐためにマスクをするという主張は、飛沫にウイルスが含まれていることが前提です。しかし、症状を伴っている感染者でさえも飛沫中にウイルスが含まれている人は半分以下でした。そうであるならば、健常者がマスクをすることで飛沫を防ぐことに意味はあるのでしょうか。



その他のマスクに関する研究については以下が参考になります。


無症状感染者は感染源になりえるか(補足)

「新型コロナウイルスは他のウイルスと違って無症状感染者が感染を広めるからマスクが必要だ」という主張があります。
これについては、ロックダウン後の武漢で行われた研究が参考になります。

Post-lockdown SARS-CoV-2 nucleic acid screening in nearly ten million residents of Wuhan, China
(ロックダウン後の中国、武漢における約1000万人の住民を対象としたSARS-CoV-2の核酸スクリーニング)

この論文において以下のことが書かれています。

The screening of the 9,865,404 participants without a history of COVID-19 found no newly confirmed COVID-19 cases, and identified 300 asymptomatic positive cases with a detection rate of 0.303 (95% CI 0.270–0.339)/10,000. 〔…〕A total of 1174 close contacts of the asymptomatic positive cases were traced, and they all tested negative for the COVID-19.
出典:Nature Communications

筆者和訳:COVID-19を発症したことのない9865404人に対してスクリーニングを実施したところ、新規感染者は発見されず、300人の無症状感染者の陽性が確認された。1万人に0.303人の確率である(95%の信頼区間で0.270-0.339)。その無症状感染者との濃厚接触者1174人が追跡されたが、全員がCOVID-19について陰性だった。

したがって、無症状感染者(ウイルスを保持している健常者)は感染源になり得ないということがわかります。つまり、無症状感染者は感染性がないのでマスクをする必要がありません。
※ただし、発症前の状態はウイルス量が増加するので感染源になる可能性があります。


マスク義務化後のアメリカ(補足その2)

アメリカのいくつかの州では、マスク義務化が開始されています。
Justin Hart氏によると、マスクの着用を義務化した州とそうでない州の10万人あたりの陽性者数を比較した場合、マスク着用義務化の州で27人、そうでない州で17人の陽性者が平均で確認されているそうです。
※期間は5月1日から12月18日

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出典:Justin Hart

マスクを義務化した州のほうが陽性者数が多いということですが、これは相関関係であるので、マスク着用によって感染が拡大したとまでは言えません。しかし少なくとも、マスク着用によって感染が防げるわけではないということが言えるでしょう。


結論

以上より、複数の論文のエビデンスレベルに基づくと、マスク着用によって感染を防ぐことができる可能性は低いと言えます。
さらに、マスクのデメリットに関する研究はあまり見受けられません。そのため、マスク着用による感染予防効果がマスク着用のデメリットを上回ることを示すのは難しいと考えられます。
私の見解ではデメリットのほうが大きく、健常者がマスクをする必要はないと考えています。特に、電車で一人のときなどの喋らない場面でマスクをする人がいますが、する必要性はありません。


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