巧妙なるサイン

東京から戻った三日後の日中の事だった。
私は、不意にムスメの父親の事を思い出していた。

(そういえば、あの人は今頃どうしているんだろう?
何処かでお元気に暮らしているのかしら?)

未練でもなんでもなく、ただそれだけが頭に浮かんでいた。
ムスメの父親は、私が二度目に結婚していた人だ。
彼は音楽が好きな人で、カラオケも得意で、当時はよく子供たちも連れて皆んなで歌いに行ったものだった。
元夫がカラオケで毎回必ず一曲は歌っていたのが、あるミュージシャンAの曲だったのをなぜか覚えていて、その時も、

(Aの曲って私はよく知らないけど、あの人はいつも歌っていたなあ・・・。
同じ出身地だから?今思えば、ファンだったのかな?)

そんな事をぼんやり考えているうちに、

(そういえば、あのAって、本当の死因は何だったんだろうか?)

と、今度はAという一人のミュージシャンのことを考え始めていた。

Aといえば、ギタリスト。
このバンドがまだ駆け出しの頃に、テレビ番組に出演していた頃から知ってはいたが、当時はこのバンドの曲は聴かないようにしていたぐらい、ロック好きな私でもジャンル的に彼らの音楽は好きではなかったし、Aに対しても全く興味が無かった。

ただ、亡くなったあの当時のシーンだけは鮮明に脳裏に焼き付いていた。
私は最初の結婚生活を送る中、長男を身籠もっていて、あの日は義父が運転する車の中にいた。
カーラジオからAの死の報道を耳にし、思わず大声を上げて驚いたのを覚えている。
ファンではないにせよ、彼はあまりにも有名な存在だったので、その突然の死にとても驚いたのだ。
その時は、自◯したと報道されていた。

不思議な違和感を覚える死の真相と共に、私の記憶からその場面だけは消え去ることがなかった。

そして、あれから24年後の昼下がり、私は突然、あのAのことが気になって仕方がないという状態に陥ったのだ。

そして、気がつくとYouTubeの検索バーで初めて「A」と入力した。

(えっ?待って!「A」とか検索してる!私どうしちゃったんだろう?え?なんで?)

心の中の私が驚いている。
そこで初めて彼の姿や楽曲に触れた。

気がつくと、私は夢中で彼の映像をいくつもいくつも観続けていた。
そして、ステージ以外で外を歩いている彼の姿を観ながら、

(私、この人がもし生きていて出会えてたら、彼の世界観をすごく理解できたと思うし、めちゃくちゃ仲良くなれる自信がある!)

根拠もなく、そう思った。

没後24年目にして、今からファンになろうとしている自分に頭の中は激しく抵抗した。

(やっぱり私、どうかしちゃったのかも・・・。あんな夜中に高速を運転したりしたから?もしかしたら、どなたか彼のファンで亡くなった方にでも憑かれたのかも・・・。)

そんな失礼なことまで考えてしまっていた。

まさか私がAのファンになろうとは・・・。
それでも、毎日毎日彼の映像を観ては泣いていた。

そんなある日の夜、久しぶりに九州の知人からメールで連絡があり、たわいもないやり取りをしながら、私はここ数日に起きている事を話してみた。

私「なんか、この前東京行って帰ってからおかしくて。
やられてるのかな?
没後20年以上も経ってるというのに、Aの事が気になって仕方がなく。。
全然ファンでもないのに。
命日でもないし。
死んだ人の事が気になるとは。」

そんな内容を知人に送って、眠りについた。
その翌朝、珍しく知人から早い時間に連絡がきた。

知人「朝、仕事でPCに向かっていて、ふと思ったんですが…
ruriさん、Aのファンでもないのに気になるって…もしかして、Aさんが何か伝えたいことあって、ruriさんにコンタクト?とろうとしてるとか…!?」

えっ!!まさか!!!
私の中に、そんな発想は全く無かったので、逆に新鮮な響きだった。
いや、あのAさんが私とコンタクトを取りたい??
それが本当だとしたら、一体なぜ?

私は、一つ仕上げなくてはいけない仕事があったので、ひとまずそちらから取り掛かることにした。
仕事の依頼者の方は・・・Aと同じ出身地の方だった。

これはもう、間違いなくサインだ。
私は、あちらの世界にいると思われるAという人に意識を向けてみることを決意した。

(続く)









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