「野獣列車」移民支援のボランティアに行ってきた
30年間 寄付だけで運営される慈善団体「パトロナス」
先週、移民支援のボランティアに行ってきた。メキシコ・ベラクルス州にある「パトロナス(Las Patronas)」という団体で、メキシコでは有名な移民支援団体だ。地元のおばちゃんたち15人ほどで運営され、主にアメリカを目指す移民たちへの食料支援などを行っている。
パトロナスの事務所のすぐ裏には線路が通っており、ここを「野獣列車」と呼ばれる貨物列車が通る。中米・南米からやってきた移民たちがこの野獣列車に乗っていてパトロナスのおばちゃんたちは彼らに食料の袋や水のペットボトルを手渡しする。
メキシコ政府や州からの金銭的支援は一切なく、女性たち自身の持ち出しと寄付だけで運営されているという。にもかかわらず来年には活動開始から30年目を迎える(1995年設立)というから、パトロナスの継続力は驚異的だ。彼女たちはキリスト教への信仰心がとても強く「移民を助けたい」という純粋な意思で活動を行っている。
「食料投げ入れ」と「宿泊施設の提供」
パトロナスには重要な機能が2つある。1つは野獣列車に乗る移民たちへの食料の手渡し(あるいは投げ入れ)、もう1つはパトロナスを歩いて訪れる移民たちへの宿泊場所の提供だ。僕は1週間滞在してみて後者の方がより重要な活動だと感じたが、そのことは別の記事に詳しく書いてみたい。
ここでは野獣列車への食料の手渡しをどのように行っているかについて触れてみたいと思う。
命の危険をはらむ「野獣列車」とは
メキシコには貨物列車のネットワークがあり、南部のチアパス州から北部のアメリカ国境まで延びている。この貨物列車には主に中米からアメリカを目指す移民たちが乗っていて、彼らが北を目指す重要な手段になっている。この列車が「野獣列車」(La Bestia)と呼ばれている。
今回パトロナスを訪れるまで、僕は野獣列車は乗客を乗せる旅客車なのだと完全に勘違いしていた。実際に見てみると完全に貨物列車だ。
移民たちは、車両と車両のわずかな隙間や、屋根の上に乗っている。当然、不安定な場所なので長時間つかまっていれば落ちるリスクもあるし、照りつける太陽によって熱中症にもなる。実際に車両から落ちて列車にひかれ、手足をなくす移民もたくさんいるという。それでも無料でアメリカ国境まで行けるのは移民たちにとっては魅力的なのだろう。
かつては中米(グアテマラ、ホンジュラス、ニカラグア、エルサルバドル)の移民が大半を占めていたが、近年はベネズエラなど南米からの移民が増え、さらに最近は中国やアフリカ、アフガニスタンからやってくる人もいるという。
移民の命綱となる食料と水
パトロナスの施設の横を野獣列車が通るのは1日に2〜3回程度だ。遠くから列車の音が聞こえると、線路までの50メートルほどの距離を、みんなで食料を持って走っていく。そして列車に乗っている移民に見えるように袋を大きく振ってアピールする。
列車の運転手が気付いて速度を落としてくれる場合、移民たちに食料袋を手渡しできる。
屋根の上に乗っている移民には袋を投げて渡すのだが、手渡しよりも非常に難易度が高い。一度、他のボランティアが投げた袋を移民がキャッチできず、僕の頭に缶詰入りの袋が直撃し、めちゃくちゃ痛かった。
ほとんどの移民は十分な食料を持っておらず、ここで受け取る食料が久しぶりの食事となる人も多い。また照りつける強烈な太陽によって熱中症に近い症状になっている移民もいて、われわれに「水をくれ!」と叫ぶ。まさにパトロナスの食料と水は移民たちにとって命綱となっている。
食料を渡すためのさまざまな工夫
移民に渡すビニール袋には、パン、フリホーレス(小豆を煮込んだもの)、魚の缶詰が入っている。毎日、おばちゃんたちやボランティアで、この袋詰めの作業を行う。
列車は通り過ぎる時に速度をゆるめてくれることが多いが、止まってくれるわけではない。そのため、移民の人たちがつかみやすいように、ビニール袋の持ち手をなるべく長くして縛る。水のペットボトルも2本1組で縛り、ひもの部分を移民がキャッチできるように工夫している。
以上がパトロナスが毎日続けている活動だ。
ただ、おばちゃんたちはこれが本業というわけではなく、自分の仕事・育児・家事の合間をぬってこの活動を30年間続けている。本当に頭が下がるし、敬意という言葉ではとても言い足りない。なんてすごい人たちなんだと思う。
パトロナスの活動を説明するだけでだいぶ長くなってしまったので、次の記事で移民たちを危険にさらす列車事故、犯罪組織、腐敗した軍・警察について書いてみたいと思う。